2話
「ご飯ないならうちで食べますか?」
「え?」
(何言ってんだ俺、ろくに話したこともない異性の家
なんか行きたくないだろ)
「あ、いや、ろくに話したことのない相手の家で
ご飯なんて食べたくないですよね、忘れてください」
そう言って立ち去ろうとすると、
「メ……は?」
「め?」
「メニューは?」
「今日は卵と鶏肉が安かったので親子丼ですけど」
「お、親子丼、美味しそう」
「えっと、来ま……」
「いく」
食い気味に返事した先輩に少し驚きながら、
「わかりました、なら行きましょうか」
10分ほど歩いたところにある自宅に着いて
「ただいま」
「お、お邪魔します」
「今から作りますので先輩は適当にくつろいで
いてください」
「わかったわ、あとなんとなくそんな気はしてたん
だけど水瀬くんって一人暮らし?」
「そうですよ、やっぱり僕1人しかいないのは
嫌でしたか?」
「そういうことじゃない、ただ、部屋が綺麗だなぁ
と思って」
「あー、まぁ掃除は嫌いじゃないのでこまめに
やってますからね」
「偉いなぁ、私とは大違いだ」
先輩が小声で何か呟いたので、
「どうかしましたか?」
「なんでもない、それよりも親子丼早く食べたい」
「わかりました」
「ねぇ、作ってるとこ近くで見ててもいい?」
「いいですけど、くつろいでてもいいですよ」
「ううん、みていたいの」
「わかりました、あ、卵プルプルの方がいいですか?」
「プルプルにできるの?」
「できますよ」
「じゃあプルプルでお願い」
「わかりました」
「どうぞ、あったかいうちに食べてください」
「お、美味しそう、いただきます」
そう言って親子丼を一口食べた先輩はしばらく
黙っていたが、先輩の瞳からは涙がこぼれた
「え、ごめんなさい、美味しくなかったですか、
すぐ作り直しますので、あの、」
「違うの、こんなに美味しいご飯食べたの
久しぶりだったから」
「え?」
「さっきね、私いつもは料理してるって言ったけど、
あれ嘘なの、実は私、料理できなくて、
でも両親は海外に居て一人暮らしだから作って
くれる人もいなくていつもコンビニかスーパーの
お弁当だったの、だから」
「そうだったんですね」
(薄々分かってはいたけど、先輩、料理できないん
だな、というかさっきの嘘で騙せていると
思ってたのか?もしかして先輩って意外とポンコツ?)
「誰かとご飯食べるのもこんなに美味しい
ご飯食べるのも久しぶりだったから」
「幻滅したよね?、私学校では完璧って言われてる
けど全然完璧なんかじゃないから」
「幻滅なんてしませんよ、人間できないことが
あるのは当たり前ですから」
「え?幻滅しないの?嘘ついて前貼ってたのに」
「そんなことで幻滅なんてしませんよ、隠したいこと
くらいみんなありますから」
「ありがとう、水瀬くん、私をご飯に誘ってくれて
ありがとう」
そう言って笑った先輩を見て、
(色んな人が先輩のこと可愛いって言う理由がわかる
な)
「冷めないうちに食べましょう」
「うん」