29.お祝い
「なんか、バイトの男の子がね、結界? あれを張ってくれたから、平気だったんだけど…。」
「皆で、窓から外を覗いてみたら、不気味な生き物が、うじゃうじゃ居るじゃない。」
「ゾッと、したわよ。」
「でもね、通りすがりの“自警団”を名乗る五人組が、やっつけてくれたのよ。」
どうやら、神澤紗凪さん達とは別のメンバーみたいでした。
「お陰で一難去ったんだけど、そこからが大変だったわよ、予約が相次いでキャンセルされちゃったり、こっちから電話しても連絡が付かないお客さんがいたりで。」
「そんな状況で、最神さんから〝配達してほしい〟って言われたのよぉ。」
奥さんは、よく喋るタイプです。
昔から、そういう人でした。
確か、年齢は40代前半だったかと…。
私の記憶が正しければ。
「あの、それで、“運び屋”というのは?」
私は、奥さんのトークを遮り、本題に入ってもらいました。
「ああ、そうそう。」
「それがね、〝一日一時間だけ、何かしらを配送する行き帰りに、襲撃されずに済む〟みたいなの。」
「〝相手が、こっちのことを認識できない〟とかで…。」
「でもまぁ、ここに来るまで、あの変な生き物たちに全く遭遇しなかったから、〝意味ないじゃない〟って、拍子抜けしちゃったわよ。」
ケラケラと笑う奥さんは、いつも明るく陽気な性格なため、多くの人達から好感を持たれています。
「けれど、これから先は、危険かも…。」
懸念する私に、
「今日は、もう、これで仕事は終わりだから、心配ないわよ。」
「ここから、お店まで、車で15分ぐらいだから。」
奥さんが返したのです。
「じゃあねぇー。」
帰路に着く奥さんを見送った私たちは、父を呼んで、お寿司を運んでもらいました。
ここで、結界に関して、ザックリ説明しておきましょう。
“人間であれ、人外であれ、敵意や悪意を持つ者の侵入を阻む”
それが、【結界】です!
以上。
PM18:00の座敷にて、親戚一同が、
「おじいちゃん、おばあちゃん、おめでとー!」
「かんぱーいッ!!」
と、祖父母の結婚祝いを開始しました。
虫どもとの戦い以来、エネミーが出現していないのと、最神家に嫁いだり婿養子になった方々の実家も無事だったということで、誰もが笑顔で飲食を楽しんでいます。
全員が安心しているのか、とても賑やかです。
ひょっとしたら、ここに至るまでの恐怖を忘れようと、無理してテンションを上げまくっているのかもしれません。
いずれにせよ、一度、親族を失った私は、食事だけでなく、団欒の空気をも、心地良く味わっていきます。
なんだか、長い一日でした。
いえ、まだ終わってはいませんけども。
敵が新たに現れるかもしれませんが、今は忘れて、数々の料理に舌鼓するとしましょう―。




