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働き台風9 帰宅1

 栄の地下街はひどくにぎやかだ。

 いつもの地下街であり、もちろん初めてではなく、べつだんかわったこともなかったけれど、朝の印象が頭のどこかにあったのかもしれない。

 朝にたどった道を逆方向に歩く。

 普段と違って、CDショップ、靴屋、雑貨屋、服屋、チケットショップ、喫茶店など、ひとつひとつの店舗を意識する。

 これまでは、ただ漠然と景色が流れるようにしか認識していなかった。

 その流れのなかには、さまざまな店舗があった。

 しかし、新しさや個性をみつけられるわけではない。

 どの店舗も、どこかでみたような、ありきたりな感覚のなかにあるようで、立ちならぶ店舗のかたちは再び曖昧になり、ひとしなみに流れていく。

 大勢の社会人や学生が、均等に区画整理された地下道にあふれている。

 誰もがほぼ規則正しく左側を歩き、流れのなかに僕と長岡もいる。

 松月はバスで、川瀬さんは改札口の方向が違っていたので、別れていた。

 人々の声でざわめきながらも流れ自体はおだやかで、誰かが誰かを足早に追い抜くこともあまりなく、長岡が、通りかかったスポーツショップの前で立ちどまり、ちょっとエアマックスみてくわ、と店に入っていく。

 長岡と別れて改札口へ向かう。

 ひとりになり、急にそのまま帰宅するのがためらわれて、地下道の先、とおく見えるところまで視線をのばす。

 誰もが寄り道をせず、まっすぐそれぞれの改札口へ向かっているようにみえた。

 気のせいにちがいない(ゴータマ・ブッダ)

 けれど、寄るところといっても本屋くらいしか思いつかないし、本屋に寄ったところで何をしたいわけでもない。

 結局、改札口へつづくエスカレーターに乗る。

 名古屋は東京と同じで


 左側が立つ人、右側が歩く人


 大阪は逆らしい。

 さほど長くないエスカレーターを歩いた。

 少しでも早く帰りたいから、と思う。

 いそぎ足で、地下鉄のわずかな空席のひとつを確保する。

 次の駅の乗り換えで、ほとんどの席が入れ替わる。

 帰りの地下鉄も、行きと同じで適度に混みあっている。

 駅から地上へでる。

 コンビニの明かりが眼にとまる。

 スーツ姿でコンビニに入りたくなかった。

 着替えてから行くことにする。

 ふと、きょうの電話応対マニュアルで何度も繰り返した箇所があらわれる。

 

 お客様が現在お持ちの携帯電話でしたら○か月以上経過しておりますので(または、しておりませんので)


 マニュアルは、つねに相反する二種類のケースが想定されていた。


 結局のところマニュアルでしかない

 

 どこかできいたような言葉が勝手に思い浮かぶ。


 ふう。


 ()()()()()()()()()


 街燈と夜桜とオークの、しずかな夜景をながめながら、住宅街の緩やかな坂を上る。

 マンションのそばにある街燈が、きれていた。

 顔を上げたら、今夜は満月で、薄氷のような月が空に浮かんでいて、蒼味を帯びた夜が眼にふれる。




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