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働き台風4 出社1

 僕の記憶、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況説明―― 


 新入社員研修は、大きく二部に分かれている。

 前半は全国のグループ会社が合同で行い、後半は地域会社ごとに独自の研修を実施する。

 東海会社の三十人の新入社員は、数日間の実務を体験するため各部署に振り分けられる。

 今日がその後半の初日で、僕はカスタマセンターへ行くことになっていた。

 カスタマセンターは、顧客からの電話問い合わせに対応するのが主な業務で、同期のなかには電話応対の事務部門より直に接客する販売店へ行きたがる連中もいた。

 僕はべつにどうでもよかった。

 もし、配属先が選べたとしたら――

 そんな仮定に何の意味があるだろう。

 といって、気持ちはわからないでもない。

 もし「ドラモン」が加賀谷のことだったら、というのと同じだ。

 可能性として、ときにはひとつの道が固く乾き、もうひとつの道がやわらかく潤ってみえることもあるが、結局のところ、それは同じ長さで平行にのびている。

 それに、道なら、固く乾いていたほうが進みやすい。


 9時半から始業のため9時にでても間に合った。

 初日ということもあり8時45分にでることにする。

 もし両親と同居していたらそう勧められたはず。

 8時半では早すぎる気がした。

 リクルートスーツを着て、でかける直前、上着のポケットに入れたケイタイが鳴る。

 発信者の電話番号が非通知で、躊躇する。

 三コールもしないうちにきれた。

 ワン切りではなかったが、いたずら電話に違いない。

 僕は手にもっていた鞄をおろし、玄関にあったタウンページのビニール包装を破いてひらき、最初に眼についた電話番号を発信者番号()()()でかけ、ワンコールで切った。

 ワン切り、一閃。

 どこかの誰かへ、無言の伝言ゲーム。

 そして、自分のしたことを忘れた。

 それがもっともシンプルで、可能な社会的連鎖ループだった。


 春の日ざしが、心地いい。


 足早に地下鉄の駅へ向かう。

 


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