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SEED NOVA  作者: 雨宮ヒスイ
3/6

蒼の死神②

そんな私の髪を、ジュースはじっと見下ろすと指先で軽くすくった。


「結構伸びてしまいましたね。また短く切りましょうか?」


「えっ? う〜ん……どうしようかな」

 

私はジュースによく自分の髪を切ってもらっている。それは自分で切ると悲惨な事になるからってことじゃない。ただいつもジュースが『切りましょうか?』って聞いてくれるから、その言葉にいつも甘えているだけ。


「ねぇ。ジュース。ショートとロングだと、どっちが私によく似合うと思いますか?」

 

いつもはショートにしてもらっていたけど、肩に掛かるくらいまで伸びてしまったのなら、いっそこのまま伸ばしてみるのもありかもしれないと思った。


「そうですね……。俺としては、どんな髪型もあなたによく似合うと思っていますので、アリア様が望む方で良いと思います」


「ま、またそういうこと言う……」

 

彼の言葉に私は頬を赤くする。

 

本当にジュースは思った事を素直に言う人だ。特に私と二人きりの時はそうだ。


「ジュース。また『様』が付いてますよ。あと敬語も」


「あっ…………すまない、アリア」


「そう、それでいいの」

 

そう言って私は頬を膨らませてそっぽを向いた。

 

ジュースはとても律儀な人だ。私に対する敬語だって、前に『いつも通りで良いじゃない』って言ったら。


「いいえ、これだけは譲るわけにはいきません。これは俺があなたに対する尊敬の意味でもあるんですから」

 

と言って、敬語をやめてくれない。こういうところは本当に頑固だと思う……。

 

でも『二人きりの時は敬語なし!』と、私が譲らない姿勢を取ったら彼はようやく頷いてくれた。

 

小さい頃から一緒に居るのに、ジュースは全然変わらない。変わった事があるとすれば、それは私たちの関係性だけ。


私は髪に付けている指輪状のヘアカフスにそっと触れる。決して可愛くもおしゃれでもないこの髪留めは、私にとって一番大切な物だ。

 

ヘアカフスの色はシンプルなシルバーで、青緑色のグラーデションで彩られた羽が一枚吊るされている。


その羽は私が頭を揺らす度に、優しく頬を撫でてくれる。まるで『大丈夫だよ』と言ってくれている気がして、その度に私は真っ直ぐ前を向くことが出来るんだ。

 

ヘアカフスから指先を離した私は、横目でちらっとジュースの顔を瞳に映す。髪色は翡翠色で、瞳の色も髪に似合う深緑色。髪質は猫っ毛で触るとふわふわして手触りが良いんだけど、ジュースは恥ずかしがって中々触らせてくれない。

 

そんな彼の両耳には、ずっと前に私が誕生日プレゼントであげたピアスが付けられている。ピアスの中央にはアパタイトの宝石が小さく埋め込まれていて、キラキラと光って見える。

 

じっとジュースの顔を見ていた時、上を見上げていた彼が私の視線に気がつく。そしてふっと優しい笑みを浮かべた。


「そんなに俺の顔をじっと見てどうしたんですか?」


「っ! な、何でもないです!」

 

急に恥ずかしさが込み上げてきた私は、慌ててフードを被って顔を隠した。

 

ずっと前にあげたピアスを、今でもずっと身につけてくれている事が嬉しくて、じっとジュースの顔を見ていた、何て絶対本人に知られたくない! そう思った時、乗っていたエレベーターが最上階についた。

 

エレベーターの扉がゆっくりと開かれると、目の前には真っ黒な闇が広がっている。

 

私は被っていたフードを下ろして、じっと前を見据える。一歩前に踏み出してエレベーターから出た時、聞き覚えのある声が降ってきた。


「あっれ〜? 蒼の死神様じゃん。今頃着くとか遅くね?」

 

その言葉が部屋の中を反響した瞬間、部屋の明かりが一斉に灯された。

 

私たちが乗ってきたエレベーターはそのまま下へ戻って行き、エレベーターで見えていなかった後ろの席に着いている人たちの姿も現れる。

 

その中のたった一人。先程私たちに声を掛けて来た人物は、机に肩肘を着きながら、私の姿を見つけると、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。

 

相変わらず嫌な笑顔を浮かべる。内心でそう思っている私の後ろでは、声の主に対してジュースが殺気を放っている。このままだと本気で今にも斬りかかりそう。

 

そんな彼を横目で静止させながら、私は口を開いた。


「遅刻はしていません。それに私たち第一特務部隊は、任務を終えてたった今帰還したところです。それだと言うのに、あなたは相変わらず労いの言葉をかけてくれないのですね、第二特務部隊部隊長――アラン・アレグリアス」

 

アランは私に言葉に驚いて目を見張った。すると今度は急に高笑いを上げると、緋色の髪をかきあげる。


「はっ! 労いの言葉だって? あんたらに労いの言葉なんて必要ねぇだろ? だって第一特務部隊は、他の部隊と違って実力派揃いのエリート部隊じゃねぇか。そんな奴らに労いの言葉を掛けろだぁ? あんたは相変わらず面白い事を言うんだな。なぁ、蒼の死神様よぉ」

 

アランは椅子から立ち上がり、机の上に勢い良く片足を乗せると、そのまま少し前のめりになって言葉を続ける。


「それに今日は新人教育のための任務だったんだろ? それなら直ぐに終わらせて帰って来れんじゃん。なんせ蒼の死神様が直々に選んだ面子だ。アビスを一体や二体殺すなんてこと秒殺じゃねぇか」


「黙れアラン! それ以上この方を侮辱するなら、今ここで斬り捨てるぞ!」

 

ジュースはアランにそう叫ぶと、腰にある剣の柄を力強く握りしめた。

 

そんな私の後ろに居るジュースを、アランは少し苛立ったように表情を歪ませると、紫色の瞳で彼を睨みつけた。


「ジュース・グリーングラッド。俺はお前と話してんじゃねぇんだ。いつまでも死神の後ろに居る奴に言われても、全然怖くねぇなぁ」

 

アランはジュースを煽るように言葉を投げる。


「それに俺はあんたの事が一番理解できねぇ。お前の実力なら蒼の死神なんかよりも、ずっと隊長に向いていると俺は思う。なのに、何でお前はそんな女の後ろに居るんだ? どうしてそいつに従う? そんな奴のどこが良いって言うんだ?」


「…………」

 

ジュースはアランの問いかけに何も応えず、剣柄から手を放した。


「アリア様。あんな奴は放っておいて、俺たちも席に着きましょう」


「……えぇ、そうですね」

 

私はジュースの後を着いて行きながら、アランたちの目の前を通り過ぎて行った。

 

そんな私たちの事が面白くないのか、アランは周りの人達にも聞こえるように大きく舌打ちすると、ドカッと自分の席に座り直した。


「相変わらずの無視かよ。全然面白くねぇな。なぁ、そう思わねぇか? フォリア」

 

アランは自分の左隣に座っている副隊長――フォリア・フォーネットに声を掛ける。


「そうですね。相変わらずあなたは、彼らに喧嘩を売らないと気がすまないの?」

 

フォリアは読んでいた本を閉じると、金髪の髪を左耳に掛けてから緑色の瞳を彼へと向ける。


「別に喧嘩なんか売ってねぇさ」


「じゃあ何ですか? もしかして構ってちゃんなの?」


「んなわけあるか! これはただの挨拶だ!」


「挨拶? ……はぁ」

 

彼女はいつもアランの言う事に対してや行いについて、自分の意見を言うことはない。ただ後ろに立って、様子を見守っているだけ。

 

しかし度が行き過ぎた発言や行いの時だけ、彼女は実力行使で彼を止める入る事があるらしいと、前に噂で耳にした事がある。


普段本を読んでいる姿しか見たことがないから、彼女が実力行使でアランを止める入る場面を、私は一度で良いから見てみたいと思った事がある。

 

フォリアをじっと見ていた時、彼女と目があった。フォリアは私に軽くお辞儀をして返すと、さっきまで読んでいた本の続きを読み始める。


「アリア様。今日の議題は確か――」


「……っ」

 

ジュースが言葉を紡ぎかけた時、部屋の中が今度薄暗くなっていく。

 

自分たちが座っている場所も闇の中に飲み込まれると、私たちは宙に浮きながら座っているような光景に変わる。


『やぁ、みんな。よく集まってくれたね』

 

と、部屋の中に男女の声が何人も混ざりあった悪声が、部屋の中を反響した。その声に誰も表情を一つ変えることなく、目の前に出現した七つの真っ青な灯火をそれぞれ瞳に映す。

 

そして中央に投影された言葉を見て、私は鋭く目を細めた。


『ではこれより、第二十五回アビス殲滅作戦についての会議を始める』

 

その時誰もが思い出したはずだ。あの時の光景を、目の前に広がった数多くの死者たちのことを、自分の手が真っ青な血に染まった時の事を、初めてアビスを殺した時の感触を――そして大事な人を失った時の記憶を。

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