1−スズ
一つだけ確かなことがある。
俺はロボットだ。
コンペロと呼ばれるロボットだ。
正確には自動思考性愛玩機械動物シリーズのタイプ・キャットである。
「あたしはスズ」
スズは中学三年生らしい。
自分に自覚はないようだが、とんでもなく変な人だ。
あんまり人と接したことのない俺が言うくらいなんだから、確実だと思う。
「ヌルはぬるぬるしてるからヌルなの?」
アメリカンショートヘアの外見のはずなのに、ぬるぬるしてるってどういうこと?
「ヌルはドイツ語でゼロって意味なんだよ」
「ほぅ」
答えがわかれば、すでにもうスズの興味からそがれてしまう。
そんな会話から始まった生活は、もう二カ月が経とうとしていた。
その間、俺はずっとスズの部屋で生活していた。
スズの部屋は俺にとって狭かったけど、そもそもロボットの俺があえて何かをするっていうことはなく、もちろん愛玩用のロボットだからスズの言いなりでのんびりしていた。
「今日はさ、外を散歩しよう?」
急に言い出した。
一体何に影響されて言い出したのかもわからないし、何を目的としてるのかもわからないけど、スズは突発的な人間だから、特に意味はないのかもしれない。
そう、俺はロボットのくせに、スズの発言は考えるだけ無駄ってことに気付いてしまったのだ。
出会って間もないころに、考えすぎて頭がショートしそうになったのがトラウマになっているのも一つだろう。
「いいよ」
二か月ぶりの外は、どうやら不審な影はなさそうだった。
外に出て初めに目についたのが大きなビル。
COCと書かれた看板が目につく。
俺はあそこで生まれたのだ。
嫌な記憶がよみがえる前に、歩き出した。
「どう?久々の外は」
「うん、気持ちいいよ」
堅いアスファルトについた肉球は、決して気持ちのいいものじゃなかったけど、例えば外の風とかそういうのを総合的に見たら気持ちいいという結論に至ったわけだ。
「どこ行くの?」
「え?」
これがスズだ。外に出ようと言っておいて、どこに行くかなんて全く考えていない。
「んー、じゃあ公園行こう」
そもそも、首輪のしてない猫と一緒に歩く少女の絵は客観的に見たら絶対におかしい。
「変じゃない?」
「なにが?」
「この状況っていうか・・・」
「あー、うん」
肯定した。
「首輪買ってあげるよ」
そういう問題なのかどうかよくわかんないけど、それでいいことにした。
公園はさほど遠くなかった。
家を出て十分も歩けば着いてしまう。
コンクリートジャングルに囲まれた緑の楽園は、砂場とすべり台と赤いベンチがあるだけの小さな小さな公園だった。
自然の流れでスズはベンチに座った。俺はその隣に腰を下ろす。
小さな子供たちが、狭い公園をいっぱいに使ってボール遊びをしている。
そのボールを目で追う。猫のクセかな。
「あたしの家にいて退屈じゃない?」
首を振る。
スズと一緒にいて退屈なわけがない。
スズがいない時は省電力モードにしてるから問題はない。
「スズと一緒にいたら楽しい」
思った言葉をそのまま伝えた。
「なんか告白されたみたいー」
あははーっと笑って俺を撫でた。
「告白って?何の告白?」
告白とは、自分の胸の内に秘めている何かを相手に伝えることのはず。
別に俺は何も隠してないけど。
「もちろん愛の告白だよん」
「愛?」
「うんうん」
「愛を告白するの?」
どういう意味だろう。
愛の意味がわからないというわけじゃないが、愛を告白するという動作がよくわからない。
「人間はね、好きな人に素直に好きって言えないの」
「へぇ」
「だから、意を決して告白するのよ」
なるほどー。
「でも、俺は好きって言ったわけじゃないよ?」
「好きって言葉はいろんな言い回しがあるじゃん」
「難しいんだねぇ」
「そだよ。あたしもよくわかんないし」
また、あははーっと笑った。
子供たちのボールがいつもよりも大きく飛んだ。
「あっ」
一人の子供が公園の外に飛び出した次の瞬間、俺はその子供に体当たりをしていた。
ドンッ!!!!!!!!
急ピッチで書いてます。
がんばらないと・・・。