47.現状➄
川崎市の或る町にて。
住宅街の十字路で信号待ちをしていたところ、右側の民家から男性三人組が出てきました。
「チッ、しけてんなー。」
「ここに住んでる奴らは、どっかに避難したんだろう。」
「だから、金目のものがねぇのか。」
そう口々に言っている男たちは、誰もが身長170㎝くらいで、チンピラみたいな服装をしており、年齢は20代前半といった印象です。
先頭は細長メガネを掛けている金髪のショートヘアーで、その右斜め後ろは黒髪のセミロング、左斜め後ろは黒髪のオールバックでした。
私と目が合ったチンピラA(金髪メガネ)が、
「あん?! なに見てんだよ、ガキがッ!」
と、因縁をふっかけてきたのです。
「まぁ、待てよ。」
「相手は女子高生みてぇだし、ほっとけって。」
チンピラBが止めました。
しかし、チンピラCが、
「いや、寧ろ…、この家に引きずり込んで、俺らでヤッちまおうぜ。」
と提案したのです。
その意図を察して、
「あー。」
「いいねぇー。」
A&Bがゲスな笑みを浮かべました。
〝ニヤニヤ〟しながら近づいて来る三人衆に、
「閃光!」
と、発したら、BとCは、
「うおッ!」
「ぐわッ!」
それぞれに呻いたのです。
Aは、両手で顔を覆いながら、
「目が、目がぁ~!」
と喚きました。
(なんと!?)
(ここにおられましたか、ム○カ大佐殿!)
私が敬礼しかけたタイミングで、偶然にも十字路を右折してきたパトカーが、停まったのです。
助手席の警察官が降りてくるなり、
「どうしたの?」
と、訊ねてきたので、事情を説明していく私でした。
運転席から降車して、一緒に話しを聞いていた巡査さんが、
「空き巣だな…、署に連行しよう。」
と述べ、二人がかりでパトカーに乗せていきました。
お巡りさん達によれば、神奈川県の大半で、電気とガスが止まっており、不安がった住民が学校や公民館に避難しているとの事です。
「特に人外らが夜に出現すると恐怖で眠れないのが、理由のようだ。」
と、教えてくれました。
一応、【結界】が張られている建物で生活しているとはいえ、それを破壊できる“小ボス”が世界中に登場したので、沢山の人たちで集まった方が安心できるそうです。
逆に団体行動が苦手な方々は、今までどおり暮らしているのだとか。
なかには、結界が施される前に、公共施設に逃げ込んだ人々もいるらしく、そうやって誰も居なくなった住宅に白昼堂々と盗みに入る犯罪が増え始めているとの情報です。
ま、殆どが、お財布や通帳などの貴重品に高価な物を持って家を出ているので、無駄に終わることが多いようですが…。
ただ、エネミーらによって、既に住居者が亡くなれている所は、お金などを奪われているのだそうです。
「こんな世の中になってしまって、殉職した警官もそれなりにいるから、人手不足で取り締まり切れないよ。」
「出来れば、総理大臣か、知事が、自衛隊を“治安出動”させてくれれば助かるんだけど…。」
運転していた方の巡査さんが、軽く〝はぁ〟と溜息を吐きました。
「“自警団”は存在していないんですか?」
窺った私に、もう一人のお巡りさんが、
「いいや。」
首を横に振って、
「そういう団体があれば良いんだけど、この町は、警察や、消防に救急隊員の、“戦闘職”と“ユニーク職”が主に出動しているよ、化け物たちを倒す時に。」
「民間人は基本的に自分や家族を守るだけだね。」
「我々に協力したところで報酬が貰える訳じゃないし…。」
「いや、別に悪くはないさ、当然の反応だよ。」
「命を落としかねないんだし、国が何かと支援したり保証してくれてはいないんだから、正義感だけじゃ、やっていけないだろうさ、現実問題。」
そう語ったのです。
これを知った私は、改めて、素晴らしい人格である紗凪さん達や、神里町の自警団メンバーのことが、誇らしくなりました。
「では、何処に行くにせよ、気を付けて。」
「全国的に事件が起きているみたいだから、例の変な生き物たちだけでなく、人間に襲われる危険性もあるから。」
そう告げた運転手の巡査さんがアクセルを踏みます。
私は、反対方向の横浜へと、再出発するのでした―。




