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「あ、あのね、実はね…恋人ができたの」
その言葉に、そのたった一言に、雷に撃たれたかのように身体が動かなくなった。
「だから、部屋の確認はもう大丈夫。い、いままで迷惑かけてごめんね…」
「…ああ、そう」
あまりの衝撃にただそれしか言えなかった。
そういえば最近呼び出しの電話が来ないなと話を振ってみたら、想像もしてなかった答えが返ってきて何を言えばいいのかわからなかった。
本当はその後に、転校とか引っ越しの提案とかそういう会話をするはずだったのに、そんなもの全部吹っ飛んでしまって。
いつの間にか会話が終わっていて、いつの間にか授業も全部終わっていて、いつの間にか自分の部屋にいて、いつの間にかベッドに倒れこんでいた。
それを疑問に思うまでもなく、突然吐き気が襲ってきて手洗いに駆け込む。吐いて、吐いて、吐いて、胃の中身が空っぽになるまで吐いたけど、吐き気は収まらなくて。
…お前、僕じゃなかったのかよ。どうせ、ちょっと優しくしてくれたからって適当なやつに…引っかかったんだ…
違う。違う。あの女の気持ちにもその相手にもなぞ興味ないのだ。あの女の気持ちがどこに向いていようと僕になにも関係ないし、僕の心は揺れ動かない。だって、僕はあの女になんの興味もなくて、あの女なんかどうでもよくて…あんなのは所詮道端の蠅で…
__苦しい。
いくらはいても、薬を飲んでも、考えても天井はぐるぐると周り続けている。
死んでしまった方がマシなのではないかと思うぐらいに苦しい。
本当に、たかがカヨコのあんな一言で僕は何を動揺しているのか。
彼女に恋人が出来たことがショック?そんなわけがない。僕が、僕が、あの母の息子たる僕があんな惨めで不細工な女に好意の欠片すら抱くとでも?ありえない。そんなこと許されるわけない。
じゃあ、だったら、どうして、なんで…
…簡単だ。
面白くないのだ。あの女が少しでも幸せになることが。なにを忘れているのか。
"あの女は不幸だから面白い"、ずっと前からわかってたことじゃないか。不幸になればなるほど面白みは増していき、幸せになればなるほど面白みはなくなっていく。あの女が面白くなくなったら、毎日がつまらなくなる。
幸せになった分、もっと不幸にしてやらないと。
今の幸せを奪うだけじゃ少しも足りない。幸せになったことを後悔するぐらいの不幸を。