働き台風3 風音2
うす闇のなかで、何かが壊れてくるのを待っているようでもある。
張り詰めたものがあるような気がする。
はっきりわかるようなものは、これまでなかった。
頭のなかで、「ゴジサンジュウハチフンデス」と機械の声が響く。
ハチフン、と響く。
なぜか、一度きいたら忘れられなくなっていた。
ふと、数年前に交通事故で死んだ加賀谷のことが思いあたる。
ドラモンは、加賀谷のことだろうか。
ふかく考える気になれない。
コウ2地区の荒涼とした市街地に、どこまでも並行している道路を連想する。
道路は、まっすぐで、少し触れただけで歪むような柔らかい印象でのびていて、彼方には地平線がみえる。
女のたかい声が、耳の奥で遠い風音のように鳴っている。
悲鳴だろうか。
加賀谷は男で、男の声でないとはいいきれない。
同乗者はいなかったのか、単独事故ではなかったのか、そうしたことは実際しらされていなかった。
単に高校の同級生という印象しか残っていなかった加賀谷については、それが理由になってしまわないよう気をつけながらも、ふかく考える気になれなかった。
考えるべきとも、そうしないほうがいいとも、思わなかった。
ぼんやりながめていたうす闇に
1分
が浮かびあがり、きえた。
秒数の表示がない時計は、1分を過ぎると、次の1分までうごかない。
縛られているみたいに。
眼を、とじる。
――加賀谷の運命は、高校生までだった
バイクの走る音が、小さくきこえる。
――高校生が転生して、新入社員になっていたら
早朝を思わせるいくつかの音が、大気のなかで、小さくざわめいている。
転生したのに新入社員……
そんなリアル縛りの設定が僕のいる世界でないと、誰が否定できる?
8時には、部屋のなかが今より明るくなっているだろう。
あと少しで月曜日の朝がはじまろうとしている。
―――――
加賀谷はじつは男装の女子高生だった説