ダラーという男
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「「楽しい旅を」」
そんな言葉と共に、オレたちの後ろで衛兵が敬礼した。
ガラガラガラ
大きな音を立てて目の前を馬車が通り過ぎて行った。
俺たちは中央都市ダリアへと足を踏み入れたのだった。
すごい、本当に都市に来たんだ。
中央都市ダリア。
この国ジルフィードで最も栄えている都市。
オレは現実的な子供だったと思う。
他の子どもが木の枝を振り上げて空想の魔王と戦っている間、村長の家に入り浸って本を読み漁っていた。
生きていくためには空想の魔王に勝つ力よりも、食べられる植物の見分け方の方が大切だと気が付いていたから。
それでも幼心から染みついた世界へのあこがれは、俺も気が付かないような心の奥底でくすぶり、
静かにその火を燃やし続けていたようだ
オレは今、その火と蓄え続けた知識を存分に発揮して都市を満喫していた。
有体に行ってしまえば、超テンションが上がっていた。
「な、なぁあれ、馬車だよな!」
「ああ」
「こ、この並んでるのってまさか明かりか!?夜になったら一斉に点けるんだよな!?」
「……ああ」
「おい、あの店の野菜めちゃくちゃ高いぞ!物価が違うって言ってたけどまさかここまでだなんて」
「……おい。落ち着け」
「……ご、ごめん」
気が付くと八百屋のおっちゃんがすごい目でオレをにらんでいた。
しまった……。
あわてておっちゃんに手を合わせると、ザラに追いつくため駆け出す。
「ふむ、まぁ、年相応に生きるのも大切なことだ」
「悪かったからやめてくれって」
追いついたオレへの言葉。
まるでオレがガキみたいじゃないか。
さっきの行動は否定はしないけど。
でも誰だって本で読んな憧れの世界に来たらテンションが上がるはずだ。
本で読んだ世界がそのまま目の前にあるんだぜ?
オレが顔を背けながら返事をすると、ザラはすこし優し気に目を細めながら笑う。
「心を封じ込めぬこと。殻をかぶらず、型にもはめず、常に自由であることを忘れてはいけない」
「……」
お前らしくあれ、そう伝えてくるザラの言葉。
何だってんだ。
あ、すごい!魔道具が露店で売られてる!
そんな調子であちこちに目をやり、ふらつきながら大通りを進んでいく。
と、前を歩いていたザラがふと右に曲がった。
大通りからわき道にそれ、さらに2,3度曲がって細道へと入る。
そうしてザラは一軒の店の前で足を止めた。
その店はそんな細道に建っていた。
店はこれといった特徴がなく、周りの建物に紛れている。
一応看板が出ていることから店であることはわかるが、そもそも看板に何も書いていないせいで何を売っている店なのかすら明確ではない。
足を止めていたザラがゆっくりとオレを振り向いた。
「ここだ。ついたぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
店の中は薄暗く、カウンターに一人の男が座っているだけであった。
その男が顔をあげ、素早く俺とザラへ目を走らせたと思うと、突然大声で笑いだしたのだった。
「おい!あははははは!まじかっ!正気かよ!」
なんだ?
もう笑われるような行動なんてしていないはずだ。
くそ、あの声を思い出す。
食物庫の中で聞いた、くぐもった笑い声。
親父を殺した男のあの笑い声に似ていて、すごい不快だ。
「問題ない。正気だ」
「裏切るってのか!?そりゃまたなんで!」
「いや、裏切ってはいない。ヤサンは力を求めた。お前であれば与えられるだろう」
「……あ?」
目の前で素早くかわされる会話。
オレはただ眺めているだけだ。
名前が出たことで、男が眉をひそめてじろりとオレを流し見た。
「…!」
目が合い、一瞬体がすくむ。
まるでザラのような。
反射的にそう考えて思い直した。
それを奥底に秘めているザラとは違う。
正反対といってもいい。
例えるなら、むき出しになった鋭い牙のような荒々しさがオレを襲った。
年は30後半といったところ。
短く刈り込んだ茶髪と、不精に伸びた髭がより鋭さを増して見せている。
「俺がこいつをどうにかするとは考えねぇのか?」
「その使命はすでに終えている」
「だから、だから何だってんだ……!!このくらいの男ならいくらでも使いようがあるってんだよ!
第一なんで俺がこいつを育てなきゃならねぇ!!?」
ガンッ!
男が言葉に合わせて立ち上がり、椅子が勢いよく後ろに倒れる。
広くもない店内に、鈍い金属音が響き渡る。
「……」
「あーー、くそっ!これだから、だから俺は嫌だったんだ!」
がしがしと頭を描いて怒る男を、涼し気にみているザラ。
まるで対照的だ。
会話から察するにこの男にオレの稽古を頼んでいるんだろうが、ここまで難航するだなんて聞いていない。
「くそっ!くそっ!今ダイスを転がしたら5回連続で凶の目をだせるぜ!」
「……ではな、頼んだ」
え?
ザラはそう呟くとくるりと振り返って出口へと向かおうとする、
紹介もないままオレを取り残すってのか?
「待ってくれよ、紹介くらい」
俺が呼びかけるとザラは足を止めてゆっくりと振り返った。
そうしてフーヅの隙間からオレの目を見て、つぶやくように言う。
「そうだな。……時が来たらお前の方から会いに来い」
「なんだって?お、おい、ザラ!」
ギー、バタン
混乱して手を伸ばすオレの前で、店のドアがゆっくりと閉まる。
ザラは別れの言葉も交わさずに立ち去ってし待ったのだった。
な、なんて奴だ。
どいつもこいつも勝手な奴しかいねぇのか!
くそっ!
……仕方がない。
こうなったら、と覚悟を決めて癇癪を起している男のほうへ向き直った。
「……ご,ゴホン」
喉に軽く手を当てて咳払いをしてみる。
「……うるせぇ」
と、悪態をついていた男がオレを見た。
荒々しい目がオレをじろりと見た。
「……ガキ、名前は」
「オレはヤサンだ。別にガキって年じゃ……」
「うるせぇ、親鳥と離れたくらいでピヨピヨ泣きやがって。
まあいい、オレはイルウッド・ダラー。イルウッドとでも呼べ」」
「……ああ、分かった」
オレはピヨピヨ泣いてるという言葉に俺は唇を尖らせた。
なんなんだ、と言い返そうとして思いとどまる。
ここを追い出されたら俺には行く場所がない。
少し前に出ていったザラは今から追いかけたところで見つかる気がしなかった。
親父に俺のことを頼まれたんじゃねぇのかよ。
心の中でザラに悪態をついてから、イルウッドの目をはっきりと見返した。
それから、渋々と頷いてみせる。
「仕方ねぇ。いいか?オレの前で泣いたらすぐに追い出すぞ。」
「だから泣かないって」
「女々しくするな?我慢もするな?常に自分の心に正直になれ」
「……」
「それができねぇなら追い出す。それさえ守れば俺がお前を強くしてやるよ。
…分かったか?お坊ちゃん?」
「……分かった」
「よし、わるくねぇ!そんじゃ飯でも食いに行くか」
イルウッドの言葉にこわばって笑みを浮かべて頷きながらオレは一つの決心をしていた。
こいつ、いつか散々言ったこと後悔させてやる。
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