7-真実
目が覚めた。
正確には、主電源が入れられた。
「いいデータが取れたわよ」
俺を作った博士が目の前にいる。
初老の女性で、つまり俺の母親である。
「スズは・・・無事だよね?」
「もちろん。ちゃんと家まで送って行ったから」
それだけが心配だった。
あんなところで放置されて、その後どうなったのか。
「データってなんのこと?」
ふと浮かんだ疑問だ。
「あなたのデータよ」
「だから、なんの?」
「感情」
感情?
「スズに抱いた大切な気持ちをデータ化したの」
「なっ」
急に怒りの感情が出てくる。
どうして、どうして俺は人間を傷つけることができないんだ。
「そうそう、あのスズだけどね。あれは私の子よ」
「は?」
「だから、スズは私の娘なのよ」
思考回路パニックの展開だ。
「あなたはね、スズに会うことが約束されてたの」
「それをスズは知ってたの?」
「もちろん、なんにも知らないわ。でもあの子の性格はよくわかってるから」
「だって、家にあんたいなかったじゃないか!」
「しょうがないわね。あなただって使ったじゃない」
使った?
博士は急に自分の首周りからなにかを脱ぎ始めた。
「ほら、見覚えある?」
人の顔をかぶっていたのか?
そこにいたのは、たしかにスズのお母さんだ。
「これ、光学迷彩の応用よ」
一本も二本も上手だ。
「この愛おしいっていう感情ね、どうしても作ることができなかったの」
急にデータの話になった。
「恋をするという胸の高鳴りとかを表現することはできたんだけど、根本が難しいのよね」
「それで?」
「娘ならあなたのことを大事にするわ。だからわざと脱走させ、あなたをスズが拾うように仕向けたのよ」
「俺の感情はコントロールされていたのか?」
「半分正解だけど、半分不正解」
まどろっこしい言い方がイライラする。
「あなたがスズに抱く気持ちはランダムよ。ただ、愛に発展するような仕組みにはしてあったけどね」
「偶然なのか?」
「そうよ。奇跡と言えるわ。あら、そう言えばあなたはペットロボって設定になってたわよね?」
「え?設定?」
「そう。なんでペットロボのコンペロであるあなたに光学迷彩や足音消音機能とか付けなきゃいけないのよ」
そんなこと知らない。
「あなたはヌル。諜報用情報管理ロボ。自衛隊の新しい技術よ。その試作機」
諜報?自衛隊?
「COCは?」
「名前と施設を借りただけよ」
「なっ・・・」
絶句だ。
「でもね、名目はそんなんだけど、あなたは全てのロボットのパパになるのよ」
「パパ?」
「そう。ロボットは人間の言いなりになるだけじゃダメなの。人間を大切に思う気持ちがあってこそ、いざという時に役に立つ。あなたは人間を想う気持ちを持った初めてのロボットなのよ」
そんなことはどうでもいいんだ。
「俺はこの後どうなる?スクラップか?それとも記念として飾られるのか?」
「どちらでもないわ」
一呼吸。
「スズの元に帰ってあげて。スズもそれを強く望んでるわ。もうデータも回収したし、行っていいわよ」
「スズは本当になんにも知らないのか?」
「んー、きっとあなたがロボットってことくらいはわかってると思うわよ。あとそれを作ったのが私だってことも・・・たぶん勘で」
「わかった。・・・今、俺がスズのことを想ってる気持ちっていうのは、コントロールされてるわけじゃないんだよね?」
「もちろん」
「ありがとう」
自然と言葉が出た。
なにはともあれ、ありがとうなのだ。
「こちらこそ良いデータをありがとう」