36.一転
穂積さんに、
「まずは、各家庭でパーティーを組んでもらいます。」
「その為には、“画面”に名前を記入しないと申請や承諾が出来ません。」
「本名でも、ニックネームでも、どちらでも構わないので、お願いします。」
「あと、リーダーも選んでください。」
と促された親族が〝わちゃ わちゃ〟しだしたのです。
中高年は扱い方をよく分かっていないので、若者がレクチャーしたり、代わりに登録してあげております。
私は、昨日、紗凪さんのチームに入る際に、書きました。
[最神琴晴]と、フルネームで。
漢字に対応している点は、褒めても良いところでしょう。
いえ、褒めませんけどもね!
これらを創ったであろう、神だか、魔王だか、科学者だか、“人類共通の敵”を、図に乗らせたくないので。
さて…。
どのファミリーも、“父親”をリーダーとして、チームを作成した模様です。
「それでは、これより、我々4人が先行して、一件ずつ回っていきますが…、皆さん、“転移の宝玉”は、お持ちですか?」
「なければ、こちらから提供します。」
「紗凪、割とストックあったよな?」
穂積さんの問い掛けに、
「んー、……、13個ぐらいあったはず。」
紗凪さんが答えます。
「あ、いえ、私のを配るんで大丈夫です。」
自警団に甘えてばかりはいられないと思い、宝玉を3つ出現させた私は、次男家/長女家/次女家に1個ずつ配りました。
これで、私のストックは、残り4つとなっています。
「では、移動しましょう。」
立ち上がった穂積さんに、誰もが続きました。
そこからは、サクサクッと物事が運んだのです。
“転移の宝玉”は、屋外でしか反応しないそうで、玄関から出た紗凪さんたちが先んじて、叔父(次男)さんのお家に瞬間移動しました。
建物の側にテレポーテーションした4人が、周囲を確認し、安全だと判断したなら、私に連絡する手筈となっております。
当初は、私も紗凪さんたちと共に転移するつもりでいたのですが、真守さんに、
「万が一、この敷地内に敵が現れたとき、対応してほしい。」
と促されたので、残ることにしたのです。
皆さんが瞬間移動した約30秒後に、スマホのアプリに穂乃歌さんから〝今、大丈夫だよー☆〟とのメッセージが届きました。
そこで、私は、次男さん家族に外に出てもらって、宝玉を使うよう指示したのです。
このアイテムは〝一度でも訪れた事のある場所へのテレポーテーションが可能〟なのですが、扱う時には行き先をイメージしないといけません。
目的地の風景か、もしくは住所を念じれば、OKなので、割と簡単です。
そんな感じで、南の次男さん宅 → 東の長女さん宅 → 北の二女さん宅と、4人の〝周辺チェック〟が済み次第、順次、送り出したのでした。
ちなみに、パーティーは〝一組につき10人まで〟と制限されています。
どの家族も人数的に問題ないので、余裕でチームを作れました。
そんなこんなで、全員の帰宅が無事に完了したところ、うちの母が、
「神澤さんと神岳さんに、お礼しなくちゃね…。」
「琴晴ちゃん、〝お昼、ご一緒にどうですか〟って聞いてもらえる?」
と、尋ねてきたのです。
「うん、分かった。」
私が、紗凪さんにメールしようとしたら、穂乃歌さんからの電話が鳴りました。
「もしもし、穂乃歌さん?」
「どうも、ありがとうございました。」
『いやいや、なんのなんの、ですよ。 琴晴ちゃん♪』
『それよりも、 今から“艮神社”に来てもらえないかな?』
「私の家からだと、北東の、ですよね?」
『そうそう、そこだよぉ。』
『私たちは、他の自警団からの緊急連絡で、鳥居の近くにテレポーテーションしたのね。』
『で、これから、詳しく説明してもらうところなんだけどぉ…。』
『現在、自警団に関わらず “戦闘職”や“ユニーク職”を一人でも多く集めている最中みたいなの。』
「何かあったんですか?!」
只事ではなさそうだったので、質問してみたものの、
『う~ん、まぁ…、そのぉ……、取り敢えず、こっちで、ね?』
何故だか、はぐらかされてしまったのです。
私は〝モヤッ〟としつつも、そちらへ赴くことにしました。
集団行動が苦手な私ではありますが、あの4人には、お世話になりっぱなしなので、少しでもお役に立ちたかったのです。
どこかの銀行員さんも言っていたじゃありませんか、「施されたら施し返す、恩返しです!」と。
それは、人として当たり前のことでしょう。
いろんな方々からの優しさを受け取ってばかりで、一つも返そうとしない不遜な人間になりたくない私は、応じることに決めました―。




