54.大飯店でのバトル②
ダッシュで間合いを詰める私に、相手が右手のモーニングスターを突き出してきます。
慌てて停止した私は、上体を後方に反らして、ギリで躱しました。
その反動を利用して、“図体デカ男”の顎に、薙刀の柄を〝ドンッ!〟と当てたのです。
「ぐぅうッ!」
呻きながら膝が崩れそうになる敵が、モーニングスターを杖代わりにして自分を支えます。
私は、この好機を活かすべく、五厘刈りとの距離およそ1Mあたりの所で、左足を、おもいっきり〝ダンッ!〟と踏み込みながら、両手で武器を振り上げました。
その坊主頭を柄で叩くために。
しかし。
〝ニッ〟と口元を緩めた巨漢が、
「デストロイ!」
と、唱えて、左手による“突っ張り”を繰り出してきたのです。
それが、胸の中心に〝バンッ!〟とヒットしてしまった私は、
「がはッ!」
血を吐きながら、2Mほど後方に弾かれて、床に背中を打ち付けてしまいました。
父が製作してくれた“胸当て”のお陰で、ダメージは幾らか軽減されたみたいです。
もし、これを装備していなかったならば、骨に罅が入ったかもしれません。
最悪、折れていたかも?
それぐらいの衝撃がありました。
この所為で、胸当てが凹んでしまっております。
私のために、せっかく、父親が作ってくれたというのに。
まぁ、“薄鉄”なので仕方ありませんが…。
寧ろ壊れなかっただけでもOKでしょう。
「ぬぅ~ッ。」
上体を起こす私に、
「今度は外れなかったみてぇだな。」
アマチュア相撲レスラーが勝ち誇ります。
どうやら、全てはミツル君の計算だったようです。
〝わざと隙を与えて誘い込んだところに一撃くらわせる〟という。
まんまと騙されてしまいました。
愚かにも。
フラつきながら立った私が、左の掌で口元の血を拭い、
「なかなか知恵がありますね。」
感心したところ、
「ま、一応、大学に通えるぐらいだからな。」
ドヤッてきたのです。
「むぅ~。」
正直、なんか、ムカつきます。
[境界の○方]のヒロインであれば、「不愉快です」と発言しているかもしれません。
そのような事を思っていたら、【閃光】の効果が失われたようで、相手が細い目を開きました。
この人もまた、見えていなくても、あまり関係なさそうですが、取り敢えず、
「閃光!」
掛け直しておきます。
「また、これか!」
うんざりした様子の“図体デカ男”が、モーニングスターを再び振り回したのです。
どうしたものかと少し考えた私は、足元がお留守になっていることに気付きました。
なので、薙刀の柄を、右の脛へと放ったのです。
これは罠でないことを願いつつ―。




