小さな太陽 【月夜譚No.17】
傘から滴り落ちる雨粒を、ただぼんやりと眺めていた。その内に信号機が急かすように童謡を響かせるので、少女は雨靴を履いた足を白い線の上に乗せる。
雨は嫌いだ。出かける度に傘を差さなければならないし、気をつけて歩かなければ水溜りに足を取られて泥水を跳ね、気に入りの服を汚してしまう。好きな服は雨の日に着なければ良いと家族は言うが、着たい日に着たい服を着たいのだ。
少女は水玉のスカートを濡らしてしまわないように気をつけながら横断歩道を渡り切り、右に曲がった。降り続く雨の中、歩を進める毎に胸が弾むような嬉しさがこみ上げる。傘の柄を両手でぎゅっと握り込み、大通りに面したビルの角で立ち止まると、窺うようにそっと角の向こう側を覗き込んだ。
「あ、おはよう」
バス停で待つ詰襟の少年が、少女に気づいて手を挙げる。
雨は嫌いだ。だが、実は好きでもあるのだ。
少女はお日様のような笑顔を浮かべて、赤いランドセルを上下させた。