エルフに婚約破棄されたのでエルフの村を焼いたら国外追放の刑になりましたわー!!!
「お焼き討ちですわー! あの婚約破棄をしたふぁっきん野郎のお家をお焼き討ちにしてやりますのよー!」
「姫様ー! お待ちください、姫様ー!」
「火焔のセリーヌと呼ばれたわたくしの力を見せつけてやるのですわー!」
「あ、あれは! 魔法試験でどうしても炎属性が使いこなせず、姫様が開発した火焔放射器!?」
「姫様ー! おやめくださいませ、姫様ー!」
「お首を洗って、お待ちになっていなさい! 我が元婚約者! エルフのクレイエム!!」
ご機嫌よう。今日もいい天気です。
我らがセリーヌ姫様が突然に婚約破棄をされました。
お相手はエルフ族の長の跡取り息子、クレイエム様です。
「人間とエルフが共存するのは……早すぎたのかもしれない……」
いつも詩的なクレイエム様は婚約の破棄の申し出にそれだけ添え言うと我々人間族の王城を後にされました。
正直、意味はさっぱり分かりませんでした。
ただ、その瞬間セリーヌ姫様はブチ切れてしまわれました。
あ、私は姫様にすがりついてお止めしている侍女Aです。
「クレイエムのレクイエムを奏でてやるのですわー!」
「姫様ー! エルフと人間との間には平和協定が結ばれているのです! そのようなことをしたら、種族間問題になりますー!!」
「種族の垣根を越えたこの思い! 届け! 焔に乗せてー!!」
「姫様ー!?」
姫様は5人の侍従を振り切り、国境にあるエルフの村に一目散に走って行かれました。
我々は必死に追いかけます。
「ぜえはあ……ぜえはあ……出てきやがれなのですわ! クレイエムー!」
「我が元契り人……」
「逃げずに出てきたことはお褒めして差し上げますわ! さあ、火焔を喰らいなさい!」
「……すべてを焼き尽くす悪の光……文明の灯火……」
「お炊き上げですわー! 貴様に書いたお返事のこなかったラブレター100通もろとも燃やしてやるのですわー!」
「綴られし思い……立ち塞がるはバベルの塔の関門……」
「え? 青年エルフは人間の文字が読めない? 早く言えなのですわー!!!!」
よく分かりますね、セリーヌ姫様!?
王立文科省による報告書曰く、『エルフと人間が真に交流を果たしたのはここ数年のことである。子世代のエルフには識字教育を受けさせているが、青年以降のエルフの殆どが人間の文字を読めない。このことは人間とエルフ間のトラブルを引き起こしている』とのこと。
……お返事がこないのにお手紙書き続けたのですね……姫様……何だかわたくし泣けてきました。
「とりあえず喰らえー!」
姫様が火焔放射器のスイッチをポチッと押しました。
「水流の……迎撃」
姫様が火焔放射器のスイッチを押した瞬間! エルフの村から勢いのものすごい水鉄砲が!!
火焔放射器はそこら辺の草をちょっと焼いただけでその役目を停止しました。
「何ですのー!?」
ずぶ濡れになりながら姫様が悲鳴をあげます。
「ええと……」
王立消防庁による報告書曰く、『エルフの村は焼くもの、という流言飛語によって、近年エルフの村はボヤ騒ぎに襲われている。当人達はイタズラ半分とは言え人命(エルフ命)に関わるゆゆしき事態である。そのため、近年ではエルフの村に防火用放水器を国家予算を割いて備え付けている』とのことです。
「エルフが文明の利器に頼ってお恥ずかしくないんですのー!?」
「エルフの村を焼くことの方がお恥ずかしくないですか、姫様」
「我が元契り人……」
「セリーヌです! いい加減お名前を覚えなさいませー! こっちはクレイエムとかいう長くてややこしいお名前を覚えて差し上げていますのよー!」
「流感予防」
ふわりとクレイエム様は布を投げられました。
「くっ、この……ドキドキなんてしてませんわー!」
などと言いながら素直に髪を拭く姫様。
「おちょろい」
私は思わず、呟いていました。
「火焔放射器が壊れてしまいましたわ……」
しょんぼりとうつむく姫様。
「そうですか、じゃあ、帰りましょう姫様」
早く帰りたい私はそう申し上げました。
「くっ……」
姫様は悔しげに顔を歪めました。
「せめて! せめて聞かせてくださいませ! どうして婚約破棄など……!」
「…………」
クレイエム様は空を見上げました。
放水器のおかげで空に虹がかかっています。きれいですね。
「……悠久の時、微少の点……他者に紡がれた契り……生まれながらの定め……定命の者には……」
なるほど、さっぱり分かりません。
「……人とエルフの寿命の違いなど! 最初から覚悟の上ですわ!」
姫様すごいなー。
「確かにわたくしとあなたの婚約は私が生まれたときにお父様達が定めたもの……人間とエルフの種族間闘争を調停するための、政略結婚です! それでも、それでもわたくしは……あなたのことを……愛していたのに……!」
姫様の理解度が高すぎて私は怖いです。
「……セリーヌ」
「クレイエム様……!」
姫様とクレイエム様は歩み寄り、ギュッと抱き締め合いました。
お熱いことですねえ。
「愛してますわ! 離しません! わたくしの短い花の命をあなたに差し上げます!」
自分で花とか言いましたよ、この人。
「……永久の契り……」
あ、これは分かります! 私にも何となく言いたいことが分かりますよ!
こうして姫様とクレイエム様の婚約は元通り、いえ、結婚が決まりました。
そして――。
「……セリーヌ……」
「はい! お父様!」
「……お前を放火の罪で我が国から追放する」
「そんな!?」
「エルフの国で幸せに暮らすが良い……」
「ありがとうございます、お父様ー!」
放火は大罪ですからね、しかたないですね。
こうして、セリーヌ姫様という頭痛の種を我が国は厄介払いすることに成功したのでした。