3.贈り物の効果
私の方を振り向いた一体のゴブリンと目が合いました。
(やばいッ!!)
身の毛がよだった私は、まるで犬のように階段を上ります。
「アンギャァッ!」
と鳴きやがったゴブ野郎の所為で、20体ほどの魔物や天使と仏にまで気付かれてしまったのです。
奴らが追いかけてくるなか、転がり込むように自室へと逃れた私は、ドアの鍵を閉めました。
素手や、槍に、剣などで、
ドンッ!
ドンッ!
と、叩きまくる連中に震えながら、私は段ボール箱に入れられているアクセサリーを手に取ったのです。
右手にネックレス、左手にブレスレットを握り締めて、
「お願い…。」
「助けになってくれるんでしょ?」
そう語りかけている間にも、ドアが壊されていきます。
「お願いだから、助けてぇえッ!!」
涙ながらに叫んだのと同時に、扉が打ち破られてしまいました。
(終わった。)
きっと素敵な淑女であるに違いない私が危うく失禁しかけた刹那でした。
ネックレスに付属しているライトブルーのジュエリーから辺り一面に光が放たれたのは…。
今、私は玄関に居て、両手で段ボール箱を抱えています。
その眼前には、“大和黒猫宅配便”の業者さん(40代くらいの女性)が佇んでいるではありませんか。
更に、広間と台所から親族の楽しそうな笑い声が聞こえてきたのです。
「え?!」
驚く私に、配達員の方が、
「はい?」
と首を傾げました。
「いや、え~と??」
状況を理解できずにいたら、
「あのぉ、サインを…。」
と、促されたのです。
「ああ、はい。」
「そう、でした、よね?」
いささか混乱しながらも署名した私は、そそくさと自分の部屋に退散しました。
改めて段ボールをオープンしてみたら、やはり、ネックレス&ブレスレットが収納されていたのです。
一方で、茶色だった封筒が水色になっています。
「んん~??」
謎が深まりながらも、再び手紙を読んでみました。
早いところ、その二つを身に着けよ。
次は失敗せぬように。
奴らの陰険陰湿な戯れに備えておけ。
「あれ?」
「さっきと内容が変わってる??」
疑問を口にしつつ、まずはネックレスを首に掛けます。
続いてブレスレットですが…、
「いや、ちょっと大きくない?」
そう言いながらも左手を通してみました。
すると…、なんということでしょう。
〝シュルンッ!〟と小さくなって手首にジャストフィットしたではありませんか。
どこかの匠の技によるものであろうブレスレットに右手で触れてみたところ、縦30㎝×横20㎝×厚さ1㎜の画面が現れたのです。
確認してみたら、白字で、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
取得可能ジョブ
・騎士
・戦士
・剣士
・侍
・弓使い
・武闘家
・くノ一
・機工士
・巫女
・魔女
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
と表記されていました。
それらの文字を、一つずつ、人差し指でタッチしてみたら、ページが切り替わって、詳しい内容が書かれていたのです。
「ふむ、ふむ。」
あれこれそれに頷きながらも、攻撃力を取るか、守備力を重宝すべきか、素早さを選ぶか、といった具合に、どれにしたものか悩んでしまいます。
だって…、私……、乙女ですもの。
ん?
それは関係ない??
まぁ、おちゃらけはここ迄にしておきましょう。
PM16:00のタイムリミットが迫ってきていますしね。
(さて、どうしたものかしらん?)
私が考え込んでいたところ、
『我らは神である!』
と、響き渡ってきました。
これはもう、時が戻っている事は明らかです。
そう認識した途端に、私の脳裏には、あの惨劇がフラッシュバックされてしまいました。
背筋が〝ゾワッ!〟として、恐怖で焦りが生じます。
(落ち着け、落ち着けぇ、私!)
冷静になった私は、【巫女】をチョイスしました。
何故ならば、回復職の一種である“ヒーラー”だったので、自身や他人が負傷しても治癒を行えるからです。
他にも、【クレリック】や【ビショップ】なども存在しているみたいですが、こちらでは選択できませんでした。
なにはともあれ、【巫女】に決定してみたら、宙に“薙刀”が出現したのです。
右手で柄を掴んだ私は、机の上に置いている“赤ぶちの伊達メガネ”を左手で取って、〝スチャッ!〟と装着しました。
「では、反撃といきますか。」
瞳に炎を宿すが如しである私の気分は、まるで[東京リベンジャー○]です。
私は、誰とも交際したことなければ、ヤンキーでもありませんし、そもそも女性ですけどね―。