表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コメディ短編

エルフに婚約破棄されたのでエルフの村を焼いたら国外追放の刑になりましたわー!!!

作者: 狭倉朏

「お焼き討ちですわー! あの婚約破棄をしたふぁっきん野郎のお家をお焼き討ちにしてやりますのよー!」


「姫様ー! お待ちください、姫様ー!」


「火焔のセリーヌと呼ばれたわたくしの力を見せつけてやるのですわー!」


「あ、あれは! 魔法試験でどうしても炎属性が使いこなせず、姫様が開発した火焔放射器!?」


「姫様ー! おやめくださいませ、姫様ー!」


「お首を洗って、お待ちになっていなさい! 我が元婚約者! エルフのクレイエム!!」


 ご機嫌よう。今日もいい天気です。

 我らがセリーヌ姫様が突然に婚約破棄をされました。

 お相手はエルフ族の長の跡取り息子、クレイエム様です。


「人間とエルフが共存するのは……早すぎたのかもしれない……」


 いつも詩的なクレイエム様は婚約の破棄の申し出にそれだけ添え言うと我々人間族の王城を後にされました。

 正直、意味はさっぱり分かりませんでした。

 ただ、その瞬間セリーヌ姫様はブチ切れてしまわれました。

 あ、私は姫様にすがりついてお止めしている侍女Aです。


「クレイエムのレクイエムを奏でてやるのですわー!」


「姫様ー! エルフと人間との間には平和協定が結ばれているのです! そのようなことをしたら、種族間問題になりますー!!」


「種族の垣根を越えたこの思い! 届け! 焔に乗せてー!!」


「姫様ー!?」


 姫様は5人の侍従を振り切り、国境にあるエルフの村に一目散に走って行かれました。

 我々は必死に追いかけます。




「ぜえはあ……ぜえはあ……出てきやがれなのですわ! クレイエムー!」


「我が元契り人……」


「逃げずに出てきたことはお褒めして差し上げますわ! さあ、火焔を喰らいなさい!」


「……すべてを焼き尽くす悪の光……文明の灯火……」


「お炊き上げですわー! 貴様に書いたお返事のこなかったラブレター100通もろとも燃やしてやるのですわー!」


「綴られし思い……立ち塞がるはバベルの塔の関門……」


「え? 青年エルフは人間の文字が読めない? 早く言えなのですわー!!!!」


 よく分かりますね、セリーヌ姫様!?


 王立文科省による報告書曰く、『エルフと人間が真に交流を果たしたのはここ数年のことである。子世代のエルフには識字教育を受けさせているが、青年以降のエルフの殆どが人間の文字を読めない。このことは人間とエルフ間のトラブルを引き起こしている』とのこと。


 ……お返事がこないのにお手紙書き続けたのですね……姫様……何だかわたくし泣けてきました。


「とりあえず喰らえー!」


 姫様が火焔放射器のスイッチをポチッと押しました。


「水流の……迎撃」


 姫様が火焔放射器のスイッチを押した瞬間! エルフの村から勢いのものすごい水鉄砲が!!

 火焔放射器はそこら辺の草をちょっと焼いただけでその役目を停止しました。


「何ですのー!?」


 ずぶ濡れになりながら姫様が悲鳴をあげます。


「ええと……」


 王立消防庁による報告書曰く、『エルフの村は焼くもの、という流言飛語によって、近年エルフの村はボヤ騒ぎに襲われている。当人達はイタズラ半分とは言え人命(エルフ命)に関わるゆゆしき事態である。そのため、近年ではエルフの村に防火用放水器を国家予算を割いて備え付けている』とのことです。


「エルフが文明の利器に頼ってお恥ずかしくないんですのー!?」


「エルフの村を焼くことの方がお恥ずかしくないですか、姫様」


「我が元契り人……」


「セリーヌです! いい加減お名前を覚えなさいませー! こっちはクレイエムとかいう長くてややこしいお名前を覚えて差し上げていますのよー!」


「流感予防」


 ふわりとクレイエム様は布を投げられました。


「くっ、この……ドキドキなんてしてませんわー!」


 などと言いながら素直に髪を拭く姫様。


「おちょろい」


 私は思わず、呟いていました。


「火焔放射器が壊れてしまいましたわ……」


 しょんぼりとうつむく姫様。


「そうですか、じゃあ、帰りましょう姫様」


 早く帰りたい私はそう申し上げました。


「くっ……」


 姫様は悔しげに顔を歪めました。


「せめて! せめて聞かせてくださいませ! どうして婚約破棄など……!」


「…………」


 クレイエム様は空を見上げました。

 放水器のおかげで空に虹がかかっています。きれいですね。


「……悠久の時、微少の点……他者に紡がれた契り……生まれながらの定め……定命の者には……」


 なるほど、さっぱり分かりません。


「……人とエルフの寿命の違いなど! 最初から覚悟の上ですわ!」


 姫様すごいなー。


「確かにわたくしとあなたの婚約は私が生まれたときにお父様達が定めたもの……人間とエルフの種族間闘争を調停するための、政略結婚です! それでも、それでもわたくしは……あなたのことを……愛していたのに……!」


 姫様の理解度が高すぎて私は怖いです。


「……セリーヌ」


「クレイエム様……!」


 姫様とクレイエム様は歩み寄り、ギュッと抱き締め合いました。

 お熱いことですねえ。


「愛してますわ! 離しません! わたくしの短い花の命をあなたに差し上げます!」


 自分で花とか言いましたよ、この人。


「……永久(とわ)の契り……」


 あ、これは分かります! 私にも何となく言いたいことが分かりますよ!




 こうして姫様とクレイエム様の婚約は元通り、いえ、結婚が決まりました。

 そして――。


「……セリーヌ……」


「はい! お父様!」


「……お前を放火の罪で我が国から追放する」


「そんな!?」


「エルフの国で幸せに暮らすが良い……」


「ありがとうございます、お父様ー!」


 放火は大罪ですからね、しかたないですね。


 こうして、セリーヌ姫様という頭痛の種を我が国は厄介払いすることに成功したのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「リリアーヌは親友と婚約解消した旦那様に嫁ぐことになった」
伯爵令嬢リリアーヌが嫁入り先で冷たい旦那様相手に奮闘する新作連載です。

「追放された聖女はお見合い斡旋所に再就職します」
元聖女が他人の恋愛模様を通じて、自分も恋愛していく物語、完結です。
― 新着の感想 ―
[一言] まあ突っ込みどころは多かったけれど、結果的に皆ハッピーになれたので良かったなって思います。 冒頭のお焼き討ち発言で薄々気付いていたけど、あのお姫様、やっぱり身内からも問題児扱いされていたん…
[良い点] 「お焼き討ちですわー!」 1行目から持って行かれましたwww そこに「お」はいらんだろwww そのまま最後まで突っ走るドライブ感。 いやー笑わせてもらいました 正直なにも飲んでなくて良か…
[一言] 火焔放射器…。 そしてスプリンクラー(強) 何気に機械工学とかそこらへんがふわっと発達しているのに、エルフの識字率を見るに、秘境ばりに鎖国してました……? そして、ええっと、お幸せに! あ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ