3-逃避
「ほら、走って!」
俺はスズの先を走って、スズを先導する。
とにかく逃げなくちゃいけない。捕まったらダメだ。
「どこに行くの?」
「身を隠せるところを探そう。とりあえず北に行く」
「ヌルは怪我、大丈夫?」
「大丈夫。ダメでも俺はスズを守る」
一匹の猫と一人の少女が町を走り抜ける。
あたかもスズが俺を追いかけている光景に見えるだろう。
そもそもなぜ逃げているのか。それはさかのぼること二時間前・・・・・・。
ピンポーン。
突然にインターホンが鳴る。
そりゃ、インターホンが鳴りますよって言って鳴ることなんてまずないんだけどね。
俺は二階のソファーでまだ横になって傷の修復に集中していた。
スズが階段を下りる音が伝わってきた。
「はい」
「あなたの家に、猫がいますよね?」
「・・・・・・あんたらなに?」
あんまり良い雰囲気じゃなさそうだ。
すごく嫌な予感がする。
「ちょっとあがらせてもらいますよ」
「ふざけんなボケ!」
これは絶対にやばい。
「スズ!逃げて!!公園!!」
俺はそれだけ言って、開いていた窓から外に飛び出した。
損傷個所が思い通りに動かなくてイライラする。
勢いよく飛び出した俺を黒服の男たちが追いかけてくる。
それにしてもなぜこの場所がバレてしまったのか。
とにかく今は逃げることが最優先。
俺は男たちをギリギリまで引き付けた。
そして・・・消えた。
そう、俺は光学迷彩機能付きのロボットなのだ。消費エネルギーが高くなるけど、肉眼で捉えるのはまず不可能だ。
猫独特の歩調で、足音も消す。
そうして俺はあの公園へと足を運んだ。
黒服の男たちは、あたりを探しているが、全く見当違いだ。
「スズ!」
公園にはスズしかいなかった。
スズが心配そうな顔で立っている。
どうやら男たちはスズには手を出さないらしい。
「逃げよう」
「え?もしかして追われてる系?」
「うん」
「わぉ、やっぱり喋れる猫は人気もんですな」
人気があって追われてるならまだいいんだけど。
「とにかく、ここから離れよう」
「やっつけちゃえばいいじゃん」
そうしたいのは山々だが、俺はロボットだから人を傷つけることが出来ないのだ。
「それはできないんだ」
「ほぅ、ならしょうがない」
聞き分けのいい子でよかった。
そうして俺たちは走ったり、歩いたりしながら北にむかって逃げていた。
「ヌル、なんで北なの?」
「え、逃避行と言えば北上っていうでしょ?」
「ほぅ、そうなんだぁ」
俺のデータにはそう書いてあるんだけど・・・なんで?