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出会い

なぜか私の声は彼らに届かないらしい。

それぞれ注文が決まったので、今日は店を予約した私がと声を張ったつもりだったのだが。

すいませーん、全く店員が来ない事に苛ついたのか、私の声が通らない事に苛ついたのかは未だにわからないが隣のカナが店員を呼んだ。

 彼女の声色には喜怒哀楽がわかりやすくでる。

怒の時はとくに周りがハラハラする事も少なくない。

私がいちいち反応すらしなくなったのはつい2、3年前からだ。


私は抹茶オレオシェイク、1つとーあと?

黒糖きなこラテのホットにするー、美雪は?

え?千夏ホットなの?あーチョコバナナジュース

私はエアロプレスでエチオピアでお願いします

ゆり、それホット?

うんホットでー

じゃ以上で

 エアロプレスはホットのみ。そうメニュー表に書いてある。

この店はエアロプレスでコーヒーを淹れる大会、ジャパンエアロプレスチャンピオンシップで優勝したバリスタがいる店で、まず一度はエアロプレスでコーヒーを飲んでほしいところだった。

けれど誰もコーヒードを頼まなかった。

確かにとくに誰もコーヒーが好きと公言してないし、私が

行きたい店を選んだだけだった。

それに別に強要するほどの事でもないし、好きなものを頼めば良い。

趣味やファッションや仕事はバラバラなのに一緒にいる、ただ一つ、同じクラスだった、それから15年の付き合いというわけだ。



この地域の三つの小学校の卒業生は受験をしない限りこの公立中学へ進学する。

中学一年生の春、皆がそわそわと同じ小学校の生徒を探している入学初日。

春の光であたためられた机に手をおく。

教室の窓側、一番前の席に松川友梨の名札。

 ここが私の席なんだ。



「一緒のクラスになると良いねぇ」

でも、新しい友達もたくさん作りたいなぁ

離ればなれになるわけじゃないし、楽しみしかないなぁ!

あぁ桜って散るときは本当に桜吹雪って名前にピッタリなぐらい吹雪いてる!

 新しい制服、いつもの仲良し三人組で登校しクラス分けの掲示板へ向かう。


ゆりだけが離れたクラスになった。

「えーゆりだけクラス遠いじゃん!最悪ー!」

最も悪い、とまでは思わないけど自分だけとなると寂しい気持ちだった。

「うー、でも登下校は今まで通りだし!部活も一緒にするって決めたじゃん!」

小学四年生から続けたソフトボールは中学からも続けるつもりだった。

クラスだけが中学生活じゃない、部活だって頑張りたい。

「つくづくポジティブー!」

笑い合いなが二人のクラスの前まで行く。

ここからは一人。一気に緊張感が沸き上がってきた。

仲間がいればどんな事でも前向きになれるのに、一人になると孤独という言葉が背後から迫ってくるような恐怖と不安に襲われる。

空気を鼻からぐっと吸い込み、自分の元気をチャージさせる。ソフトボールのバッティング前の決まり事。

そう、きっと大丈夫!私なら新しいクラスでも楽しく過ごせるはず!

 しかし、ふと最も悪い事を想像してしまう。

ちゃんと新しい友達ができるか不安で仕方ない。

小学校の間は6年間もあったから、クラス替えをしてもほとんどが顔見知りだったし、「みんな友達」みたいなスローガンのおかげでたいして仲良くなくてもそれなりに会話が成立していた。

これからの中学生生活はうまくやっていけるのだろうか、孤独という恐怖に立ち向かえるのだろうか。

 もう一度、空気を鼻からぐっと吸い込む。

とにかく行動するしかない。

机に置いた手を強く握りしめ、日陰になっていた椅子に腰かける。

ひんやりとした冷たさがゆりの太ももに伝わった。



出席番号順で並ぶ机の窓側の二つ、その隣の二つ。四人がちょうど向き合って話せる四角の空間。



一つ空席のまま自分の名前の名札が置かれた机にゆり、美雪、千夏が座る。

お互い声をかけず担任が来るのを待っていた。


人見知りという言葉を自分の他己紹介で家族や仲の良い友達にされてきた。

千夏はこの時間が苦痛でしたかない。

 千夏の前の席はまだ誰も座っていないが、名札を見る限り女子なのだとわかって少しほっとした。

仲の良い同級生とは別のクラスになってしまい、さっきまで離ればなれになったことを慰め合っていた。

「休み時間は絶対に話そうね!帰りはここの廊下の消火器前に集合!絶対ね!」

 親友 その響きが大好き。

ずっと一緒、心の友。うちらはにこいち。

私にとって親友の亜樹の存在は小学校生活の全て。

何をするのも一緒だったし、私の事を一番理解してくれてる。

中学にあがったらクラスが増えるから同じクラスになる確率はぐっと下がる。ただただ毎日祈り続けてきた。

小学校の卒業が近づく頃から毎日。

だからここで別のクラスになるのは考えられなかった。

絶望って言葉はこうゆう時に使うんだ。


それでもこのクラスでずっと一人で過ごすの絶えられない。

遠足や体育の授業中どうしていたらいいの?


あと3分もない。

もうすぐ担任が来る。そしたらひとまずこの苦しい時間からは解放される。

早く先生来てよ、亜樹がいないクラスなんて本当に最悪。

 廊下がまだ賑やかだった。

私ももう少し亜樹と廊下で話してれば良かった。予鈴がなったら先生来ちゃうと思ってハラハラしたけど、全然来ないじゃん。

だけど、廊下にいる子達はすごい元気だし話し方が怖そうだなぁ。仲良くれないから良いんだけど。お互い興味無いもんね。

 時計の長針がガクンと動く。

こっちがハラハラするよ、先生来ちゃうと怒られちゃうんじゃない?

「キャハハハ、、またねー!てかヤバ、座ってないの私だけだ!」

え、あの声の子。

まさか、私の前の席?どうしよう無理だ。

ギャルが一番苦手!助けて亜樹ー!


うつ向く千夏の机にパンっと手が現れた。

ぎょっとした顔を持ち上げる。


「周りが女子で良かったー!今日から仲良くしてねー!」

初めてこの四人で声をかけたのがカナだった。







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