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忍び寄る影

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「参りました……」

「10年早いわ」


親父はそう言って笑うと尻餅をついたオレの手をとり、立たせてくれた。

ふと、ポケットに突っ込んだままのカードの感触が気になった。尋ねてみる。


「親父って冒険者だった時のステータスどんなだったの?ほら、ステータスカードとかあるんだろ?」

「ああ?あれはわしには使えんぞ?能力を数値化するなんぞいまいち信じられんしな」


そうなのか、てっきり冒険者はみんな使えるんだと思っていた。

考え込むおれに親父が声をかける。


「さっさと顔を洗ってこい。朝飯の用意、今日はお前に任せる」

「……!!」


なんだって!?聞き間違いじゃない!ついに親父がオレに飯を任せてくれた!

いやっほい!オレは有頂天になり家へ走り込む。

そして勢いよく段差につまづいた。

バタン!

目の前が真っ暗になり、額が痛む。どうやらオレの喜びは勢いよく大地へキスをしたくなるほどだったらしい。

勢い余ってうつ伏せに倒れたおれを、カラルの驚きつつ呆れた目が見下ろしていた。


「な、何やってんの、あにき……」





「ふむ、食感が消えすぎだな」

「確かにもうちょっとシャキシャキしてる方が好き」

「十分うまいと思うが…?」

「ぐ……」


朝飯。オレは親父とカラルに絶賛ダメ出しをされていた。ザラのフォローが胸に痛い。

菜物の火の通し方。特に山菜は食感が一瞬で変わっていくものが多いため、日加減の調節が何より大切になる。

オレは渋い顔をしながらおひたしを口に含んだ。

シャキ、シナ、シナ…。くそ、確かに瑞々しい食感は僅かに失われてしまっている。


「まぁ後は慣れだな。出汁はいい具合に染みとるしな」

「明日以降もやらせてくれるってことか!?」

「我慢するカラルに感謝するんだ。わしの料理が恋しいと泣かれんように精々精進しろ」

「感謝しろー」


水差しを傾けつつ、ニヤリを笑う親父。指を突きつけるカラル。

今に見てろ。親父の料理なんかよりオレのがうまいと口を揃えるようになるんだ。

恨みがましく水差しを睨みながらおひたしを口へ運ぶ。

シナ…シナ…もう少しだけ先かもだが。


「ところで明日ザムの家に泊まれるか?」


唐突に親父が口を開いた。

なんだって?


「なんで?店は?」

「ふむ、明日は閉める。ザラと二人で飲みたいんだ」

「飲めばいいじゃん、邪魔なんてしないよ」

「そうだな……」


カラルの言葉に親父は軽く笑って頷き、黙ってしまった。


「相変わらず不器用な人間だ…。すまない、私の願いなのだ」


少し重くなった空気を壊すようにザラが口を挟んだ。

そう言われると嫌だとは言えなくなる。


「別に、いいですけど……」

「オレもいいよ。ザムさんの奥さんの料理うまいしな」

「悪いな」


謝りながら微笑む親父。

食事を再開しおひたしを口へ運ぶ。

シナ…シナ…

なんだかさっきよりも食感がなくなっているみたいだ。なんでなんだ?

オレたちは食事を終え、ザムさんの家へ向かった。





「あにき!起きろあにき!」


オレをゆする感触に目を覚ます。カラルだ。

オレたちはザムさんの家の2階の部屋で眠りについていた。


「……」


起き上がり、カラルの目をみる。覚悟を決めたまっすぐな目がオレを見ていた。

ちくしょう、親父のことだ。どうせ碌でもないことなんだ。

生半可な覚悟なら諭して止めるつもりだったのに。


「行くのか?」

「行く」

「本当に馬鹿騒ぎして酒盛りしてるだけかもしれないんだぞ?」

「冗談」


やはり止めても無駄のようだった。

オレはため息をついてから起き上がり、外套を羽織った。寝室のザムさんを起こさないように足を忍ばせ、カラルと共にザムさんの家を出る。


ヒューー

春も終わりだと言うのに、風がオレに吹き付けてきた。オレはブルリと身体を震わせた。

ふと空を見上げると、瞬く満天の星。

黒と深い蒼が闇を作る空に、それぞれの強さを持った星たちが糸を紡ぐようにして浮かんでいる。

ヒューー

もう一度風が外套をたなびかせる。


「まるでジルフの唄の決戦の夜みたいだな」

「やめてよ、誰も死なせないからね」


カラルは冗談じゃない、とジロリとオレを睨んでから歩き出した。

オレも慌ててその背中を追う。


〈ザンドラの唄〉はザムさんの家から500キュビーも離れていない。家を出た時点で窓の明かりが見えるほどの近さだった。

歩きながら話しかける。


「何もないってわかったらすぐ引き返すからな」

「なかったらね」

「こんな夜中に起こされて、なにもなかったら飯でも奢れよ」

「なかったらね」


どうやらカラルはオレの冗談にも付き合う気はないようだった。

空気が重たくて仕方がない。仕方なく黙って足を運ぶ。

ふと、カラルが立ち止まった。

様子でも伺ってるのかと思ったが、動く様子がない。


「どうしたんだ?」

「進めない。」


つぶやくように答えるカラル。


「なんで」

「進めない!」

「だからなんで」

「行かなくちゃいけないと思ってるのに進みたくないの!」

「魔術か!」


あのクソ親父。ザラの方か?そこまでしなくちゃいけないことなのかよ。

人よけの魔術。


「カラル、やっぱりやめるって思いながら数歩下がれ」

「……」


カラルは震えた目でオレを見ながらこくりと頷いた。

そのまま数歩後ろに下がる。1歩…2歩…3歩……


「あにき!体が動く!」

「よし」


この魔術はかかったものの意志が変わらない限りは進むことも下がることもできなくなる。


「……怖かった」

「帰るか?」

「冗談…」


体を両腕で抱きしめて、つぶやくカラルの声は震えていた。

こんな魔術を使った親父とザラへの怒りはあるが、オレはこのまま帰っても構わなかった。

親父にどうにもならないものは、多分オレにもどうにもならないのだと心の奥底ではわかっているからだと思う。

それでもカラルは行くという。

黙り込んだオレにカラルが不安げに問いかける。


「どうやって入んの…?」

「この魔術は戸口から招き入れることの否定なんだ。簡単だから強力なんだけど」


仕方ない、と歩き出した。

呟きながらカラルと共に家の横に回り込む。


「あにきってそれどこで知ったの?」

「村長さんの家に魔術の図鑑も置いてあったんだよ」

「あにき無駄に記憶力いいもんね……」

「無駄にっていうなよ、役に立ったろ」


村長さんの家には、図鑑や物語の本が多く置いてあった。

本というものはそれなりに高価なため一般の民家で置いてあることはほぼないが、村の子のためにということで自腹で買ってくれているのだ。おかげでこの村の識字率はかなり高い。

人が良さそうな村長さんのくしゃっとした笑みを思い出した。


「よし、多分ここなら大丈夫」

「窓……?」

「窓は入口じゃないからな」


そう答えてから足を踏み出した。スタスタと、躊躇なく進み、やがて窓までたどり着く。

後を恐る恐るついてきたカラルが、困惑しながら呟いている。


「そんな言葉遊びみたいな……」

「その通りなんだ」


言葉遊び。まさにその通り。

魔術とは無意識の集合体だと言われている。何気なく生活にあって意識していないもの、それらはその知名度から自然と魔力を持つようになる。

『夜に口笛を吹けば祟りがくる』それを利用した魔術なら、夜に口笛を吹かせられれば強力な罰を与えられるだろう。

だから魔術にはそれぞれルールが存在するのだ。


スーッと音を立てずに窓を開けた。頭を出して覗き込む。誰もいない。

窓わくに置いた両手に力を入れて体を持ち上げ、左足から中に入る。

音を立てないように慎重に着地する。親父のろくでもない部分が遺伝したのか、こんなことばかりが得意な気がする。

キッチンへ繋がるドアからは親父とザラの話し声が聞こえてきた。よし、まだ気づかれてないはずだ。


「つかまれ」

「う、うん」


カラルに手を伸ばして引っ張り上げた。まだ軽いな。

と、僅かに着地に失敗してよろめいた。慌てて手を伸ばして支える。

トタッと僅かな音が廊下に響いた。


バンッ!!

その次の瞬間扉が吹き飛び、月光を反射し銀に輝く軌跡がオレの目に映った。

一体なんなんだ?首に触れるそれが、冷たいのか熱いのかすらわからない。

状況を理解してぶわっと冷や汗が噴き出す。


首筋に剣が突きつけられていた。


「お、親父」

「……」

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