天道は空高く、
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「こんなかんじの赤髪で小憎らしい感じの女の子なんですが」
「いや、みてないな……すまないね」
「いえ、ありがとうございます」
「すみません、こんな女の子見てませんか?オレの妹で」
「みてないわね、人さらいにでも連れて行かれたの?今増えてんだろ?」
「まぁはい、そんなところです」
「この絵みたいな女の子見てませんか?顔はオレの妹なだけあって超かわいい子なんですが」
「うーん、わかんねぇなぁ……似たようなのは多いしなぁ」
「ははは、そうですよね……」
オレがザラと共に家を離れて一週間が過ぎた。
親父が殺されたこととカラルの失踪は間違いなく無意味ではない。カラルは親父を殺したやつに何らかの理由で連れ去られたのだろう。
年齢も若く健康で、整った顔立ちの女なんてどうとでも使いようがある。
奴隷としても男相手の店の労働力としても活用できる。
くそ、いやな想像をしてしまった。
大丈夫。あいつのことだ。危ない目にあいそうになったら意地でも抵抗するだろう。食いちぎってでも逃げてくるに決まってる。
買った男は今頃後悔してるころだろうぜ、ははは。
「すまぬ。それを口にすることはできない。知を得ることと与えること。そこには大きな溝がある」
あれは旅を始めて二日目の話。オレはザラへ知っていることをすべて教えてくれるように必死に頼んだ。
カラルの居場所までは知らずとも、親父を殺したやつの情報は持っていて間違いがない。
そんな俺へのザラの答えであった。
ふざけるな、と胸倉につかみかかった俺へザラの熱く冷たい視線が突き刺さる。
「……」
すさまじいまでの熱い怒りを無理やり冷まして閉じ込めたような、碧い瞳。そうしてオレは何も聞き出すことができないまま旅を続けてしまっているのだった。
「暑い……」
空に輝く天道がオレたちに熱を振らせていた。
草木は祝福に喜ぶだろうが、影地もなく歩くオレとしてはただ厄介な存在以外の何物でもない。
額にたまった汗が時折ほほを流れ落ちる。
と、揺れた拍子に目じりを伝った汗が目に入った。とても痛い。
水分を失うことは危険なため、布を頭に巻くことにした。間に合わせだがないよりはましだろ。
前を歩くザラは相変わらず厚手のローブを着て、しっかりとした足取りで歩いている。
厚くないのかよ。オレだったら半刻もしないうちに地面にたたきつけてるぜ。
「なぁ、一体オレたちはどこに向かっているんだ?」
「中央都市、ダリアだ」
「そりゃ一体なんで。いや別に反対する気はないけど、そもそも俺たちの目的はカラルを見つけることでいいんだよな」
「人さらいは人をさらうためにさらうのではない」
振り向きもしないまま、まるで謎解きみたいな答えが返ってきた。
人さらいにも目的があるという意味のようだ。
奴隷として売るためには都市に集まる、と。
「それでダリアへ向かってるんだな」
「ああ。それから一つ訂正するとすれば、私の目的はカラルを見つけることではない」
「なんだって?」
「私がミドから頼まれたことは、お前とカラルが最も苦痛を味わわずに過ごせる未来へと導くことだ」
ミドから頼まれた、か…。
親父は全部予想していたんだろうか。
オレは親父が冒険者だってことすら知らなかったけど、大切なもののために決意したなら決して曲げないその背中のことはよく知っていた。
視界が潤むのを止めるように眉間に力を入れる。
そして、低く響く声で話しながら歩くザラの、骨張った手をじっと見つめた。
ローブをはためかせ歩く、智見と目的を正しく持った放浪者と、その目的すらも他人任せの無力な子供。
オレは何も守れず、ただこのまま流されていくしかないのか。
唇をわずかに噛む。
ふと、力が入った拳がポケットに入れたままのカードに触れる。
『三つ星あれば上級に。四つ星あれば超級に。五つ星あれば聖級になれる』
いつかの旅人、イルスの言葉を思い出した。
オレは何て言ったんだっけ?
そう、背が高いといったんだ。
力を手に入れることよりも明日の食べ物のほうが重要だった。
そんなことを思い出して笑ってしまう。
当たり前か。
幸せを当たり前だと享受して、なくしてからその幸せに気が付く。
明日の食べ物があってもあの幸せな生活が戻ってはこないなら、代わりに精一杯に力を求めてみるのも悪くないんじゃないだろうか。
「なぁ、ザラ。オレは力が欲しい」
そうつぶやくと、ザラが足を止めた。
「見てくれよ、これ」
オレはポケットからカードを取り出して、半透明の青い板を出現させてザラに見せる。
「拾ったカードに乗っていた能力値なんだ。オレはよくわかってないけどかなり強いんだろ」
「……」
ザラはにらむような眼でその板をみつめた。
まるで親の仇をみているような鋭い目だ。ちぇっ、すこしは驚いてくれるかと期待したのに。
すこしの沈黙をはさみ、ザラの鋭い目がオレを見つめる。
「……本気か?」
「もう何もできないままは嫌なんだよ。こんなオレでも誇れるものがあって、それで誰かを守れるなら、そんな嬉しいことはないだろ。……どうか頼む。」
目を見て答え、ゆっくりと頭を下げる。
「……よかろう。その願い、聞き届けた」
すこし逡巡したようなため息の後、ザラの深く落ち着いた声がオレの頭上へと降りかかった。
本当か!勢いよく頭を上げてザラを見る。
ザラはすでにわずかに後悔しているような表情ののち、頭を軽く振るとオレの目を見て言った。
「力を求めるか…まさに人の特権だな。賢さと愚かさを司るヒューノの寵児よ」
「夢をもって生きているとでも言ってくれよ」
「ゆくぞ。それならば早いほうが良い」
あれ?ザラが教えてくれるわけじゃないのか?
いうが早いがザラは体を戻して歩き出してしまう。慌てて追いかけながら問いかけた。
「行くってどこにだよ」
「私は人に智を与えることができない。それ故、強き人間の元へ連れて行く」
「教えてくれる人に心当たりあるのか?」
「……ああ。イルウッド・ダラという男だ」
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