小噺2 混ぜるな、危険!(フローレン&ママン&サッシー)
オンディール公爵家の日常の一コマ。
サッシーが登場してから、いつか書こうと思っていたお話です。
~混ぜるな、危険!~
お母さまのサシェを魔法で笑い袋に変えてからというもの。
私のかわいいかわいいサッシーは、お母さまを始め、一部の女性の使用人たちの間では大人気だ。
それはなぜか。
小さな袋全体でピンピン飛び跳ねながらサッシーがケタケタキャラキャラと笑う度に、そこら中一体にうっとりと癒やされそうなほどの芳しいラベンダーの香りが振り撒かれるからだ。
その姿は宛ら、サッシーが香りのおすそ分けをして回っているようにも見えるらしく、元々のサシェの可愛らしいデザインも相まってか『私も欲しい』という声が次々と上がっているらしいのだ。
そんな女性の使用人ズの声を聞いたお母さまが、ニコニコ顔で私の部屋へとやってきた。
手にした小さなカゴの中に、様々な香りの、そして色とりどりのかわいらしいデザインのサシェを詰め込んで。
────え~っと……これは……?
どういう、状況なんでしょうかねぇ……?
ニコニコ顔のお母さまと、手にしたカゴの中のたくさんのサシェを交互に見遣る。
するとお母さまが更にニッコリと笑みを深めながら『うふふっ』とごきげんな笑い声を上げた。
────もしかして……いや、もしかしなくてもアレですか?
一応ワタクシめ、空気読めないことはないのです。
時々ですが、読めていながら敢えて読まなかったりということをするくらいには読めます。
今回のパターンは読んじゃったほうがいいんでしょうか?
それともスルーすべき?
とりあえずはお母さまの出方を覗うかな、なんて思っていたら。
なんと、私の後ろから突然サッシーがピンと跳ねて飛び出してきた。
《ピッキュ!》
────一番空気読めないコ来ちゃったーーーーーー!?
なぜにこのタイミングで現れるか、サッシー。
そうは思うも、空気が読めないからこそ、いつでもどこでも突然やってくるんだったね、この子は。
そんなサッシーを見たお母さまは更にニコニコ顔になって『まぁ、うふふっ』とその笑みを深めた。
「ちょうどよかったわ。サッシーも他にお友だちがいたら嬉しいわよねぇ?」
なんて言いながら殊更カゴの中のサシェの存在を主張してくる。
しかもサッシーに対して『お友だち』と来たもんだ。
これはもう間違いない。
ここにあるサシェ全て、サッシーみたく笑い袋に変えちゃってくれ、ということだろう。
当たったその予想にどう反応すればいいのやら。
とりあえず言えることは、そこにあるサシェを全部笑い袋に変えちゃったら、邸内がとんでもなくうるさくなることは避けられないよ、ということ。
サッシーだけでも結構なボリュームの笑い声をあげてくれるというのに、更に似たようなのが複数増えるとなると騒音騒ぎどころじゃなくなると思うんだけど。
そんなことを頭の片隅で考えている間にもお母さまからの言葉は続く。
「一部の使用人しか知らないとはいえ、その一部の使用人である侍女たちの間でサッシーがとても人気があるということはレーンも知っているでしょう?」
「はぁ……まぁ、そう、ですね……」
素敵な香りを明るい笑い声で振り撒くマスコット的な意味で。
「だからかしら。元がサシェであることを理由に『欲しい』という声が多いこともまた事実なのよ」
「はぁ……」
「それでね。『欲しい』と言っていた人たちからそれぞれ預かってきたのがこのカゴの中にあるものなのだけれど……」
……と、改めて見せられたカゴの中にあるサシェはパッと見ただけで十個ほどの数があった。
色とりどりのかわいらしい装飾の小さな袋たち。
「つまり、これら全部をサッシーみたいにしてほしいってことなんですよね?」
もう逃げられないだろうな、と思って口にした言葉。
ここで何を言おうが、サシェに対して仕掛け魔法を施し、第二、第三……それよりももっと多いサッシーのような笑い袋を生み出す事態は避けられないようだ。
「全部で十個ほどか……」
差し出されたカゴの中から一つのサシェを手に取った。
仄かに漂ってくる香りはローズ系の花の香りだろうか。
色合いも赤に近いピンクの袋だし間違いなさそう。
その他のサシェも一通り眺めてみることで、様々な香りのものなのだろうなと予想する。
《ピキュ?》
そうしている間に、不思議そうな声をあげたサッシーが『ピンッ!』と軽く跳躍し、紛れ込むかのようにカゴの中のサシェの海へとダイブした。
まるで自分も仲間だと言わんばかりに己の存在を主張しようとでも思ったのだろうか。
「ん~……」
やっぱりサッシーも同じ種類(?)の仲間がいたほうが嬉しいのかな?
ミックとミッちゃんは素材は別モノとはいえ同じ箱系ミミックの括りになるわけだし。
欲しいっていう希望が多いなら、叶えてあげられないこともないけれど、その分うるさくなってしまうことに対して思うことはないのだろうか。
それは私が考えることでもないのか?
一人うんうん唸りながら考えるも、結局はそこに自分の希望はあまり関係ないという結論に落ち着き、とりあえずサッシーが自分以外の同じ笑い袋仲間が『欲しい』か『否』かを確認することにした。
「ねぇ、サッシー? サッシーも自分と似たような袋のお友だち欲しい?」
《ゥプ……キュウゥゥゥゥ…………》
「へ?」
予想してなかった唸り声みたいな反応が返ってきて思わずサッシーの様子を覗った。
するとカゴの中から軽く目を回した状態で『うげぇ……』と言わんばかりに、開けた口から舌をだらりと大きく覗かせたサッシーがふらふらと飛び出そうとしてきた。
というか、既に飛び出してきてて落っこちた。
「危ないっ!」
寸でのところで受け止めたサッシーは変わらず目を回したままぐったりしている。
「どうしちゃったのかしら? サッシーは……」
────もしや……
不思議そうな顔をしたお母さまの質問には答えず、カゴの中のサシェの香りを一つ一つ確認していく私。
その全てが違う香りのものだった。
別にそこまできつい香りじゃない、仄かに香る程度の優しいもの。
けれどそれは、あくまでも一個つずつを基準として考えればの話だ。
この色んな香りが入り混じったものを全部合わせて一度に嗅いじゃったらそれはどうなるか。
一つ一つが大したことなくても、集大成になることでとんでもない破壊力が生まれることは必至。
結果は分かっていつつも、カゴごと抱え込むようにしてその匂いを嗅いでみた。
その瞬間……─────
「くっさ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
「レーン!?」
堪らず大声で叫び、マナーも礼儀もかなぐり捨てた状態で『ぐぇっほっ!』と遠慮なく咳き込む。
突然の私のその奇行に、普段はおっとりとして滅多に動揺を表にすることはないお母さまが珍しく焦ったように表情を崩したのが目に入った。
「大丈夫、レーン!?」
咳き込む私の背中を、オロオロしつつも優しく擦ってくれるお母さま。
そんなお母さまに、私は歪んた表情を取り繕うことなく今の正直な考えを口にした。
「……お母さま。第二、第三のサッシーを生み出すことは、却下です……これは臭すぎます……場合によっては、死人が出る…………」
そう。
キツい匂いがダメな人は確実にダウンする。
「これは、混ぜちゃ、ダメなやつ……」
そう言って、お母さまにカゴを返しながら同じように匂いを嗅いでみるよう促す。
私の言葉に頷いて同じように匂いを確かめたお母さまは、私のように大声を出したり咳き込むようなことはしなかったけれど、大きく顔を顰めて苦しそうな表情になった。
「もしかして、サッシーが目を回してしまっているのは……」
「サシェ同士の香りが入り混じって臭かったからだと思います」
「確かに全部合わさると酷い臭いだったものねぇ……」
「酷いどころか悪臭ですよ、悪臭。公害レベルです、これは。お母さまも経験があるんじゃないんですか? 色んな香水が入り混じった時のあの具合の悪くなるおどろおどろしい空気漂う悪夢のような空間を……」
「……ええ。ええ、あるわね、大いに。一つ一つは品のある香りでも様々な香りを纏った貴婦人たちの集まりの中では、上品な香りも忽ちのうちに下品な香りに成り下がってしまうことは常だということ」
「それと、同じです……」
前世では『香害』なんていう言葉もあったくらいだからね。
度が過ぎればとんでもない破壊力が生まれる、ある種の生物破壊兵器なんですよ、香りってものは。
程々が、いいんです。
何に於いても、ね……
そんなわけで。
欲しいと言ってくれた人たちには非常に申し訳ないのだけれど。
手持ちのサシェをサッシーみたくしよう計画は諦めてもらうことになったのでした。
既に完成してできあがっている香りは、決して他の香りと混ぜてはいけません。
何度でも言いますよ?
決 し て 、 混 ぜ て は 、 い け ま せ ん ! ! !
さもなくば……死にますよ?
…………主に鼻が。
悪臭は目には見えない破壊兵器だと思います(ヽ´ω`)




