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アンノウン・Bouquet  作者: あやかわ
6/7

貰った思い出


「グオオオオオオオ!」

叫び声。

それは人が発するものではなかった。

おそらく怪物というのはああいう物を差すのだろう。

大きさ約3m。

顔はトカゲのようで鋭い牙がギラギラと並んでいる上に唾液。

噛まれたら化膿するだろう。

背中には大きなヒレ、腕には長く尖った鋭い爪、長い尻尾。


瑠紅(るく)!」

私と同じ『ハナタバ』である(ひいらぎ)東谷(あずまや)瑠紅(るく)に叫ぶ。



そして怪物が再び東谷に向かって飛びかかる。

体長10cmほどしかない柊が東谷の前で両手を広げて守ろうとしているが誰がどう見ても勝てる見込みはないし、最悪2人とも死ぬ。


それを察した時。

私はーー。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





7時間前。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「んじゃ、ウチはちょっとバイクの点検してくるから支度が終わったらガレージに来てくれ」

「うん、分かったわ」


そう答えると東谷は2階の入口の扉を開き出ていく。

私は風呂場にくっついている洗面台に向かう。

そして、うさぎ柄のダボダボのパジャマを脱いでから私は別の服に手を伸ばす。


黒いストッキングを穿いて黒いスカートを腰に巻く。

上には黒いシャツを着ると、六角形で真ん中に穴が空いていて波や花が水色のガラスを埋め込んで描いてある物を手に取る。


これも私が、あの人から貰ったものだ。

ただ、貰った時に何か言われていたのだが記憶が曖昧で思い出せない。


でも、あの人から貰ったものは全て私の宝物で思い出だ。

私は六角形のうちの1角にある窪みのようなところに指を入れて引っ張るとかぱっ、と外側に開いた。


そして左側の髪を纏めて六角形の穴に入れるだけ入れて再び閉める。

あとは、右側の髪を纏めて髪留め用のゴムを巻き付けて…ツインテールの完成。


最後に大きな黒いコートを手に取る。

ちょっと女性物しては大きなコート。

よく見ると袖のところには白い花やハートのようなの刺繍が繋がって流れるように入れてある。

私が東谷に発見された時にも着ていたという。


ズキッ。


また、あの頭痛だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆


寒い冬、積もらない雪がちらほら降っている街を私は高層ビルの窓から見下ろしている。

そして、くしゃみの音が聞こえてきたので振り返ると男がいた。

私が好きな、あの人だ。

男は寒さのせいか身が震えていた。

私は寒さを感じなかった。


それは私が『ハナタバ』であることを証明していた。

「未来、寒くないか?」

男が尋ねる。

私は首を横に振った。


「そうか、なら良かった」

そう言って微笑む。

私は特に何をするでもなく様子を見ていた。


男はいつもと違った仕事をしていた。

普段、男が着ている黒いコートをデスクの上に置いていて、袖のところに何か縫っている。


しばらく見ていると袖には白い花やハートのようなの刺繍が縫ってあった。

私の視線に気付いたのか、こちらを見て微笑む。


「綺麗かな?」

私は頷く。


すると男はいっそう嬉しそうに微笑む。

「そうか、ふふ…嬉しいなぁ!」

男は立ち上がってから私の肩にコートを広げて掛けたようにした。

ようにした、というのは私が『ハナタバ』だからすり抜けて落ちてしまうからだと思ったからだろう。


「未来にあげるよ」

私はまた特に何をするでもなく男の顔を見る。


「はは、着れないって思ってるのか?大丈夫、もう少し待てば…」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そう優しく笑いながら何かを言っているところで再び頭痛がして現実に戻された。




……これは。

断片的だったけれど、あの人と過ごした時の記憶。

高層ビル…。

何か違和感を感じた…そう、私に対して。

まるで、質問された時は答えて、それ以外は置物のようだ。


いや、それより。

このコートはあの人がくれたものだった。

コートをぎゅっと抱きしめる。

あの人を抱きしめているかのような気がした。

目を閉じる。

先ほどの記憶が再生される。

優しい笑顔。

私が好きな笑顔だ。

ああ、会いたい。抱きしめて欲しい。

まぶたの裏が熱くなる。

駄目だ…今は泣いてはいけない。


私はコートに身を通してから肩が出るように曲げた。


「この姿を見せたら、喜んでくれるかしら?」

鏡に映る自分。

少し目元が赤くなっていた。


私はネックレスの蒼い玉を指で持ち上げてキスする。


そして洗面台を出た。






再び大部屋に戻ると柊がパタパタ飛んできた。


「支度は終わったようですね」

「ごめんね、待たせたわ」

「いえ、瑠紅もちょうど終わったみたいですし大丈夫ですよ」

「そっか。じゃあ、行こうかな」


そして私たちは東谷探偵事務所を後にした。


階段を1階に向かうと、東谷がヘルメットを被っていた。

「お、支度が終わったか」

「ええ、待たせたわね」

「なーに、こっちもちょうど終わったんだよ」


東谷がヘルメットを私に渡す。


「んじゃ、行こっか!」

「お願いするわね、探偵さん」

そう言って微笑むと東谷も二ヒヒと笑って「おう!」と答えた。







柊は私の首に掴まっている。

『ハナタバ』同士なら、触れられるみたいだ。

そうして全員バイクに乗ると東谷はアクセルを捻ってブオーン!と大きな音を出して私たちの乗るバイクは勢いよくガレージを飛び出した。





ちなみに未来が今回着た服は病院に居た時から東谷探偵事務所でお風呂に入る前まで着ていた服と髪型です。

描写が遅れてごめんなさい(´・ω・`)

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