2-ショート
公園の外はすぐに道路になっている。
車の音を聞いた俺は、咄嗟に子供を守っていた。己の意思じゃない。ロボットのルールによってだ。
人間の命を守ることが最優先事項になっている。
俺は子供の代わりに車に激突した。
衝撃はひどいものだった。
一瞬だけど、電源が飛んだ気がする。
「ヌル!」
ふっとばされた俺に駆け寄るスズ。
「大丈夫・・・。ちょっと痛かったけど」
もちろん痛覚は存在する。しかも右前足に損傷があるようだ。
俺の体には無数のナノマシンが存在していて、自動修復機能も搭載されている。
つまり、ほっとけば治るわけだが、それも時間がかかったりする。
「びっくりしたよほんとにもう」
若干涙目のスズは、俺を抱えて、車の運転手もシカトして、轢かれそうになった子供すらもシカトして家に走った。
まぁ、子供はすぐに立ち上がってて、特に怪我はしてなさそうだったからいいけど。
「無茶しないでよ」
帰ってすぐ、俺はふかふかのソファーに横にならされた。
ロボットだから大丈夫と言いたい。
いや、なんで俺はロボットであることを隠しているのかわかんなくなってきた。スズに心配かけたくない気持ちがすごく溢れてくる。
「ほんとに大丈夫だから」
右足には包帯が巻かれていた。何の意味もないのに、なんとなくうれしかった。
右足が痛いはずなのに、胸が苦しい感じがする。
「スズ・・・」
「ん?」
でも、その先の言葉が出てこなかった。
これがどういう感情なのかわからない。
自分の脳内をフルで検索するけど、データの中に感情は入っていない。
「なんでもない」
「うん」
ふと、公園での話を思い出す。
『愛の告白』
愛ってこういうことなのかな。
そうなのかと思った瞬間、ものすごい葛藤が俺の中に起きてしまった。
猫と人間なんて不釣り合い。
さらには、ロボットなのに恋をしてしまった。
そもそもバカバカしい話だと思われそう。
思考がおかしくなりそうだ。
車にぶつかっておかしくなったのかな。
自分が自分でないような、不安定な感情が渦巻く。
「ヌル?体が熱いよ?熱あるの?苦しい?」
心配してくれるスズが愛おしく感じてしまう。
ロボットのくせになにをしてるんだろう。
俺はこのぐるぐるから逃げ出すために、いったん自分の思考スイッチをオフにした。