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 鬼ごっこ



 【酒鬼しゅききり】。


 霧に包まれた者の感覚を狂わせ、知覚や身体能力を著しく低下させる【妖術】だ。


 殺傷能力は皆無に等しいが、例え大柄の屈強な男でも、とてつもない酒豪な人物でも、身動き一つ取れなくなる程の効力を秘めている。


 そんな妖術を真正面から受けてしまった以上、流石の英雄であったとしてもマトモに立つことは出来なくなるだろう。そうでなくとも、紛れもなく目眩ましにはなった筈だ。


 加えて、自身の姿を透明化させる妖術、【かすみがくれ】。


 更には、『鬼』の身体能力で、深い森林の枝木を跳んで逃げれば、ワレに追い付ける者は誰一人として居ない。


「よしよぉし……あの英雄さんから逃げおおせてやったぞぉ……」


 嫌でも、理解している。


 正面からあの代闘者を相手にしても、自分では到底敵う筈がないってことは。ならば、ワレが『代闘者に勝つ』方法は、『戦略撤退』しかなかった。


 そう、ここは、何としてでも生き残らなくてはならないのだ。


 こんなところで、ワレはまだ、居なくなる訳には……。


「──逃がすか」

「え」


 木々の間を飛び抜けていた、その最中。


 男の声が鼓膜を撫でたと思ったら、突如────目の前に黒い人影が飛び出してきた。


 突然の出来事に、ワレはそのまま人影に突撃すると、一瞬の内に視界が暗転。


 気付けば、ワレは着物の後ろ襟首を掴まれて、木の上から宙吊りになっていた。その襟首を掴んで平然と立っているのは当然、湊本エルマだ。


「なんでぇ……? ワレ、確実に逃げ切った筈だったのに……?」

「俺は、お前たち妖族が妖力を使って召喚した……いわば、『妖力で構成された身体』をしているらしいからな」

「それって、まさか……妖術に対する耐性が普通と比べて『桁違い』ってこと……?」

「耐性というより、適応力ってヤツだろう。ちなみに、あの【霧】でダウンしたのは魔王様だけだったぞ」


 つまり、代闘者の二人に【酒鬼の霧】は一切通用しなかった……ということか。


 別に彼らと張り合うつもりは毛頭ないが……ここまでの『差』を見せ付けられると、正直、妖族としての自信が揺らいでしまう。


「マジ、かぁ……だとしても、なんでワレの逃げている方向が分かったの……?」

「ただ見えなくなっただけなら、『痕跡』は残る……地面の足跡、枝木の折れ具合もそうだ。それに、お前の身体能力を考えれば、木々を跳び移って逃げるだろうってことは、予測出来た。後は、その痕跡を辿るだけで、姿が見えなくても追い付くことは出来る」

(いやいや……理屈では、そうなんだろうけど……そんなこと、この一瞬で出来ることじゃないでしょ、普通はさぁ……)

「まぁ、例え地の果てまで逃げたとしても────絶対に逃がしはしないがな」

「ぅ……っ!?」


 途端、背筋が一気に冷たくなり、全身が小刻みに震えを起こす。


 この背中を突き刺すような鋭い気配────まさか、『怒らせた』?


 猛烈な恐怖心が脳裏に襲い掛かり、何も出来ずに硬直していると……彼はまるで脅し立てるように、ワレの耳元で、低く圧の強い声色で、こう囁きかけてくるのだった。



「さて。約束通り、話して貰おうか────お前たちの正体、そしてその目的を」








─※─※─※─※─※─※─※─※─※─







 里の入り口で、「もう来るなよ」と忠告する餓鬼衆に見送られて、妖域を立ち去るミオとガウスの姿があった。


 しばらくの間、ガウスは気丈に振る舞っていたが……盆地が地平線の彼方へ見えなくなると、ミオにおぶって貰い、彼女の背中にダラリと身を預けていた。


「うへぇぇ~、まったく酷い目に遭った……あんの鬼娘めぇぇ……ッ」

「災難でしたね、ガウス様。だけど、こちら側の誤解も解けましたし、一先ずはそれで良しとしましょう」

「ミオはあんなの喰らっておいて、何で平然としてんだよぉ……」

「それは、あれですよ。私って一応英雄ですから」

「答えになってないだろそれぇ……」


 逃走したイブキは、エルマの手により確保された。


 早速、イブキの口から真意を探ろうとしたが……どうにも話し辛そうに言葉を濁すばかり。ガウスに至っては、妖術によって具合が悪そうにしていたので、一先ず、魔族一行は療養の為に帰還することにしたのだ。


 もしもイブキの話す事柄が魔族にも関連することだったら直ぐに知らせる……と約束は取り付けたので、取り敢えずはエルマに任せておけば大丈夫だろう。 


「だけど奇妙、ですね。イブキさまのこともそうですけれど、餓鬼衆もすんなりと帰してくれましたし……なんだか、妖族全体の活気が無いというか、他の種族に対して妙に奥手といいますか……」


 今は停戦中とはいえ、種族間の緊張は続いている。


 本当ならば、強気に出られてもおかしくはない。


 そうでなくとも他の種族を、すんなりと妖域に入れることも、すんなりと出して貰えることも、有り得ない筈だ。


 その答えは、ミオに背負われたガウスが、当然と言いたげにこう語った。



「それはそうだろう。なんせ、奴ら妖族は────先の戦争の、『敗戦者』なんだからな」









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