コウ2地区通信 Afternoon Wine like Tea(KAWT) 8
桃和「うーん、少し違うわね。あなたの父親は、祖父が一代で築いた家業を引き継いだ二代目のボンボン。若い頃は職人気質の祖父に反発して家業を継ぐ気はなかったけれど、ほかで身を立てる気概もなかった。あなたの両親は、今でいう婚活パーティーで知り合って結婚。あなたの母親は当時すでに軽度のうつ病と診断されていたのに、そのことを黙っていた。当然あとでばれて、父親は騙されたという感情を抱え込んだ。あなたが生まれて、子どもは可愛かったけれど、生来の頑固な気質が悪いほうにでて、騙されたという思いを割りきれなかった。母親は心療内科医のいうがまま薬漬けにさせられ、症状が悪化した。父親は面倒なことを避けて、母親の病気や治療のことをきちんと把握しようとせず、医者にまかせきりにした。薬がきれると母親は暴れ、何度もつづくと父親は暴力で対抗するようになり、それが日常化した。しばらくして、母親は父親から受けた暴力と同じような暴力を、幼い子どもに向けるようになった。躾という名の安易で過剰な暴力。その頃にはもう、父親は仕事に逃避し、家庭を軽んじるようになっていた。仮面夫婦となり、父親は、自分は子どもに手をだしていない、悪いのは病気の妻だと、自らの暴力を肯定した。子どもは、成長期なのにコンビニ弁当ばかり。母親からの暴力はときに命の危険を感じるような恐ろしさで、早く大人になってこの家を逃げだしたいと願っていた」
ソーカツタントウシュサ「………」
桃和「それなのに、あるとき子どものあなたは心療内科に連れていかれ、発達障害だと診断された――つまりは、そういうこと、だったんじゃないの」(お前がレッテルを貼ってどうすんだ。しかも、かなり壮大というか、細部がしっかりしてリアリティのあるような家庭環境レッテルじゃないか)
ソーカツタントウシュサ「……そのとおりです。桃和令嬢のおっしゃるとおり、それが私の育った家庭環境です」(いや、どう考えても違うだろ)
カチョウ「じつは、私の育った家庭も、桃和令嬢のおっしゃるとおりで」(サラリーマンの忖度ってやつか)
桃和「あなたにはいってないわ。何いってんの。馬鹿じゃないの」(わはは。お前はもうおしまいだ)
カチョウ「………」
ソーカツタントウシュサ「しかし、どうして私の家庭環境をそのようにおわかりで……?」
桃和「わたしのレイ・ジョウ・アイなら、それくらいのこと見通せるわ。みくびらないで」
阿寸「そのナントカ・アイがないぼくにも、このあとの展開は少しわかりそうだ。発達障害のレッテルを貼られたその人を、ウブゲカリバーで別人に再生しようというところだろう?」
桃和「ねえ、イツマ。たしかにこの男は上にはへつらい、下には威張る、行動コマンドが2つしかないような、しょうもない小物かもしれないけれど、ひとは環境によって作られる。この男の育った家庭環境には同情の余地がある」(その家庭環境は桃和が一方的に貼りつけたレッテルにすぎないはずだが、ひょっとしてこの男が受けいれた時点でそれが本当になるとか、ここはそういう設定の世界なのか)
桃和「霊名を変えて、生まれ変わったらって考えてみるのも、アリなんじゃない?」
イツマ「……わかりました。マスターがそういうのでしたら」
ソーカツタントウシュサ「いいえ、私にはもったいないです。こうして気にかけていただいただけで、もう十分です。私が望んでいたのは、ただただ普通に扱ってもらえること。使い捨てキャラでなく、少しの間だけでも覚えていてもらえること。その望みはいま叶えられました。肉厚な家庭環境のエピソードまで用意してくれて、これ以上いうことはありません」
カチョウ「そういうことなら、代わりに私が」
桃和「あ?」
カチョウ「なんでもありません」
イツマ「では、ウブゲ――」
ソーカツタントウシュサ「待ってっ。きいていましたか、私の話!?」
桃和「イツマ、遠慮はいらないわ」
イツマ「はい、ウブゲカリバー!」
ソーカツタントウシュサ「……あ……あ……そ、そんな……」
阿寸「結局、ここでも使い捨てキャラだったというわけか。しかし、桃和さんのこの問答無用な残酷ぶりは、いったい……」
前はソーカツタントウシュサだったもの「………」
前はカチョウだったもの「………」
桃和「あら、ずいぶんと可愛い小妖精が2人も!」
イツマ「勢い余って2人ともやってしまいました。すみません」
阿寸「勢い余って?」(イツマらしくないなあ)
イツマ「………」
桃和「いいのよ、阿寸先輩。はじめまして、小さなエルフさんたち。わたしは、この世界の創造主の娘にして悪役令嬢、桃太郎の子孫にしてこの世の鬼退治を生業とする、桃和姫よ」(姫?)




