138.決勝戦です・ドゥ
私達が待機している東側の[楽舎]に、ヒデさんが戻ってきました。
「すまない。」
謝るヒデさんを、
「いや、気にすることはない。」
「いい勝負してたぜ。」
穂積さんがフォローします。
これに続いて、
「そうだよ、ヒデっち。」
「ドンマイ!」
ミサさんが励ましました。
あちらでは、
「よーし、よし!!」
「このまま勢いにノッていこーうッ!」
【勇者】たるアケミさんが鼓舞し、お仲間が〝おおー!!〟と盛り上がっています。
そんな状況にて、
「両チームの次鋒は、近くまで、お越しください。」
審判さんが促しました。
自身の両頬を手で〝パァアンッ!〟と叩いて気合を入れた壱紀くんが、
「じゃあ、行ってくる。」
私に告げて、[木斧]を手に取り、“舞台”へと向かったのです……。
[レイヤー×スレイヤーを愛する者たちの集い]からは、【侍】のジュンヤさんが登場しました。
左手には[木刀]を握っています。
「 “サウスポー”が出張ってきたか…。」
[円山公園]での予選と準決勝でインプットしていた団長さんが、
「右利きにとっちゃあ、やりづらい対戦になるだろうが……、頑張ってもらうしかねぇな。」
独り言かのように呟きました。
舞台の中心では、“黒髪ボブ”の審判さんが、改めてルールを説明していき、
「第二試合…、始めッ!」
合図を送ったのです。
おもいっきり左足を踏み込んだ壱紀くんが、右から左へと木斧を払います。
これを後方へと躱すジュンヤさんは、〝ブォッ!!〟という風圧に、
「おッ!」
いささか驚いていました。
なにせ、【戦士】は“パワー系”ですからね。
別に壱紀くんの事を見下していた訳ではないでしょうが、明らかに高校生である男子にしては〝予想以上に力がある〟といった感じだったのかもしれません。
何はともあれ。
壱紀くんが、木斧を、縦・横・斜めへと振るいます。
ジュンヤさんは、それらの攻撃を、バックステップやサイドステップで避けたり、木刀で受け流していったのです。
「ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」
紗凪さんの指摘に、
「確かにね。」
真守さんが頷きました。
「〝意地でも負けられない〟といった感じで、空回りしちまってるな。」
そう分析した光沖さんが、
「落ち着け、青年!!」
「“じっくり”で構わんぞ!」
声を掛けます。
しかし、これは、少し遅かったみたいです。
壱紀くんが右斜め下から左斜め上に払った[木斧]を、右(我々からは左)へと逃れたジュンヤさんが、隙だらけの左脇腹を[木刀]で〝ドンッ!!〟と叩きました。
[薄鉄の鎧]を装備しているとはいえ、なかなかの衝撃があったのでしょう。
「ぐッ!」
壱紀くんが眉間にシワを寄せます。
それでも止まろうとしない我らが従兄妹は、痛みを堪えて、木斧を左から右へと振ったのです。
ただ、この一撃は、誰も居ない所を虚しく斬っただけでした。
なぜならば、ジュンヤさんが、それよりも先に、壱紀くんの背後を取っていたからです。
壱紀くんの左首に、ジュンヤさんの木刀が〝ピタッ〟と添えられます。
これによって、
「勝者、ジュンヤ選手!!」
二試合目が終了しました。
悔しさのあまり項垂れる従兄妹に、
「悪くは無かったが……、全体的に動作が大きかった。」
「武器をコンパクトにも扱えるようになれば、もっと成長できると思うぞ。」
ジュンヤさんがアドバイスします。
それを受けた壱紀くんが、
「あざっす!」
深々と頭を下げたのです。
柔道経験者である彼は、礼節を重んじたのでしょう。
これは素晴らしいことなので“良し”として…。
二敗目を喫し、後がなくなる[シンオウ連合隊]でした―。