ランプの魔人、カスハラ勇者に出会う
少年はランプをこすった。というかランダムボックスから出てきたのを手に取ったらこすれたというのが正確なところだったが、こすった事には変わりない。そんで、出てきた。魔人が。
「はーっはっはっは!わたくしはランプの魔人!あなたの願いを3つかなえましょう!さあ、なんでも言ってください!どんな願いでもかなえてみせましょう!」
「お、おおっ?!ランプの魔人だって?」
「はい!その通り!さあ、願いをどうぞ!」
絵にかいたように圧が強めの魔人に対して少年は驚きながらも早速願いを口にする。
「えーと、願いをまずは一億個に…」
「願いを増やすのはダメです!3つだって言ってるでしょ!」
「じゃあ、一生俺に仕えてお願いをかなえ続ける…」
「同じ事ですよ!私を一生仕えさせるなんてダメです!」
「なんか制限多いな。なんでもって言ったくせに…」
ぶつぶつと文句を言っている少年の後ろから狼型のモンスターが不意打ちしてくる!が、魔人の拳によって狼型モンスターはブッチュと頭をつぶされて一瞬にして絶命する。
「あぶないところでしたね。さあ、早く願いを言ってください。私はあなたの願いを3つかなえないといけないのですから」
「えーと、願いをかなえるまでは今みたいな感じなるのか?」
「うわっ、悪い顔していますね!ちょっと、そういうの反則ですからね!」
「最強のボディガードか…」
少年のつぶやきに魔人は焦る。こいつはヤバい。本来ならこれほどのサービスは反則なのだが極上の餌をまいてさっさと願いをかなえてしまおう。
「いやいやいや、そうじゃないでしょ?それならあなた自身が強くなればいいでしょ?この世界の魔王くらいならワンパンで倒せるくらい強くしてあげますからそれでいいでしょ?」
「うーん、それなら一生俺のボディガードしてくれるとかは?」
「一生系はダメって言いましたよね?!私、言いましたよ!」
濃い顔をずいっと近づけてくる魔人を少年はうるさそうに手で払う。
「わかった、わかった。ちゃんと聞いているから。ちょっと言ってみただけじゃないか」
「…そもそもあなた何をしている人なんですか?そこから願いのヒントを考えましょう」
「えーと、勇者だけど?」
「勇者!?あの魔王を倒すあの勇者ですか?」
「そう、その勇者。なんか神託で選ばれたみたいで。魔王を倒すために旅立たされたんだよ。ここは最初の洞窟だな」
「なんで最初の洞窟で『魔人ランプ』なんて超絶レアアイテムを引いてるんですか!」
「いや、それは俺は悪くなくね?ランダムボックスに入ってたんだから仕方ないだろ」
悪びれない少年に魔人は頭を掻きむしりながらわめく。
「ランダムボックスで私が出る確率1兆分の1ですよ?!どーなってるんですか!」
「運が良かった」
魔人の嘆きを「運が良かった」の一言で片づける少年。
「…わかりました。どうもあなたは自分で魔王を倒すのも面倒みたいだし、私が倒しましょう。それが1つ目の願いでいいですね?」
「いや、俺の願いを勝手に決めないでくれる?もっとちゃんと考えるから」
「でも、勇者なんですよね?それなら3つの願いのうち1つくらいは魔王を倒すのに使っても罰は当たりませんよね?あと2つは残るんだし、1個はこれしましょう!」
たたみかけるように言いながら、強引に願いを言わせようとする魔人に少年は待ったをかける。
「だけど俺の扱いも酷かったんだぞ?俺は勇者に選ばれた瞬間に町から追い出されたんだから。ほら、勇者の町って魔王に襲われがちじゃん?町が襲われてから旅立つパターン。そうならないためにあらかじめ町から追い出されたんだよね」
「…初めてあなたに同情しましたよ。それなら気は進みませんが町の人たちに復讐しますか?いろんなパターンをご用意できますけど」
「いや、さすがにそこまでの恨みはないからなあ。みんなの気持ちもわからないでもないし」
煮え切らない少年に魔人はさらに大サービスの提案する。
「じゃあ、こうしましょう。魔王なんて余裕で倒せる旅の仲間を用意しましょう。力最高、魔力最高、剣も魔法使えて、回復魔法に補助魔法も全種類使えて、なおかつあなたの命令に絶対忠実で、あなたの身の安全を最優先で守って、手柄も全部あなたにゆずる!さらにオマケに超絶美少女であなたに超好意を持っている!それでちょっとおバカ。これで文句ないでしょう!」
「いや、知らない人と旅するのって気をつかうから…」
「気をつかう?あなたが?」
「人間相手にはな」
「ひどい!魔人差別ですか?!そもそも人間だれしも最初は他人でしょ?旅の間に仲良くなってよろしくやってくださいよ!相手は最高の美少女であなたに好意は持ってるんだし、やる事やっていいですから!」
「いや、俺、彼女いるし…」
「彼女が…いる…?」
「なぜそこで引く。ていうか今まで一番引いてないか?」
少年の衝撃発言に魔人は一瞬気を失うが、何とか意識をとり戻す。
「…わかりました。じゃあお金でいいでしょ。あっても困るもんじゃないし。ほら、この世界の富の半分をあげますからそれでいいですね?」
「いや、それじゃあ経済が混乱するだろ。一個人に世界の半分はやり過ぎだろ」
「変なところで正論言わないでください!だったらいくらだったらいいですか?いい値を渡しますよ!頭のよろしいあなたならわかるでしょ!ちょうどいい金額!」
逆切れし始めた魔人に少年は冷静に答える。
「いや、金はいい。俺、実家太いし。一応この世界の三大商人の息子だから」
平然と言う少年に魔人はハンカチーフを噛みながら血の涙を流し始めている。
「憎い、お前が憎い」
「まあ、落ち着け。お前もランプの魔人なら俺が欲しがるようなモノをプレゼンしてみろよ。俺に願いたいって思えるような願いを考えてみるんだ。」
「あー、そうですねえ。わかりました。考えてみましょう」
そう答えながら魔人は悪い顔になっている。
「あっ、言っておくけどわざと俺がピンチになるように仕向けてそれを助けるように願わせようとしても無駄だからな。お前が自発的に助けると信じて俺は助けを願わないから。絶対に」
『絶対に』に力を込めて言う少年。
「わかってますよ~。そんなことするわけがないじゃないですかあ~」
舌打ちしながら笑顔で答える魔人の姿はさながら嫌な客に絡まれた店員の様だったという。
*
三ヶ月後…。
「貴様が勇者か!よくも我が四天王たちを…ぶべっ」
魔王は一撃で頭をつぶされて昇天させられる。奇しくも部下たちと全く同じやられ方だ。
「邪魔者がいなくなったところで…さあ、勇者さん!今日こそはあなたが願いたくなるような願いを私は用意してきましたよ!尋常に願って頂きましょう!」
「ふーん、まあ言ってみれば?」
「ふっふっふ。そんな顔をしていられるもの今のうちですよ今日のはスゴイですよ~。勇者さんもビックリです!」
「そう言ってスゴかった試しがないんだが」
「今回の提案は、こちら…」
…この後なんやかんやありましたが、いつも通りダメでした。
こうして魔王は滅び世界に再び平和が戻った。神託通り勇者は魔王を倒した?のだ。
しかし、ランプの魔人が勇者の願いをかなえるのはまだまだ先のお話。
完
なんか魔人の方が押し売り店員ぽくなりましたね…。
いや、ホント、何を書いているんでしょう私は。連載の『勇者の考えは謎の吹き出しで全部筒抜け』から来られた方がいたらわかってください。つまり作者はこういうのが書きたい状態だったのです。
ヤバいですね。悪い意味で。でも、もう大丈夫です!連載の方もちゃんと書きます。