桜散る夜5 歓迎会1
歓迎会は、三年目までの集まりだった。
週に二回は飲む習慣で、部の正式な歓迎会は別途金曜日に、ということで、ビールで乾杯する。
「今日はどうしますかね」
とチンチクがいう。
コリバヤシが「う~ん、そうだなあ。じつはついこのあいだ、ちょっとあって」
「誰です」とオオチク。
「ではヒント。カスタマセンター」
「あ、わかった。大橋さん」とガクレキ。
「はずれ」
「誰だろうなあ」とオオチク。
「ヒントその二。ヤで始まる人だ、蟹谷君」
「それいったらもうわかりますよ」
「しまった。簡単すぎたか」
「だってヤムダムダでしょ」
「ピンポーン」
オオチクが気を遣ったつもりか、ヤムダに「もちろんキミのことじゃないから」といった。
ヤムダはれいの媚びた笑みで「わかっていますよぉ。でも誰なんです、そのヤムダムダって」
ガクレキが「じつはな、カスタマセンターに伝説の人がいるんだよ」
「たしかに伝説の人ですね」とチンチクがつづく。
「どう伝説なんですか」とヤムダ。
「そりゃあもう」とオオチク。「ご説明はコリバヤシさんにおまかせします」
「うむ。その勇者の伝説のひとつには、重要な顧客データを一瞬でけし去ったと。バックアップも取らずに」
「マジですか」とヤムダ。
「何度きいてもすごすぎる」とオオチク。
「ツワモノですな」とチンチク。
「そういう人がカスタマセンターにいるわけだ」とガクレキ。
僕と松月は眼を合わせる。
ヤムダが「そういえば、この二人はカスタマセンターで研修していましたよ」といいだす。
「何と!」とチンチク。
「ということは、伝説の勇者にお会いしているわけだな」とオオチク。
「ヤムダさんだったら、僕のエルダーでしたよ」
しかたなく単なるゲームだと考える。
グラスに半分ほど残っているうすいビールを飲み干す。
酔うわけもない。
「何と!」とまたチンチク。
「ということは、伝説の勇者のエピソードがあるでしょ?」とオオチク。
「いったれいったれ」とガクレキ。
松月が僕をみている。
黙っていることにする。
理由はない。
気分的なものだ。
どことなく粘着質のオオチクが
「いまキミたち二人、目で会話したね。なんか隠してるな!」
小蝿のようにふりはらってやりたくなる。
「かわいそうだろう。ヤムダも入れてやれよ」とチンチク。
「まあ、さておき」とコリバヤシ。「そろそろ発表といこうか」
「あ、そうでしたね。でも最近、ヤムダムダのネタ、多いですよね」とオオチク。
「そりゃあ伝説の勇者だからね」とガクレキ。
「では発表します。ヤムダさん、もといヤムダのムダムダ野郎は、こともあろうに俺のカミさんを口説いていたことが発覚!」
「マジですか」とチンチク。
「ちょっと、それ、マジ? コリバヤシさん。ツクってんじゃないの」とガクレキ。
「正真正銘、でら本当の話」
「すごすぎるヤムダムダ」とオオチク。
「なんか、ヤムダヤムダっていわれると、わかっていても変な気分になりますね」
とヤムダはいうが無視される。
なぜか、全員で乾杯して一気飲みをする。
次に、ガクレキの指示で新人だけの一気。
新人と二年目の一気。
負けた奴(ヤムダ)はまた一気。
ガクレキが「俺も飲むから」とまた全員で一気。
コリバヤシだけは「もう年だから」と一気飲みをしない。
「お前らもコリバヤシさんくらいになれば飲まなくていいからな。それまではがんばれ」
とガクレキ。
ビールの一気に飽きると日本酒を注文して、また一気になる。
途中から、つまみは手羽先しか頼まないというルールになる。
わけのわからないことばかり。




