知っていること、知らないこと
私は手のひらにシャンプーを出して泡立てる。
それを自分の髪に撫でるように広げていく。
最終的にわしゃわしゃと洗いシャワーを出して流す。
泡が完全に落ちたか確認するために目の前の鏡を見る。
鏡には青に近い翠色の長い髪。
エメラルドのような瞳。
そこそこ大きい胸(Cカップ)になめらかなボディライン。
そんな女性…彩川未来が映っていた。
「心が喰われているってな」
さっきの東谷の言葉が何故か頭の中で響く。
「心が喰われるってどんな感じなのかな」
胸に手を当ててみた。
あの人も昔、心のことを話していた気がする。
何か関係あるのかしら。
それから私は風呂から出て東谷から借りたうさぎの絵柄が入ったダボッとしたパジャマに身を通す。
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※作者が彩川 未来の描写を一度も描いてなかったので無理やり入浴シーンでねじ込みました(๑>•̀๑)テヘペロ
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「お、上がったか」
キッチンに居た東谷が風呂から上がってきた私に気づいて振り返って見て話しかける。
彼女の手元には米が…どうやら、おにぎりを作っているようだ。
私は先ほどまで話していた東谷のデスクがある部屋(以下、大部屋)に戻ってきたところだ。
私は部屋の時計を見る。
19時48分を指していた。
先ほどの火事の話をしていたら時刻が19時回っていた。
すっかり日も沈んで暗くなっていたので、東谷が「行く宛はあるのか?」と聞いてきた。
もちろん、ある。
と言ったが、よく考えてみたら私の家はあの人が居た場所だった上、まさに今それを探しているのだから…結果的に行く宛はなかった。
なので東谷の気遣いに甘えさせてもらっている。
「悪いわね、先に入ってしまって」
「いいって、湯加減は良かったか?」
そう言って二ヒヒと笑う。
「うん、さっぱりしたよ」
「そりゃ良かった。あ、悪いんだがコレ運んでくれるか?」
彼女が言ったコレというのは一つのお盆。
そして、お盆の上にはカップ麺が二つとおにぎりが計6個が皿の上に、あとはガラス製のコップか二つに割り箸2本があった。
私は頭を拭いていたタオルを肩にかけてから髪に残っている雫がパジャマに落ちないようにしてから取りに行く。
「ソファの前のテーブルで良いのかしら?」
「おう」
東谷がキッチンにある冷蔵庫を開けてから緑茶が入った大きなペットボトル1本とチューハイを1本持ってきた。
私はお盆をテーブルに下ろしてからソファに腰掛ける。
東谷も私の向かい側にあるソファに腰掛ける。
「もう、お湯は入れてあるからあと1分くらい待ってくれ」
と言いながらチューハイの缶を開けてからグイッと呑む。
「ぷはっ、コレなかなかいけるな!」
「それ、何?」
「ん、コレ?これは昨日、新発売されたメロン味チューハイだよ、呑んでみる?」
「チューハイ…」
あの人もたまに呑んでた。
そして呑んでみる?と言われたこともあった。
結局、呑んだっけ?
何故か記憶が曖昧だ。
「おーい、未来さーん?もしもーし、未来さーん?」
はっと気づくと目の前で東谷がヒラヒラ手を振っていた。
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしてた」
「はは、いいよ。ほい」
東谷はチューハイを私のコップに注いでくれた。
私はズルズルと音を立てながら少し呑んだ。
口の中がチクチクする。
ちょっとツーンとした感じも。
でも、メロンの風味が広がって良い具合にバランスがとれている。
「美味しい…!」
「おおっ、そうかぁ!ならもう、1本持ってこようっと」
そう言って東谷はキッチンの冷蔵庫に向かって別のチューハイ(レモン味)を持ってきた。
その間に私はまたメロン味のチューハイをぐびっと呑む。
「いやぁー嬉しいなぁ、久しぶりに1人酒にならないや」
「久しぶりに?」
再びソファに腰をかける東谷。
「おう、最近はずっと1人酒だったんだけど、未来が呑めて良かった〜あ、今から未来って呼んで良い?」
「ええ、良いわ」
そう答えると東谷は微笑む。
別に悪い気はしない。
「にしても、未来って良い名前だなぁ」
「あなたの名前だって綺麗だと思うけどね」
「やめろよ、なんか恥ずかしいわっ。ははははっ!」
軽くバシバシと私の肩を叩いた、彼女が笑っている。
相当嬉しいのだろう。
”本当に嬉しい”時の笑い声は、その人自身だけではなく。
周りの人も心地良さを得る。
…と、あの人も言っていた。
実際に体験してみると、それがよく分かる。
悪い気はしないどころか、空間が温かく感じる。
「と、いっけね!カップ麺忘れてた!のびたかなぁ?」
私も完全に忘れてた。
お互いに確認する。
話を始めてから早10分。
麺は言わずもがな、見事にのびていた。
「あちゃー、悪ぃな」
「気にしないで、どちらにしろ私は猫舌だから冷まさないといけなかったし」
そう言うと東谷はホッと安心したようだ。
「んじゃ、食べよっか。いただきまーすっ!」
「うん、いただきます」
手を合わせてから割り箸に手を伸ばす。
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それから喋りながら食べること一時間。
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東谷は満腹で眠くなったのかソファに横なっては寝息をたてて寝ていた。
豪快な性格と思っていたけど、寝顔は可愛らしい。
「……」
そして私は視線を東谷からデスクの方に向ける。
正確にはデスクの上にいる小人
小人は私をじっと見ている。
私は立ち上がってデスクの前に立つ。
「…見えてるんですね、やっぱり」
「その言い方だと、彼女には見えてないのね」
小人はコクッと頷き背中から光の羽を出してパタパタ飛んで私の目の高さまで上がる。
「場所を変えましょう、ついてきてください」
黒髪のボブに白いワンピース。
まるで妖精のようだ。
そして小人が階段側のドアに当たる…かと思ったらすり抜けていった。
私もドアノブに触れ、回してから階段に出る。
小人は私が来たのを見て上に上がっていた。
後に続いて階段を上がる。
真っ暗な階段だ…だと思っていたら突然、足元が明るくなった。
顔を上げると小人が光っていた。
「気遣ってくれたの?」
「暗いかなぁっと思って」
「ふふ、ありがとう」
小人は特に反応することなく前を向いて進んでいく。
そして最後の段を上がると目の前に扉がある。
小人は2階を出た時と同じようにすり抜けて行った。
私は扉のドアノブを回し外に出る。
そこは屋上だった。
開けた扉を閉めて前に進む。
特に何かある訳でもない、あるとしたら鉄製の手すりがビルの淵を囲んでいるくらい。
小人はそんな屋上の手すりに立っていた。
私はそちらへ歩み寄る。
「彼女に聞かれたくない話でもあるの?」
「アナタが瑠紅に不審がられると思ったからですよ」
ああ、なるほど。
つまり、東谷には小人の声も聞こえないわけか。
その状況で私と話せば私は独り言をブツブツ言ってることになる。
確かに不審だ。
「お気遣いありがとう。でも、そしたら私は幽霊でも見えてることになるのかしら?」
私は小人が立ってる手すりの横に前屈みに重心を預ける。
このビルはそこそこの高さなのに、下を見ると道路を車が行き来していてエンジン音など騒音が耳に届く。
小人は私の方を向く。
「……あの、さっきから思ってたのですが。それはジョークですか?」
「え?」
思わず、小人の方を見る。
小人はキョトンとしている。
「ま、まさかと思いますけど…ご自身がどういう存在が分かってないのですか?」
私の頭の中でクエスチョンマークがドンドン出てくる。
何を言ってるんだと。
だが、それは小人も同様のようだ。
「これは…まさか、そういうケースもあるんですね…」
「ちょっと、どういう意味?」
小人は心底、驚いているようで目をパチパチさせて私を見ている。
小人は一呼吸を置いてから話す。
「順番に整理しますね。まず、私は『ハナタバ』というもので、アナタが言ったような幽霊、あるいは精霊のようなものです」
「は、はなたば…」
初めて聞いた……でも、聞いたこともあるような…あれ、何処で聞いたっけ?
「で、『ハナタバ』というのは基本的に人間には見えません。見えるのは同じ『ハナタバ』か『ハナタバ』と契約した人間だけです」
「え、じゃあ…私はあなたと契約したの?」
しかし、契約した覚えはないが。
いや、もしかしたら病室で初めて見た時に既に?
「いえ、違います…うーん本当に分からないんですね…」
小人が腕を組んで唸る。
「な…にを?」
小人が腕組を止めて真っ直ぐ私を見た。
どこか東谷に似ているような気がした。
ひゅーっと夜風が吹いてきた。
私の青に近い緑の髪が横に揺れる。
「アナタも『ハナタバ』なんですよ、彩川 未来」