コウ2地区通信 Afternoon Wine like Tea(KAWT) 14
山田屋店長「上質の桃にも、いろいろあるだろ。噛みごたえがあるくらいには硬いほうが、おれは好きだけどな。それなら、小さく切ればフォークじゃなくても爪楊枝で十分だ」
桃和「……そうね」
イツマ「マスター、さっきの言葉はどういう意味でしょうか。私にはマスターの真意がわかりかねます」
桃和「ううん、なんでもない。イツマ、ごめんね。わたし、どうかしていたみたい」
山田屋店長「なあ、おちびちゃんたち、今のおれの発言、賢者っぽかっただろ」
エル「ぜんぜん」
エフ「単なる平均値おっさんか、中の下」
山田屋店長「そのそっけない態度! もう一回いってくれる?」
エル「この人、きもちわるい」
エフ「隠れドMっていっていたけど、ぜんぜん隠れてないじゃん」
山田屋店長「おれ、もう賢者になってるの?」
イツマ「貴公は、まだ賢者ではありません。隠れドMといいながら隠れていない底辺おっさんのままです」
山田屋店長「ああ、イツマ!」
エル・エフ「ひぃぃ、きもちわるすぎ~~」
イツマ「マスター、さっさとこの男を改名しても、かまわないでしょうか」
桃和「改名したら、賢者になるのよね?」
イツマ「……はい。さきほどの話の流れから、マスターご自身が、そのようにと」
桃和「ついでに、わたしも一緒に改名してもらおうかしら」
エル・エフ「ええええっっ!?」
イツマ「マスター、やはりおかしい。さきほどから、どうされたのですか。あなたが改名すると、私のマスターがいなくなってしまいます。そうすれば、私自身も役目を解かれたことになり、ウブゲカリバーもこの世界から消えてしまう」
桃和「ちょっと、そんな気分になっただけよ」
イツマ「改名してどんな姿になったとしても、二度と改名することはできなくなります。その姿でいつづけないといけない」
桃和「わかってる」
イツマ「……本気なのですか」
桃和「思いつきだけど、本気よ」
イツマ「私には、マスターの真意がわかりかねます」
桃和「――そんなことないでしょ。イツマ、あなたは、わたしのお祖母ちゃん、だったんだから」
エル・エフ「ええええっっ!?」
イツマ「なぜ、そのようなことを……」
桃和「わたしには、何でも見通すレイ・ジョウ・アイがあるってこと、忘れてない?」
エル「レイ・ジョウ・アイって、悪役令嬢の術でしょ。桃和姫はもう悪役令嬢じゃないんじゃ……」
エフ「しっ、黙って!」
人事部課長「ふむ。今、マエカ・イツマさんの履歴書を確認したが、たしかに桃和さんの御祖母だったことがあるようだ」
エル・エフ・山田屋店長「……は?」
人事部課長「ちなみに私は、どんな履歴書も瞬時に取り寄せてチェックすることができる。なにしろ、人事部課長だから」(英霊イツマに履歴書があったとは……というか、なんだその人事部課長の術は?)
人事部課長「しかし、この経歴は――」
桃和「そう、イツマは、私の祖母であり、曾祖母でもあった。正確には、曾祖母と祖母のある種の思念が、英霊イツマを生み出した。――後悔という思念の、ね」
イツマ「………」
桃和「曾祖母は祖母にたいする後悔。祖母は母にたいする後悔。どちらも、自分の娘を発達障害にしてしまったことへの母親としての後悔。彼女たちは、本当はうっすら気づいていた。どの時点で気づいたのかはともかく、うつ病の治療として医者から渡された薬を飲みつづけていると、心がいっそう弱くなって、おかしくなっていくことに。それでも、止められなかった。曾祖母は、祖母を心療内科へ連れて行ったことが本当に正しかったのか、薬に依存していく祖母の姿をみるにつれて、自分の判断がおそろしくなって考えるのをやめた。祖母は、病気であるというレッテルを貼られることに、ある種の居心地のよさまで感じるようになってしまい、仲間をつくるように、母のことを引きこんだ。少し酷ないい方かもしれない。自分が直面した問題にたいして、誰もが正解の行動を導きだせるわけじゃない。何が正解かなんて、ずっと先までわからないこともある。しかたのないこと。わたしも心のどこかで、母が育ったところは大変な家庭環境だったけれど、曾祖母や祖母を責めるというよりは、しかたのないことだと思っていた。曾祖母や祖母も、しかたのないことだったんだと、自分に言い訳できたはず。それでも、たぶん心の深い部分で、とても後悔していた。後悔なんて、自分を正当化したいだけの嘘くさい部分もあるけれど、その思念が、めぐりめぐって、英霊イツマとなって、わたしの前に現われたことで、本当なんだとよくわかった。そして、イツマは――わたしの大切な友人になった」
イツマ「………」
桃和「わたしが、まだ小さな子どもだったとき、母が桃を爪楊枝で刺して食べさせてくれたの。母も、むかし祖母からそうしてもらったんだって。きっと、祖母も曾祖母から同じようにしてもらったんだと思う。だから、イツマ、爪楊枝はね、親から娘への、日常によくあるような、さりげない愛情の証」
エル「イツマ、泣いてる」
エフ「イツマ、なんだか、透けてきているような」
イツマ「マスター、……いつ、気づかれたのですか――いえ、残念ながら、その話をする時間は、なくなってきたようです。マスター、あなたは私を英霊イツマから、後悔の思念から、解放しようとしているのですね」
桃和「もう悪役令嬢じゃないし。イツマ――お暇をあげるわ」
エル・エフ「イツマが……どんどん透明になっていく……」
イツマ「感謝します、マスター。私のコアが、後悔の思念が、浄化されていくのを自分でも感じられます。私は、あなたが普通に生活しているのをみて、本当に嬉しかった。できたら、もっと一緒にいて、あなたの成長を見届けたかった……」
イツマ「最後に、こう呼ぶことをお許しください。私の愛しい娘――いつまでも健やかに。急なお別れですが、別れとはそういうもの、なのかもしれません」
桃和「イツマ……あなたのコアになっている後悔が、わたしたちをつなげてくれた。ただ、わたしはその後悔から、あなたを解放したかった。だって、そんなの、不健全であまりにいびつな関係でしょ」
イツマ「これが、最後のウブゲカリバーです。――桃和、ほんとうに、ありがとう」
山田屋店長「ちょっとまて、最後ならおれを山田屋の社長に――」
イツマ「ウブゲカリバー!!!!!!!」
―――――
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前は山田屋店長だったもの「………」
前は桃和だったもの「………」
前は桃和だったもの「……賢者に、なったのかしら。あれ、どうして? まだ桃和の意識がある」
前は双子エルフだったもの「ねえ~~どうしちゃったの、わたしたち~~」
桃和兼賢者「あら、エル、エフ。あなたたちも賢者になったの」
前は双子エルフだったもの「えるえふ? けんじゃ?」
前は人事部課長だったもの「どうやら、全員がウブゲカリバーに巻きこまれたようだ。そのせいで中途半端になったのか、前のキャラ属性や意識が残っているらしい」
前は山田屋店長だったもの「……あなたたちは、誰ですか」
桃和兼賢者「そういうあなたは?」
前は山田屋店長だった今は賢者「私は……賢者。そして、平均値男子……」
桃和兼賢者「平均値男子? 底辺おっさんから出世して、よかったじゃない」
賢者兼平均値男子「……出世?」
桃和兼賢者「平均値男子だから、ヘイキチね」
賢者ヘイキチ「………」
人事部課長兼賢者「――前の意識がはっきり残っているのは、私と桃和さんだけか?」
私も、前の意識が残っています。申し遅れました、前はナレーションだったものです。
賢者たち「!!!!!」
桃和兼賢者「そんなのあり!? いったい、どうなっているの」
人事部課長兼賢者「桃和さんと私、元双子エルフとヘイキチ、それと、信じがたいが元ナレーションで、合計6人の賢者……」
いえ、もうひとり、いるようです。
桃和兼賢者「え、まさか――」
もうひとりの賢者「………」
桃和兼賢者「イツマ!」
イツマと呼ばれた賢者「……ここは、どこですか」
桃和兼賢者「イツマーーーっ!! よかった、消えなかったのねっ」
イツマと呼ばれた賢者「あなたは……?」
桃和兼賢者「イツマ……ううん、前の意識なんかなくていい。またイチから始めればいいんだから。はじめまして、わたしは賢者。あなたも賢者よ。……うーん、わかりづらい。名前が必要ね」
小さな2人の賢者「けんじゃ、けんじゃ。きゃはは!!」
人事部課長兼賢者「これで、7人の賢者か。おや、こんなところに私たちの履歴書が。私の術もまだ廃れていないようだ。――ん? 桃和さん……いや、桃和賢者!」
桃和賢者「桃和賢者って、その呼び方はなによ。センスのかけらもないわね。当面はしかたないけど、どうしたの、人事部課長賢者」
人事部課長賢者「私たちは、賢者に改名したわけではないらしい。私たちの履歴書をみると、『守護者』と記されている」
桃和賢者「賢者と守護者って、どうちがうの。どっちでもいいけれど」
人事部課長賢者改め人事部課長守護者「履歴書によれば、守護者の術は、自由にキャラを変えて本編に忍びこむことができる、と」
桃和賢者改め桃和守護者「なにそれ、ちょっと都合よすぎじゃない」
イツマが、たとえ自分が消えたとしても、ウブゲカリバーの力を残すためにそうしたようです。桃和守護者の就活がうまくいくように。
ただ、それぞれの深層心理にかまわず全員が守護者になってしまったのは、ウブゲカリバーの力を増幅させたときの勢いで、山田屋店長のドMパワーも皆に影響してしまったのではないかと推察します。
桃和守護者「賢者になれという流れを受けて、ドMパワーの拡散で、皆が賢者になってしまった。と思ったら、賢者ではなく、ウブゲカリバーに似た術をもつ守護者だった。まったく、最後にとんだ無軌道ぶりだけれど……結局、この本編が、わたしにはお似合いってことね」
人事部課長守護者「ようやく、これで私も本編に復帰できるというわけか」
桃和守護者「あなただけじゃない。ここにいる7人の守護者、全員よ」
ところで、KAWTって、カウトではなく、カウツって読むこと、しってました?
(ずっとカウトって読んでた……というか、おれはどうしてウブカリの対象にならなかったんだ? 本編の作者だから? 謎ナレまで改名して守護者になったってのに。仲間はずれかよ。ちぇっ)
桃和守護者「これにて、就活サイドストーリーも、ひとまず落着!」
でござい。
(ほんと?)
桃和守護者「みんな、またいつか本編のどこかで会いましょ」
人事部課長守護者「きっとお互いに気づかないとは思うが」
小さな2人の守護者「本編に忍び込むって」「なんだか忍者みたい」
かくして、7人の守護者はKAWT異世界から復帰して、本編に戻りたいかといえば墓場スローライフも名残惜しいと思いつつ、この無軌道な改名サロンの就活サイドストーリーは、なんとか14話で落着するのであった。
桃和守護者「大丈夫。わたしは、どんなわたしになっても、きっと鬼退治をしているから!」(この期に及んで、新しいフレーズをだすとは……)
おあとがよろしいようで――
桃和守護者「ねえ、イツマ。あなたも最後に何かしゃべったら?」
イツマと呼ばれた守護者「……よくわからないが、この世界の観察者のみなさん、ありがとう。そして、はじめまして」
お・あ・と・が・よ・ろ・し・い・よ・う・で――
守護者ヘイキチ「………」
(そういえば、ヘイキチのセリフが一度もなかったような)




