小噺1 ゆく年とくる年と(フローレン&ロイアス)
色々と失敗してしまって一度削除して投稿し直しております(^^;)
オンディール公爵家の年越し&新年お迎えのお話です
~ゆく年とくる年と~
生まれ変わった先の異世界でも、年の移り変わりはあるもので。
ぼんやりと窓の外を眺めながら思うのは、前世の記憶が戻ってからの慌ただしい日々だった。
今は闇竜の月の30の日、前世で言う一年最後の日である大晦日のような日だ。
この世界では1ヶ月間は全てきっかり30日間で、月の終わりに31日となる日は存在しない。
分かりやすいとは思うけれど、やっぱり慣れ親しんだ前世日本の大晦日である12月31日がないという事実に『どこか寂しいものがあるなぁ……』と感じてしまうのは、私自身、日本人であった頃の記憶が強く残っているからなのだろう。
ここでは前世の時のように除夜の鐘の音なんて聞こえない。
その代わりに、魔導鉱石を利用した花火のようにも見えるたくさんの光がこの国の上空で決められた回数の明滅を繰り返し今年最後の夜空を彩るのだ。
それはまるで大空のキャンバスいっぱいにたくさんの光を絵の具に見立てて描く神秘のアート。
誰もがその光景に魅入られながらこれまで過ごした一年を振り返り、また次の年も素敵な一年を過ごせるようにと期待に満ちた瞳でその光が消えゆく最後の瞬間まで見届けるのがこの国流の年越しから年明けまでの伝統だ。
ちなみに光の明滅の決められた回数は、ドラグニア王国が誕生してから重ねてきた年と同じだと言われているのだけれど、それが真実かどうかは定かではない。
なぜならその回数を数えてる人なんて誰もいないから。
だってこの王国、国として誕生してから千年以上も経過しているんだよ?
正確には、次に迎える新しい年でドラグニア歴1695年になるんじゃなかったかな?
炎竜の月の6の日───前世で言う7月6日───に誕生日を迎えて5歳になり、本格的な勉強を開始した私だけど、歴史に関してはそこまで掘り下げた内容はまだ習ってないんだよね。
せいぜい聞くのは『この王国が成り立ってから1700年ほどに~……』みたいな、大雑把な表現なんだわ。
そんなこんなで、見上げた上空で明滅する光の回数をいちいち千何百回と数える人はほぼいないと、こういうわけ。
実際に魔導鉱石に明滅する仕掛けを施した人だけが正確な回数を知っていることになるんだけれど、その役目を担っているのはおそらく王宮魔術師団の人たちだろうから、これまた一般人には知り得る情報ではないわけだ。
ある程度の守秘義務的なものがあるだろうからね。
本当に国の歴年数だけ明滅するようにしてあるかどうかも不明だし。
まぁ、仕掛けのことはさて置き。
年に一度だけの素晴らしい光景を見るために、この日だけは幼女である私も夜ふかしなるものをお許しいただいているのが今の現状であります。
日本が作ったゲームだからなのか、世界観は思いっきり西洋風の風景かつファンタジーな世界なのに日本のように四季があるという、ね。
これまた日本と同じように、今現在の気候は冬真っ只中です。
とっても寒いです。
だけど寒いからこそ、夜空を彩る光がキレイに見えるのです。
いつでも寝られるように、とワンピース風パジャマの上に温かいガウンを羽織り、更にその上にストールをぐるぐる巻き状態にしてロイアス兄さまにお膝抱っこされております。
場所はサロンに面したお庭です。
つまりはお外。
寒いけど兄さまとこうしてくっつきあっているととっても温かいのです。
はぁ……と吐き出した息が一瞬で真っ白に染まっても気にならないくらい、兄さまの体温に触れる心地よさが勝ります。
「寒くない? レーン」
「平気です。ロイ兄さまは寒くないですか?」
「大丈夫だよ。こうしてるとレーンの体温に直接触れているみたいでとても温かいからね」
「私も同じです。温かくて心地よくて。もっともっとぎゅ~ってしたくなっちゃいます!」
なんて言いながら、許可を得ないままロイアス兄さまの首に腕を回してぎゅうっとしがみつくようにくっつきます。
温かいのが少し増した気がしました。
淑女としては失格のその行動も、今夜ばかりはお咎めなしです。
まるで『しょうがないなぁ』とでも言っているかのような苦笑とともに、優しく頭を撫でられました。
「……色々あった一年だけれど」
兄さまが不意に零した一言を耳にしたことで、空に向いていた視線が兄さまの顔へと移りました。
「レーンがまた笑ってくれるようになって、本当によかった」
その言葉と同時にじっと見つめてくる目が緩く細められて。
いつか見たような、どこか傷ついているようにも見える複雑な表情が思い出されて。
『ああ、ずっと心配かけてばかりいたんだな』と、今は私の中に眠るもう一人の私のことを思う。
傷ついた今よりも幼かった私。
心を閉ざし、笑わなくなった私。
感情をうまく制御できなくて、癇癪を起こしてばかりいた私。
兄さまはきっと、その頃の私のことを思って言っているのだ。
そして、またあの頃のように、私が笑わなくなって心を閉ざしてしまうことを恐れている。
だから私はこう言うのだ。
「笑います」
「レーン?」
「兄さまが笑ってほしいと望んでくれるのなら、いくらでも」
そう言って更にぎゅうぎゅうと首に齧りつくように抱きつきながら、私は兄さまへと『これから』を誓う。
「もう、一人きりで閉じこもったりなんかしません。誰にも心配をかけたくありません。だから私は、笑います。笑顔でいます。私が笑うことで、みんなも同じように笑ってくれるように。ずっとずっと、笑顔を絶やさない私になります」
上空でキラキラと明滅する光のその下で。
ロイアス兄さまの膝上で抱っこされながら、私は『これから』を兄さまに誓った。
これが新しい年の目標だと思われたとしても、それでも別に構わない。
こうして口にすることで、私がそうでありたいと望んでいることを兄さまに知ってもらえるのならそれでいいのだから。
「……じゃあ、僕も」
背中に回された腕に力が込められて、私とロイアス兄さまの距離が更に近づいた。
「もう、間違わない。見落とさない。レーンの想いの全てを受け止めると誓うよ」
「兄さま?」
「辛い気持ちや悲しい気持ちだけじゃない。嬉しいこと、楽しいこと、驚いたこと、他にも何でもいいんだ。レーンが伝えたいと思ったその時その時の想いを全部受け止めると誓うよ」
「それじゃあ、私も……」
改めて兄さまを見上げ、もう一つ誓いを立てることにした。
「いっぱい、お話しするようにします。その日あったことをお話しして、その時思ったことを兄さまにも知ってもらいたいです。そうしたら……」
「そうしたら?」
「私も兄さまも、同じ気持ちでいられます。その時感じた気持ちを分け合いっこできます」
例えば。
嬉しいことや楽しいことは、分かち合って倍にして。
悲しい気持ちや苦しい気持ちは、受け止めてもらって半分こに。
そんな風になれたらいいなって。
素敵だな、って。
そう感じたから、私は自分の気持ちを正直に話していこうと思ったのだ。
「じゃあ、今度からレーンの正直な気持ちを僕に話してくれる? 今日からでも」
「はい!」
「うん。それがレーンの新年の誓いだね」
「ふぇっ?」
「気づいてない? もう年は変わっているよ? 見てごらん」
そう言われて指差された先にあったものは。
過ぎゆく年から既に新しい年に移り変わったことを示すそれ。
闇竜の月から光竜の月へと移り変わることを示すように。
明滅している青い光が、段々と白い光へとその色合いを変えていく。
この光が完全に青から白へと変わり。
そして、白い光の明滅が完全に消えてなくなったその時からが、ドラグニア王国の新年の始まりとなる。
「……キレイ」
思わずぽつりと呟いた。
「そうだね。とても綺麗な光だ。いつまでもずっと眺めていたいくらいに」
「はい……」
いつまでも、ずっと……
私もそう思うけれど、さすがに幼い身体ではこれ以上の夜ふかしは無理そうだ。
まだまだ起きていたいと思う気持ちとは裏腹に、段々と瞼が重くなって下りていくのが分かる。
「いい、一年を……過ごせ、ますよう、に…………」
そんな呟きを最後に、私の意識は微睡みの中へと消えた……─────
そして……─────
「にゃわわわぁ~~~~~~~~~!!」
朝目が覚めた瞬間。
視界いっぱいに飛び込んできた兄さまの麗しきご尊顔に驚き飛び退り、ベッドから転がり落ちた私は強かに頭を打ちつけてしまいました。
「レーン? 大丈夫?」
打った頭を優しく撫でながら、新年最初の治癒魔法をかけてくれるロイアス兄さま。
どうやら眠った私が一向に離れなくて、そのまま一緒のベッドで眠ることになったらしい。
目が覚めた時、視界いっぱいに兄さまが目に入ったのは、つまりそういうことだからだ。
「新しい一年もよろしくね、レーン」
「ふぁい……」
その『よろしく』は、もしや『治癒魔法をいっぱいかけるからよろしくね』って意味じゃないよねぇ……なんて思いながらも。
たぶん、去年に引き続きいっぱいいっぱいお世話になるんだろうなと思うと、情けないスタートを切ったみたいでちょっとだけ涙が出そうになる。
とりあえず、現時点で分かったことは。
『頭を打つ呪い』はどうやら今年も絶好調な模様です、ということだろうか。
本連載である「悪役令嬢に転生したけど、家族と友情の方が大事だからシナリオぶっ壊すことにした!」よりも先の時間軸になります(^^ゞ




