41.別れ
雨が〝サァァァァ――ッ〟と降り注ぐなか、“ピタッ”と動きを止めたボス鼠が、“ぐッ”と身を低くしました。
何かを察した団長さんが、
「退避―ッ!!」
と叫びます。
次の瞬間、敵の親玉が、おもいっきりジャンプしたのです。
私は、慌てて、その場から右へと走り出しました。
しかし、
ズドォンッ!!
と、大ネズミが着地した衝撃によって、吹き飛ばされてしまったのです。
「痛ぁーッ。」
うつ伏せに倒れながら砂利で擦れた私が顔を上げてみたところ、屈伸姿勢のボスキャラを中心に直径1Mぐらいの陥没が起きていました。
深さは最大部分で30㎝といったところでしょう。
その辺りの参道は砕け散っています。
(あれが直撃していたら、結構やばかったんじゃ?)
そう思った私の視界に、逃げ遅れた穂乃歌さんが映ったのです。
ご本人は、正面のボスキャラに体が硬直し、身動きが取れないでいます。
私が、「穂乃」と、声を掛けようとしたところ、親玉の右アッパースイングによる鋭い爪が、彼女の胸に〝ズブシュッ!!〟と刺さりました。
そのまま高々と穂乃歌さんを持ち上げたボス鼠が、右腕を〝ブンッ!〟と左斜め下に振るったのです。
穂乃歌さんは、後ろに在る鳥居の柱に、背中を打ち付け、
「がはッ!」
と口から血を吐きました。
大ネズミが、穂乃歌さんを確実に殺そうと、一歩踏み出します。
その背中に、様々な魔法と矢に銃丸が当たったのです。
これは、[艮神社]の北側に待機していた班によるものでした。
団長さんが、
「お前たち、今まで何やってたんだッ?!!」
声を荒げます。
当初は、南と、東西のチームが、それぞれ突撃して、敵の注意を引いている間に、北から急襲するという作戦だったそうです。
リーダー格である【戦士】の男性が、
「右と左の、どちらから社を回り込むか、もめてしまって…。」
申し訳なそうにし、
「バッ!! …、カやろう……。」
団長さんが〝ギリィッ!〟と歯軋りしました。
その間に反転したボスキャラが、お社の方へと向かったのです。
私たちと対峙していた鼠の兵隊のなかで生き残っていた6匹が同行しております。
親玉が北班への報復に動くなか、境内の南西に避難していた穂積さんが、
「穂乃歌ぁ―ッ!!」
血相を変えながら走っていきました。
少し離れた位置では、真守さんが呆然としています。
上体を起こした私が、穂乃歌さんに、
「回復!」
と、唱えるも、発動しませんでした。
(なんで??)
(…、あ!)
(紗凪さん達とのパーティーから抜けているからか!)
このシステムの所為で、穂乃歌さんの傷を魔法で治す事が出来なかったのです。
妹さんの上半身を抱きかかえた穂積さんが、出現させた“体力回復ポーション”の蓋を開けて、飲ませようとします。
が。
「穂乃歌?」
「冗談だろ??」
「穂乃歌…、おい! 穂乃歌!!」
「……、穂乃歌ぁあああ――ッ!!!!」
という悲痛な叫びが響き渡ったのです。
私の右側2~3Mの所にいる紗凪さんが、
「嘘…。」
脱力して、地面に両膝を着きました。
そんな状況で、雨足が強まってきます。
お社の近くでは、北のチームがネズミらと戦っていますが、旗色は悪そうです。
私は、手繰り寄せた薙刀の柄を〝ギュッ!〟と握りしめて、立ち上がり、
「絶対に許さない!!」
と、ボス鼠の背を睨み付けました。
紗凪さん達4人組とは、昨日の今日で、付き合いこそ浅いものの、とても感謝しております。
なかでも、穂乃歌さんは、従兄妹の葵月ちゃんに、どことなく似ていることもあって、勝手ながら親近感を持っているのです。
そのような人の死を目の当たりにして、ふつふつと怒りが湧き上がった私は、
(必ず仇を討つ!!)
と自分に誓いました―。




