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【第一話】どうやら転生したらしい



王太子就任に伴うパレードで人がひしめき合う街道の向こうより、高らかな楽隊の音色と共に馬車がやってくる。

その豪奢で品のある白い馬車からひらひらと手を振る幼い少年…フィンレー王太子の笑顔を見て、私は頭を殴られたかのような衝撃を受けていた。


怒涛のように一気に記憶が流入し、私の中を荒れ狂う。

こっそりパレードに連れてきてくれた孤児院の仲間が


「おい、どうした?顔色が悪いぞ?」


なんて声をかけてきてくれたけれど、私にはそれに応える余裕など無かった。




グルグルと記憶の濁流に翻弄される中で、私の直感が告げる。

…ここは、前世で私が大好きだった漫画『君と白薔薇』の世界なのだと。




















『君と白薔薇』。

それは前世の私が夢中になって読んだ漫画だ。

主人公はシャーロット・ミシェルという女の子。

彼女は「動物たちと会話出来る」という特殊能力を持っており、その特殊能力を駆使して様々な問題に立ち向かう。


主人公シャーロットは特待生として王立学園に入学するのだが、そこで2人の青年と出会う事になる。

天才肌の王太子フィンレー・マルティネスと、思慮深い公爵令息ウィリアム・ムーアである。

元々良き友人同士であったフィンレー王太子とウィリアム公爵令息は、白薔薇の園を散策している最中にシャーロットが動物と話をしているのを偶然目撃してしまう。

「動物と話をする事が出来る」という事を気持ち悪がられるのではと警戒するシャーロットに、フィンレーとウィリアムが優しく声をかけた事がきっかけとなり3人は徐々に打ち解けていく。


最初はシャーロットの特殊能力にのみ興味を示していたフィンレー王太子とウィリアム公爵令息だったが、シャーロットのその前向きな性格に惹かれ、いつしか恋をするようになった。

シャーロットは2人の男性のはざまで揺れ動き次第に彼女は自由奔放なフィンレー王太子に惹かれていく。

そんな恋模様が動く中、水面下では魔獣の増加や反王族派の台頭が進行していた。


学園を卒業してから増加した魔獣の被害を食い止めるため、太古の森へ派遣されたフィンレー王太子と公爵に就任したウィリアム。

しかしそこに反王族派が奇襲を仕掛けた。

反王族派からフィンレー王太子を逃がし軍勢に立ち向かったウィリアムは重傷を負い、フィンレーが魔獣の核を破壊して戻った頃にはもはや手遅れ。

その後治療の甲斐なく亡くなってしまう。


悲しみに暮れるシャーロットとフィンレー。

「絶対に仇を打つ」と使命に燃えるシャーロットは動物たちの力を借りて奇襲を仕掛けた反王族派の貴族たちを炙り出す。


そして見事に仇を打った後、2人は白薔薇が咲き乱れる中でウィリアムに思いを馳せながら結婚式を挙げた。

白薔薇をウィリアムの墓にそなえた2人は決意を新たに国王夫妻となり、末永く泰平な国を築きましたとさ。

めでたしめでたし、ハッピーエンド。









……って、こんなの全然ハッピーエンドじゃない。










私は、前世でウィリアム様を推していた。

『君と白薔薇』の物語上でウィリアム様が亡くなった時にはショックで暫く寝込んだほどだ。









 反王族派に奇襲をかけられた時。


「お前をおいてなんて行けない‼︎」


と叫ぶフィンレー王太子を、ウィリアム様は静かに諭した。


「君は生きるべきだ。国のためにも、シャーロット嬢の為にも」


そう言ってフィンレーを先に行かせた後、震える足を叱咤しながら敵に立ち向かった、ウィリアム様。








重傷を負って自領の城に運び込まれた後、泣きながら縋り付くフィンレー王太子に


「国のためにも、シャーロット嬢の為にも君は生きるべきだって言ったけど、半分は嘘。僕はただ君に…大切な友人であるフィンレーに生きていて欲しかった。ただ、それだけなんだ」


と意識を朦朧とさせながらも微笑んだウィリアム様。








フィンレー王太子の隣で泣くシャーロットに


「君の事を愛している。君がフィンレーと幸せになれるよう祈っているよ」


と言い残して瞼を閉じた後、二度と目覚める事は無かった、ウィリアム様。













何度もストーリーを読み返した。

読み返したら、物語が変わるんじゃないかとありえない期待をして、何度も、何度も、何度も。


そしてその度に絶望した。

ウィリアム様はもう戻ってこない。

繊細な心を持ち、思慮深く、領主として人として常に優しく正しくあろうと努力していたウィリアム様は、もう目覚めない。
















ショックで何日も寝込んで、失意の中ふらふらと外に出たら車に轢かれて私は死んだ。



そして今。

『君と白薔薇』の世界に生まれ変わった。

完全なモブで6歳の孤児…リア・フローレスとして。




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