扉が押しても引いても開かないなら引き外せ
バイクが速度を上げると、それに伴って体が受ける風の強さ大きくなる。
それを文字通り身をもって感じた。
バイクが赤に変わった信号で停車する。
「未来」
「何かしら?」
「あれが1件目の火事があったビルだぜ」
東谷が指を指した先には、ところどころにヒビの入ったビルだ。
一部崩れていたり、ガラスが割れていたり…廃墟と化している。
「中は入れるのかしら?」
「いや、普通は入れない」
「普通は…ってことは何かあるの?」
「まぁな、裏ワザってやつ」
そして信号が青に変わって再びバイクは進み出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨日の夕方に私たちは火事が起きた複数のビルを調べることにした。
火事起きたビルはみんな廃墟と化しているらしく、警察が立ち入りを禁じている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
先ほど、東谷が指さした廃墟ビルの前にある歩道の前に着く。
廃墟ビルの入口はここから30メートルほど離れた場所にある。
ガラス張りの自動ドアはkeepoutと書かれたテープで塞がれていた。
「ガラスを割れば入れそう?」
そう言うと東谷が噴き出し笑い出した。
「ぶっ、あっははははは!そりゃあ良い!」
「え?違うの?」
東谷はバイクから降りてヘルメットを外す。
私も降りてからヘルメットを外した。
「夜で人が見当たらないなら良いけど、流石にお天道様が出てる前じゃ人目がつく」
「じゃあ、調べられないじゃない?」
「いや、つまり人目がついても言い訳があれば良いんだよ。誰もが納得できるような言い訳がね」
「納得できるような言い訳って…」
すると、エンジン音が聞こえてきた。
振り返ると1台、黒い車(おそらく、クラウン)が東谷のバイクの後ろに止まった。
「噂をすれば、だ」
東谷がそう言うと運転席の扉が開き中から人が出てきた。
見るからに男性だ。
身長は東谷よりも高い。
185cm以上はあるだろう。
黒髪で、少し目つき悪く、第一印象は怖そうな人。
肩幅は広過ぎず狭すぎずで、黒いスーツに第一第二ボタンがとめてない白いカッターシャツに暗めの赤色のネクタイ、黒い革靴だ。
「おいーっす!かーちゃん!」
「ええ!?」
思わず東谷の方を見る。
笑顔で手を振っている。
「妙な名前で呼ぶな、東谷。お前の連れが勘違いされているだろうが」
そう言いながら近づいてきた。
「はは、すまんすまん!未来、紹介するよコイツは高城一輝。これでも、刑事なんだよ」
「これでも、は余計だ」
そう言って胸ポケットから煙草のケースを出しては煙草を1本取り出し、口にくわえては火をつけた。
煙草がチリチリと燃えていく。
あの人は煙草は吸ってなかったなぁ。
じゃなかった、自己紹介しないと。
「私は彩川 未来よ。よろしくね」
愛想よく微笑んでみせる。
「……」
高城は私をしばらく見てから目をそらす。
「ああ、こちらこそ」
そして廃墟ビルの方へ歩んでいくのを見て私と東谷も後に続く。
「ところで東谷、あの事件の進展になるって本当なんだろうな?」
「おう、多分ね!」
「テメェ…ただでさえ、火事のあったビルは立ち入り許可出してもらえるの厳しいのに104件のビルを全て許可を下ろしてきた俺の身にもなれ」
「まぁまぁ、かっちゃんも手詰まりだろ?」
「それは否定しない、あと変なアダ名を付けるな」
と歩いていると自動ドアがある方向とは違う方に進み始めた。
「え、こっちじゃないのん?」
東谷が自動ドアを指差して尋ねる。
「訛ってるぞ。いや、そこは電気系統が死んでいる上に自動ドアの方が少し歪んでしまってるから開かない」
「じゃあ、どうするの?」
高城はぷはぁと煙草の煙を吐く。
「裏口から入る」
すると突然、私はほっぺをツンツンされた。
私の左肩に乗っていた柊だ。
私は小声で話しかける。
「柊、どうしたの?」
「未来、何か感じませんか?」
そう言われて何か気配か何かかと思い耳と目で探ってみるが特に異常は…うん?
なんだろうか、この暖かさは。
「この暖かさは何かしら?」
「それは、『ハナタバ』による能力の痕跡です」
「え、それってどういう?」
「おい、未来〜?どした?」
どうやら、つい声のボリュームが上がっていたようだ。
「あ、ううん。何でもないわ」
手をひらひら振って笑って誤魔化す。
「未来、言い遅れて申し訳ないのですが。私と会話する時、特に今みたいに周り誰かいる時は心の中で話してください、そしたら私が拾って返事しますから」
「え、どうやっムグッ」
と、言いかけたら柊が両手で私の唇を抑えてきた。
「そういえば、アナタは記憶障害を起こしていましたね…とりあえず、口に出さないように心の中で言葉を浮かべてください」
(心の中で…って言われても)
「心の中で…って言われてもって思いましたね」
「!?」
「そうそう、そんな感じです」
(な、なるほどね要領は分かったわ)
「では、まず…能力の話から。私たち『ハナタバ』には生まれ持った能力があります。例えば、私にはあらゆる物を見つける《探知》という能力です」
(探知?)
「はい、例えば何処かで落としてなくしてしまったものとか…特定の人物の心境、『ハナタバ』の居場所などです」
(へぇ、便利ね)
「ただ、あくまで《探知》なので戦闘型の『ハナタバ』みたいにはなれないので私としては微妙なところです」
柊が溜め息をこぼす。
あまり気に入ってないのだろうか。
(ちなみに私には、どんな能力があるのかしら?…ってさっき暖かさを感じたから、私も《探知》?)
「いえ、あれは私がアナタに触れているので一時的に私の能力と共鳴……簡単に言うと、私が触れている間は私の能力を下手くそだけど使えるぜ!…みたいな感じでしかありません」
(使えるぜ…)
「なので…どんな能力なんでしょうかね…正直に言って分からないです。何かしら能力を発揮していただかないと」
(この子、話してるとテンションが上がっちゃうタイプなのね)
「ごほんっ!あの、聞いてますか?」
柊が顔を赤らめて咳払いする。
そういえば、心の中は彼女には丸見えか。
(というか、彼女の使えるぜ!に気を取られていたのだけど)
「むうううう!」
ぷくーと頬を膨らませて怒っているようだ。
(あはは、ごめんね?…でも、使い方?って言うのかしら、全く身に覚えはないのよね)
つい、指で頭を撫でる。
あ、これは逆に怒るかなと思った。
「…それも記憶障害で失っているのかもしれませんね、まぁ、私が探知して危険を回避できるようにしますから、ゆっくり思い出してください」
背筋をピンっと伸ばし片手を胸にポンッと叩いて自信満々と言わんばかりだ。
どうやら機嫌を直したようだ。
それを見て、私はつい笑みをこぼす
「ふふ、ありがとうね。心強いわ」
「ちょっ、未来!?」
あ、声に出してしまった。
前を向くと東谷と高城は…裏口の扉とにらめっこしていた。
いつの間に裏口の前に着いていたのだろう。
とにかく、気づかれてはいないようだ。
「……えっと、ちなみに先ほどの『ハナタバ』の能力の痕跡は僅かにしか感じられないので、このビルにはいない可能性が高いです」
(そ、そうなのね)
「ですが、他の反応があるかもしれませんので《探知》に集中します。何かあれば伝えますね」
(ええ、お願いするわ)
柊は頷いてから両手をそれぞれ耳に当て目を瞑った。
私は再び裏口の方を見る。
高城が扉の鍵をドアノブの鍵穴に突っ込んで回しては扉を押したり引いたりするが、開かないようだ。
「クソッ、どうなってやがる」
「体当たりしてみる?」
高城がイラつくのを見て東谷が提案する。
「そうしよう、お前らは下がってろ」
高城は助走をつけてから扉に体当たりするが、少し動いただけで開かない。
「よし、ウチもやる」
そして二人がかりで扉に体当たりしたが、開く様子はない。
「うーん?ウチもかっちゃんも結構、力あるんだけどなぁ」
「全く開かないな、立てつけが悪くなってんのか?」
私は扉の様子を見る。
おそらく、この扉は押して開けるタイプ。
が、扉の向こうに何かがあって、それも人の力じゃどうにもならないほどの物があって開かないと考えるのが妥当か。
「私にもやらせてくれる?」
「いやぁ、でも開かないぜ?ウチらでもビクともしないんだから、なぁ?かっちゃん」
「……」
「あれ、かっちゃん?」
高城は東谷の声が聞こえてないのか私を片目で見てから、しばらくして目をそらす。
「アンタに任せる。東谷、離れるぞ」
「え、何を言ってん…ちょちょちょーい!?」
高城が東谷の襟首を掴んではズルズル引きずる。
私はそれを見送ってから裏口の扉のドアノブに手を伸ばし掴む。
「ねぇ、柊。この扉の向こうに何か気配とかはある?」
「いえ、ありませんけど…どうするんですか?」
「この扉は向こう側に何かあるから開かないと思うの」
向こう側にある何かを全て押し退けることが出来たら良い。
しかし、それを押し退けなくても扉を開ける方法がある。
私はドアノブを掴んでいる手に力を込める。
「えっと…つまり?」
「扉を、引き外す!」
思いっきりドアノブを引っ張ると、ガツンっ!という音が響いたかと思ったら目の前に扉はなく、私の片手…つまりドアノブを握っている方の手に裏口は扉が丸ごと、そこにあった。
「す、スゲェ!未来!お前、力持ちだったんだな!つか、その扉は片手で持ってるけど重くないのか?」
「いや、自分でもビックリなんだけど…全然重くないのよ。むしろ引っ張る時にドアノブが壊れて外れなくて良かったわ」
「……」
東谷が拍手して驚いているが、高城は静かに煙草を吸っていた。
「とりあえず、通路の確認だ」
そう言いながら、こちらの方に近づいてきてから扉が無くなった通路の様子を見る。
「こりゃ、ダメだな」
「ええ?何でだ?」
東谷も高城の後ろから覗き込む。
私も様子を見る。
そこには、巨大なコンクリート塊が崩れ落ちていた。
「これって…」
東谷が呟く。
「ここより上のフロアが崩壊している可能性がある、たとえ崩壊してなかったとしても、ちょっとしたことで崩れるぞ」
「マジかぁ~!?」
東谷が頭を抱えて叫ぶ。
彼女の声が原因かは分からないが、僅かにパラパラと石が落ちた。
微妙な切りですが、次回に続きます( ˇωˇ )