16.自警団
ゆっくり歩くソフトモヒカンさんが、
「まずは、この家だな。」
と、指差します。
玄関の呼び鈴を鳴らしたロングヘアーさんを筆頭に、
「すみませーん。」
「誰か居ませんかー?」
みたいな感じで、皆さんが声を掛けました。
チェーンを外さないままでドアを開けた30歳くらいの男性が、
「敵ではないよな?」
「だったら殺すが…。」
血走った眼で睨み付けてきます。
「違いますよぉ。」
「そちらの安全の為に結界を張りに来た者でぇす。」
と述べたショートボブさんに、警戒と緊張とを漂わせている相手が訝しがりました。
〝意味が分からない〟といった様子の男性に、“攻撃魔法”を扱っていたショートヘアーさんが、
「俺たちは“自警団”です。」
と、告げたのです。
そこからは、黒髪ロングさんも加わって、何やら説明していました。
〝あくまで善意である〟〝お金を貰ったりはしない〟〝近くに警察がいるから連れて来てもいい〟といった具合です。
「……信用しよう。」
「お願いしても?」
そう窺ってきた男性に、
「はい!お任せを!!」
笑顔になったボブの“クレリック”さんが【結界】を発動したのでした。
お巡りさん達から離れ過ぎない距離にて、別のお宅にも訪問し、結界を張りました。
こちらは私が担当する事になったのです。
それ以外の家々も探ったモヒカンさんが首を横に振ります。
軽く溜息を吐いて、
「これだけしか残っていなかったか…。」
「仕方ない、戻ろう。」
と促したロングヘアーさんに従い、全員で警官が待機している場所を目指したのです。
「そういえば、紹介が未だだったわね。」
「私は、神沢紗凪、こっちが弟の…」
黒髪ロングさんに続いて、
「真守。」
攻撃魔法を使っていた男性が名乗りました。
「私はねぇ、神岳穂乃歌で、こっちは…」
「兄の穂積だ。」
こちらの人たちは、ショートボブさんと、ソフトモヒカンさんです。
てっきり二組のカップルかと思っていたら、〝お隣さんで幼馴染〟との事でした。
24歳の会社員である穂積さんは【アサシン】となり、21歳で大学生の紗凪さんは【武闘家】に、19歳の専門学生である真守さんは【魔法使い】になっていたそうです。
ちなみに、【クレリック】の穂乃歌さんも大学生であり、紗凪さんとは同い年であるとの情報でした。
「私は、最神琴晴と申しまして…、高校生です。」
と、返したところ、
「それじゃあ、“琴晴ちゃん”って呼んでいい?」
人懐っこいタイプの穂乃歌さんが聞いてきたので、「はい、構いません」と頷きます。
紗凪さんの、
「ところで…、なんで琴晴ちゃんは一人で街をウロついていたの?」
との素朴な質問に、親戚宅を回って結界を張っていく旨を伝えました。
「だったら俺達も付き添おう。」
「東方面の一部は担当区域だからな。」
穂積さんの提案に、真守さんが、
「そうだね、“戦闘職”とは言え女子高生一人じゃ危険だろうし、これも自警団の務めだしね。」
と同意します。
「あの…、自警団、とは?」
首を傾げる私に、紗凪さんが、
「うちの近所で、戦える人たちと旗揚げした即席のチームだよ。」
と、語りだしたのです―。