働き台風1 眼2
ベッドのなかから手をのばし、サイドテーブルのケイタイを取る。
メールではなかった。
着信履歴に、大阪の市外局番があった。
大阪の知り合いは、ひとりもいない。
夜中にたったワンコールの着信。
この番号へかけなおすと有料の自動応答に繫がり金銭的なトラブルになる。
ワン切りと呼ばれている詐欺の手口で、日に何度もかかってくるという友人もいた。
僕のケイタイにはめったにかかってこなかった。めずらしがってもしょうがない。
まだ知識がなかったころ初めてワン切りに遭ったときは、あとから着信履歴に気づきワンコールできれたとはわからなかったせいもあって、突然あらわれた見覚えのない電話番号でも、ひょっとしたら知り合いかもしれないような、まったく無関係とはいいきれない気分があった。
いうまでもなくそれがワン切りのねらいなのだろう。
もちろん、単なる間違い電話だったということもある。
法的な支払い義務はかけ直しただけでは生じない、と新聞に書いてあった。
尋ねられたときはそう答えている。
通信会社に就職が決まって以来、友人や親戚からそのテの質問をされることがあった。
まったく人の貴重な睡眠時間を……
ありきたりな文句が、思い浮かぶ。
頭のなかに誰かつまらない奴がいるのだ
友人のひとりが就職で大阪へ行ったことを思いだした。新しい番号をしらなかった。
友人だったら、こんな夜中にワンコールだけかけてくるはずがなかった。
ボタン操作で電話番号を画面からけす。
視界のすみで、小さなかげがうごいて、大阪の電話番号と同じようにきえた。
……なんだろう。
眠かったけれど、錯覚かと思ったとたん
ドラモンガシンダ
という言葉があらわれた。
一瞬だった。
ちがっているようでもあったし、かりに「ドラモンガシンダ」だったとしてもどんな意味なのか見当もつかなく、結局は眠気におしきられて、寝なおした。