働き台風1 眼1
ケイタイの着信音で、眼をさます。
シンプルな着信音で、鳴りつづければ電話だとわかる。
ワンコールできれた。
メールだと思う。
寝ぼけたまま、おととい取り付けたばかりの遮光カーテンへ眼を向けた。
まだ夜は明けていない。
それにしては、部屋のなかが、ぼんやり明るい。
東京で暮らしていた部屋とちがい、窓がふたつあるから、と気づく。
トウキョウ?
……そう、僕はたしかに住んでいた。
合っている。
寝ぼけているよう……
ベランダがある南向きのカーテンを遮光にした。
東向きに、遮光ではないロールスクリーンを取り付けた。
外の明かりが、間接照明のようになって、生活の準備が整っているとはいえない部屋ミマンの場所を、うっすら照らしている。
この七畳ほどの実験空間に、積み上げられたダンボール箱と、かろうじて、ベッド、カラの棚、ミニコンポ、それにテーブルとテレビだけがある。
東向きに窓のある部屋が棲家になったのは、初めてだった。
遮光にしなかったのは、時計のアラームでなく、自然な日ざしで眼をさます可能性を残しておきたかったから。
街燈の陰影が入りこんだ、うす暗い室内を、しばらくながめた。
夜明け前の陰影が、なつかしかった。
頬に触れる空気のせいか、引っ越してきたばかりのせいか、部屋のようすはどこか冷ややかにみえた。その感じは、なぜか長いあいだ慣れ親しんだもののようでもあった。