《 Period 1 - 2 》 甘味な言い訳タイム
イブキの用意してくれた団子をつまみながら、改めて魔王様とミオの話に耳を傾ける。
どうやら、彼らがわざわざ来訪したのは、昨日の騒動に関して弁解したいことがあるからのようだ。
「──妖族の方から襲われた?」
「そうだっ! 我輩らは地獣王の動向を追って、妖域を尋ねに来ただけだっ! それなのに貴様らはッ……一体どんな教育を施しておるのだ!?」
「まぁまぁ、ガウス様。正面から堂々と来ちゃったこちらにも非はあると思いますよ」
「よしよぉし~。魔王様、たんと食べてねぇ」
「子供扱いするでないわっ!!」
団子にかぶりつきながら怒りの声を上げるガウスをミオが宥めると、イブキが次々に団子を提供しつつ嬉しそうに笑みを溢した。
「あの地獣王とやらが先に手を出してきたからじゃないのか?」
「彼は、普段から温厚な性格をしていて……自分から余所の種族を襲うなんてことは考えられないんです」
「つまり……あの時は妖族と魔族────『どちらもおかしかった』と考えるのが自然だな」
「なんだとッ!? 貴様ッ、我ら魔族を侮辱するか!?」
「ガウス様、シーッ。流石、エルマさまは話が早いですね。私たちはそう考えています」
何やら、唐突に話がキナ臭くなってきた。
勿論、ガウスとミオが二人で口裏を合わせて嘘をついている……という可能性も、否定は出来ない。同じ代闘者とはいえ、彼女のことを完全に信用している訳ではないのだから。
ただ、もしも彼女の言うとおり、妖族と魔族が何らかの原因で『おかしくなっていた』のだとしたら……また先日のように、この自宅を意味も無く襲撃されるかも知れない。
そんな面倒な事態になるのは御免だ。
それに……。
「例の、地獣王が行方不明になったのは?」
「今から三日前です」
「その時、他に気になったことはあるか?」
「珍しく、別の種族の来訪があったこと位ですね」
「ほー、そう、か……ふむ、うーん……ところでその話に関して、イブキ、お前はどう思う?」
俺の隣でせっせとお皿の片付けをしてくれていたイブキに問い掛けると、彼女は少しだけ驚いたように目を見開いてから首を傾げた。
「へっ、ワレに聞くの? うぅ~ん……そう言えば、一昨日にここにも『人族』が来ていたよね。何か関係あるのかなぁ?」
「人族? そうだったか?」
「忘れちゃったの、英雄さん? 来ていたよ、二人組の男の人が。そこで、英雄さんが魔獣をぶっ倒しちゃったんでしょ?」
「……!」
当たり前と言いたげな、一見何の問題もない発言だったが……それを聞いたミオが、少しだけ眉を潜めるのを俺は見逃さなかった。
すかさず、俺はミオへとこんな問いを投げ掛ける。
「恐らく、妖域と魔域を訪れたこの二人組は同一人物だろうな。ただ、ミオ。その人族の二人組は……二人とも男だったか?」
「ううん。片方は男、もう片方は女だった、かな?」
「…………なるほど。さて、この食い違いはどういうことなんだろうな?」
「──え? どうって、なにが? そっかぁ、片方は女の人だったのかぁ。見間違えちゃったみたい。ごめんねぇ、英雄さん」
この、あまりにも自然なはにかんだ笑みに、飄々とした口振り……何の意識もしていなければ、俺もただの『見間違い』だとわざわざ話題を掘り下げることもなかっただろう。
だが、俺は以前から自身の中で渦巻いていた『疑惑』を確信に変える為、イブキへ更なる追求を試みる。
「なら、お詫びに聞かせて貰えるか? 『監視役』とは何だ? 誰からの命令だ?」
「もちろん、アジュラからだよ。自由の身とはいえ、代闘者の動向はしっかり見ておかないと、何が起こるか分からないからさ」
「ミ、ミオぉ……さっきからこいつら何を話しているんだ……?」
「シーッ」
ヒソヒソとミオとガウスが耳打ちするのを傍目に、俺は一度大きく深呼吸をする。
さて、口を滑らせたか、油断していたか────どうやら、『尻尾を掴めた』ようだ。
「──何故、そんなにも安易に嘘を重ねる?」
「いやいや、なんで? 嘘なんかじゃ……」
「無道山の本殿に入ろうとした時、お前、一度その場から退散しようとしただろ」
「え……? あぁ、そんなこともあったねぇ……それが、なに?」
「監視役なら、堂々と本殿の中まで付いてくるのが普通じゃないのか? それが『アジュラ』の使命によるモノならば、尚更だ」
「それは、さぁ……遠慮、しちゃうもんじゃないかなぁ? だって、下々の者からすれば、『無道山の天狗』って神様みたいなモノだし」
「そんな神様みたいな連中が、何故お前に対しては、まるで『気遣う』ような素振りを見せていたのか……説明出来るか?」
「……それ、は……えっ、と……………ゥ……」
「ここに来たヤツらのことを、『人族』の、『二人組の男』、だと断定したこともそうだ。お前は、アイツらが『何者なのかを知っている』……だから、思い込みで喋っちまったんじゃないのか?」
「……」
「つまり、こういうことだ。あの人族たちと、お前には『何らかの繋がり』がある。そして、天狗を含める妖族は、何らかの理由で『その事実をひた隠している』……そういうことだろう?」
「……………………」
明確な確信を持ってそう断言してみせる。
すると、イブキはしばらくの沈黙の後、その場にストンと腰を落とす。
そして、何処からともかく手中に『瓢箪』を出現させると、その口栓に口をつけて、中の液体をグビグビと飲み始めた。
中身は……まぁ恐らく、酒だろう。
「──んっ、んっ、んっ、ぷはぁ~。いやぁ、こーんな少ない情報だけでそこまで嗅ぎ付けますかねぇ、普通? ふふっ、ちょっと怖すぎるでしょぉ、英雄さんさぁ」
「……!」
「いい加減に話して貰おうか、イブキ────お前、一体何者だ?」
「うふふっ。そうだなぁ~、教えてあげてもいいよぉ────このワレを、捕まえられたらねぇ」
そう言って、イブキが一度ニヤリと不敵な笑みを浮かべると……その身体が、まるで背景に溶け込むように透けていき、彼女の周囲に薄紅色の霧が漂う。
「あれは、【妖術】か……!? 身体が消えていくぞ……!?」
「酒はイイ。嫌なことも辛いことも忘れ、愉悦に浸ることが出来る。酔いとは、ひとえに幻の産物。なれば、悩める俗世の子らよ────この【酒鬼の霧】で酔い溺れるが良い」
イブキの言葉が終わる頃には、周囲の景色が薄紅色の霧で埋め尽くされ……彼女の姿は、霧の中へ完全に消え去っていくのだった。
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