ザンドラの唄
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全四章 完結まで必ず続けます
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「ヤサン。ここはゲームの世界なんだ!全部作り物なんだよ!」
絞り出すようにアルトが言った。
まるで重大な世界の秘密を口にしてしまったかのような表情をしている。
愛用の両手剣を握りしめる手が震えている。
あれじゃ力を込めすぎだ。いつもの綺麗な構えは見る影もない。
ヒュォォォと高く、深い音が崖の下で響いた、俺は崖に目を向ける。
ヒュルテルの渓谷。
ケルン山脈を通った風が切り立った崖にぶつかることで、岩の隙間を通る風がまるで悲鳴のような声を上げる。
通称「ヒュルテル《嘆き叫ぶ》の渓谷」
「どこ見てんだよ!ヤサン!」
「別に」
取り乱したアルトの叫び。
仕方ないのでアルトに目を戻した。野郎に僕を見ろなんて言われても全く嬉しくない。ため息をついて口を開く。
こういう諭す役は本来アルトの役目じゃないか
「川は上から下に流れるだろ?」
「なんの話だよ…!」
「いいから聞けって、川の水は上から下に流れる」
「…ああ」
「だけどこのヒュルテルの渓谷の下では水が下から上に流れるんだ。渓谷の滝が高すぎるせいらしいけど、高さにして1ミルにもなるらしいぜ、信じられるか?」
「……」
眉を顰めて黙っているアルト。
俺を睨んではいるが先ほどのような一歩間違えば切り付けてきそうな雰囲気はない。
掴めない話を聞かされて不機嫌になっているという程度。
前から思っていたがアルトやグリグラは常識人に見えて、この話題でのみ狂信的と言える頑固さを発揮するな。
俺もなるべくこの件については話したくなかったんだけど、面と向かって言われちゃどうしようもない。
「つまりどんな奇跡も理由があって、神様だって死者を生き返らせることはできないんだ」
「ヤサン、何が言いたいんだ」
狂信ってのは怖いもんだ。常識とはいわばそいつにとっての世界だ。それを今から否定しなくちゃいけない。
これからも旅をする以上、誤魔化しては仕方がない。
オレは深呼吸をして自分を落ち着ける。アルトが発狂して俺に斬りかかってきてもいいように、こっそりと腰の剣に手を伸ばすのも忘れない。
そしてアルトの目を見てはっきりと言う。
「……ゲームってお前やグリグラが信仰してる神様の名前だろ?」
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「ヤサン、薪が切れた。山小屋から取ってきてくれ」
「あにき、あたしも手伝う」
オレは親父の頼みを受け、カラルと共に籠を持って山へ向かった。
山小屋は店から10ミレキュビー(約5キロメートル)ほどの距離にある。なんてことない距離だが、いっぱいの薪を背負って山道を下るのは意外と足にくる。
カラルとなぜ鹿獣の肉は美味しくないのかという議論を交わしているうちに、山小屋が見えてきた。
ちなみに鹿獣は魔力が特有の部位の蓄えられやすくそれ以外の部位には魔力が回らないからという結論になった。本当かは知らない。そもそも不味いという噂だけで食べたこともない肉がなぜ不味いかなんてオレが知ってるわけないだろ?
「カラル、扉の横の薪をカゴに入れていってくれ。オレは着火剤を拾ってくる」
「はーい」
カラルに薪を任せて、籠を持ち山道を登っていく。少し歩いたところで横道にそれた。
少し開けて空がぽかりと見える場所に出る。こういう開けた場所は空気の通りがよく陽が当たりやすいため、落ちた実がよく乾く。ちょうどこの辺りだ。
松の実やブナの実はよく燃えるため着火剤として活用しやすい。目についたところからカゴに放り込んでいく。
着火剤はありふれたものだがこれが意外と需要がある。寒い朝、木が朝露で湿って燃えにくい日に誰も火の番を一刻もやりたくはないからな。
と、オレは葉の隙間にきらりと光る球体を見つけた。
「……なんだこれ?」
どうみても植物ではなかった。宝石のように七色に光っている。
いや宝石ではあり得ない。それはわずかに周囲に七色の光を明滅させていたのだった。
天を見上げる。そこには気が縁をつくり、ぽかりと空いた空があった。まるで空から落ちてきたみたいだな……。
オレはあり得ないもしない想像にぶるりと見を震わせてから、改めてその光の球を見た。
僅かに明滅しながら、確かにそこにあった。覚悟を決めて、触れてようと手を伸ばす。
パキリ
「……!」
オレの指が触れた瞬間、光球は粉々に砕け散る。途端、平坦な女の声が鳴り響いた。
ーーープレイヤーカードを入手しました。ID「蜈・蜉姜D辟。蜉ケ」ーーー
ーーースキル「莠コ髢鍋視縺ョ螳晉脂」所持を確認。ストーリーNo 1983 13章12節NPCとして登録ーーー
ーーー固有ステータスを付与しました。ーーー
「だ、誰だ……!?」
声は恐ろしく近くから聞こえてきた。今まで経験したことのない感覚だ。体を震わせて慌てて立ち上がる。くそっ、何かの罠か……!?
オレは勢いよく立ち上がり、その拍子に右手に握っていたものを落とした。
パサッ
軽い音を立てて、握っていたカードが地面に落ちる。
握っていたカードだって!?オレはこんなカードを手に持った覚えも、そもそも見たこともない……!
「……」
ごくりと息を呑む音が脳内に響く。これは誰の立てた音だ?唾を飲む音がここまで大きく聞こえるだなんて。まるで自分の体が自分のものじゃないみたいだ。
恐る恐る手を伸ばして拾い上げる。
鉄のような灰色の金属でできているようだ。いや、本当にこれは金属か?
何か……はっきりとはわからないが、何かおかしい。
手の中にある変哲のない、灰色の金属。
「灰色すぎるんだ……!!」
それを理解した瞬間、言いようもない恐怖に襲われた。
こんなものが存在するわけがない!
ものにはそれぞれの色があるって言ったって、光が当たれば明るくなったり、赤いものの横に置けば少し赤くなったりするだろ。それが金属なら尚更だ!
この板はただ一色の灰色だった。影を作ろうが、光に当てようが、濃淡もないただ一色の灰色だ。夜の暗い部屋の中でさえきっと、今の灰色のままなんだろう。
オレは今すぐ放り出して逃げ出したい気持ちをなんとか押さえつけた。
気持ち悪いが体に異変はない。大丈夫だ……。
カードを裏返す。裏面には僅かな凹凸があり、何か文字が書いてあるようだった。
なんと、オレはその凹凸が気になり指を伸ばす。全く、オレの好奇心というやつは自重というものを知らないらしい。
「うおっ……!」
触れた瞬間。カードの上から青い板がオレの目の前に飛び出してきた。
名前 ヤサン・バイラル
剣術 ★☆☆☆☆ ☆☆☆
魔力 ☆☆☆☆☆ ☆
知力 ★☆☆☆☆ ☆☆☆☆
運 ☆
スキル
特性 「莠コ髢鍋視縺ョ螳晉脂」
驚き、声を上げる。
よく見ればその板には文字と記号が白く光っていた。
「特性」という欄の内容はぐちゃぐちゃとした文字で読み取ることができないが、それ以外はすんなりと読むことができる。
「オレの名前……」
一番上の欄。なぜかオレの名前が載っている。呟いてそこに手を伸ばす。
スッ
何も触った感覚はなく、指が板を貫通した!
だが一つの仮説を立てていたオレはほとんど驚かなかった。
後退りをしたついでに転び、尻餅をついているため、尻に当たる石が痛いが、別に驚いて転んだわけじゃないはず。多分。
よく見れば板自体が半透明で、後ろの地面が透けて見えていることに気がつく。
イリュージョンだ、わかってきたぞ。おそらくこれは魔道具だ。
魔道具自体は色々あり、領主様の家にも水をお湯へと変える魔道具がある。
ちなみに、領主様の家の魔道具は電気ポットと言う。目が出るほど高く、水をお湯へ温めるだけと言う代物。
誰だって思ったはずだ。やかんで十分だろ?
これが魔道具だとすると貴重なものの可能性もある。もしかしたら古代魔道具と呼ばれるやつかもしれない。
書かれている文字をもう一度読み直す。
剣術、魔力、知力。これは持ち主の能力を表にするものじゃないだろうか。
黒星が現在の能力。白星が潜在能力というやつ。
確証はないが、そう見当をつけたところでカラルの声が聞こえてきた
「あにきー?まだー?」
「悪い、今いくー!」
カードの表面の凹凸に触れると、青い板は出てきた時と同じように一瞬で消えてしまった。
オレはカードをポケットに入れると山小屋へ向かって歩き出した。
「これだけ?」
「雨で湿ってたんだよ」
「それは随分と局所的な雨だったのね。ほら、積んでた薪はパリッパリに乾いてるわ」
籠の中身を覗いて皮肉をいってから歩き出すカラル。めざといやつだ、誰に似たのか。
「待てよカラル。ちょっとこれを触ってみてくれ」
「??」
オレはカラルにカードを手渡す。カラルは不思議そうにカードに触り、表面の凹凸を指でなぞった。
「何も起こらないじゃない」
「……そうか」
訝しんでくるカラルのことも気にせず、オレは空返事でカードを受け取ってポケットへしまう。
まずい、なんてことだ。オレが触った時点で他の人には使えないものになってしまったのだろう。
売って大金を手に入れる最高の計画が……
なぜあんな場所に落ちていたのか、色々気になることも多いが、とりあえずは家に戻ってから考えるとしよう。
「あにき、一体なんなのよそれ!」
まずはしつこいカラルにどう誤魔化すかから考えなくちゃ
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