卒業式の日に~ゆいこのトライアングルレッスンM~
三年生の卒業式が終わった。オレ、たくみが二年の教室に戻ってくると、先輩のところへ挨拶に行った生徒も多いらしく、人が疎らで話し声が小さくざわめいている。
そんな中、てっきり教室にはいないだろうと思っていた人物を見つけたオレは、彼女が窓から外を眺めているのに眉をひそめた。
彼女――ゆいこから離れた窓辺に近寄って下を見下ろしてみると、案の定そこにはひろしがいた。先ほどまでの卒業生代表の凛々しさから一変、数人の女子に囲まれて困っている様子だ。学ランのボタンが一つもないところを見ると、既に女子達に毟り取られた後なのだろう。
ゆいこの顔を見遣ると、彼女は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
(……全く、世話の焼ける)
オレは密かに溜め息を吐いて、ガラリと窓を開けた。
「おーい、ひろし! 相変わらずモテモテだな!」
大きな声に女子達が睨んできたが、それはまあいつものことだ。上を向いたひろしが不本意そうな顔をする。
「な、ゆいこ。ひろしの奴、羨ましいったらありゃしねえ」
「え、あ、うん……そうだね?」
急に水を向けられて、ゆいこが戸惑うように言う。
ひろしは変わらず不服げに口を開いた。
「お前達は、お世話になった先輩のところへ行かなくていいのか?」
「オレ達、別に部活にも入ってないから、そういうのいないし。な?」
「う、うん」
ひろしが女子に囲まれているところを見てしまって、動揺しているのだろう。ゆいこにいつもの覇気がない。
仕方がないから、後で三人で予定しているひろしの卒業祝いの時に隙を見て二人きりにしてやるか。
オレは知っているのだ。ひろしが第二ボタンだけは先に外して隠し持っていることを。そして渡したい誰かさんがいるのに、中々勇気が出ないでいることも。
(本当に、世話が焼ける)
胸の奥の鈍い痛みは見て見ぬ振りをして、オレは肩を竦めた。