5-首輪
寝るときはテントで寝た。
昔の遊び道具でいうメンコみたいな形の真ん中のボタンを押すだけで、あっという間にテントができるのだ。
寝心地がいいっていうわけじゃないけど、寒さとかは凌げるし、野宿にしてはなかなかの環境だと思う。
もちろん、なんでスズがそんなものを常備してるかについては聞かないでおいた。
というよりも、なんとなく想像がついた。
「それじゃ、北にいこう!」
元気よくスズが先陣を切る。
昨日までは俺が先を歩いていたのに、今度は少女につきまとう変な猫って感じだ。
「ヌル、私ね、昔猫飼ってたんだ」
初耳だった。
「その猫の名前はプーリンっていうんだけど、すっごいヌルに似てたんだよ」
その名前はどうなんだろう。
「でも、ある日突然どっかに行っちゃってさ」
「え?」
「結構探したんだけどいなかった」
猫の考えることはよくわかんないね。
「それまで首輪がついてなくてね、ほら、その時あたしちっちゃかったからさ。全然お金とかなくて、首輪を買ってあげられなかったのよ」
「お父さんとかが買ってくれるものじゃないの?」
「うーん、まぁ飼うこと反対されてて、無理やり飼っちゃったからさ。捨て猫だったんよ」
「そか」
「そいで、ちょうどお金が貯まって、首輪を買ってきたらいなくなっちゃったっていうね」
スズは小さい頃から強情で、でも優しかったんだなぁ。
「スズは優しいね」
「てへへ、そんなことないから」
恥ずかしがって笑う姿が可愛い。
「だからさ・・・」
「ん?」
「ヌルにも首輪買ってあげるね」
「え、ほんとに?」
思えば、俺は首輪をつけてなかった。だから余計に野良猫が少女の後をつけてるように見えたんだ。
「なんでさ、このタイミングで?」
「え、ふつーに今思っただけだよ」
普通に今まで首輪のこととか忘れてたってことらしい。
なんともスズっぽい。
「ほら、ペットショップあるじゃん。行こう?」
「うん」
ペットショップにはいくつかの首輪が並んでいた。どれもそれほど高くない。いや、高いのももちろん存在するが、特にデザインの差を感じることはなかった。
「じゃあ、青!」
そう言って買った安物の首輪を俺につけてくれる。
「ほら、似合うじゃん」
俺は嬉しくなり、ガラスの反射で自分の姿を何度も何度も見てしまった。