桜散る夜1 ホットドッグ1
朝の日ざしが、僕の顔を照らしている。
それが最初の印象だ。
瞼のうらがわ。
押入れでなく、瞼のうらがわにうっすら滲んだ光をながめている。
小さな僕はどこにもいない。
まるでジグソーパズルにピースを当て嵌めるように、ひょっとしたら夢ではないかと考える。
――緑の葉の裏が、まぶしい。
日光をうけた新緑が反射している林道を、友人たちと歩いている。
どこへ向かっているときの記憶だろうか。
音が、まったくない。
静まりかえっているわけではないはず。
僕たちは楽しそうにしゃべっている。
林道わきの道路を、ときおり「ブロロロロ」と音をたてて車が通りすぎる。
青空に「バサバサ」と鳥がはばたく。
周囲の山々で、日向の緑が風に揺らいでいる。
どうして、こんなところにいるのだろう。
見覚えのある風景だった。
大学のサークル仲間と車に乗り合い、東京から東名高速を走ってきた。
友人の別荘に到着し、宴会をして翌日――ところが、記憶がすっぽり抜けている。
枝を踏みつける。
誰も反応しない。
枝を踏んだ音は、「パキッ」か「ポキッ」か「バキッ」か。
林道のうえのほうで「チチチチチ」と鳴いていたはずの小鳥が飛び去っていく。
冗談半分で、「ブロロロロ」や「バサバサ」の可能性もあると思う。
枝を「ブロロロロ」と踏みつける。
白蛇のようなガードレールに沿って車が「バサバサ」と走っていく。
青空の鳥が眼に入る。
バサバサ、が瞼のうらがわに浮かぶ。
消音のテレビをながめているよう。
友人たちには、音がきこえている。
僕は何かしゃべり、彼らはうなずき、笑う。
僕にはきこえない。テレビをながめながら、そこに音があるはずと了解している。
「ひょっとしたら夢ではないか」
いつのまにかテレビの前にいた。
同時に、ベッドのなかで瞼のうらがわをながめている。
妙に明瞭な意識で、夢との境界線をなぞる。
毎年、ゴールデンウィークには大学のサークル仲間と伊豆へ行っていた。
ジーンズのうしろポケットから、ジグソーパズルのピースと
将棋の駒(香車)
をみつけたが、昨夜の飲み会で酔っぱらったせいだろう。
友人が(たぶん)
「返せ」
と近づいてきたので(たぶん)
「悪い悪い」
とかなんとかいいながら渡す。
友人の名前を、思いだせない。
顔がぼやけている。
「お前だれだっけ」
僕が尋ねている。
とたんに画面が歪み、幾本ものノイズがはしる。
テレビをけす。
瞼はとじたまま、夢だったかわからなくなっている。




