ようこそ、東谷探偵事務所へ
「ようこそ、東谷探偵事務所へ!」
そう女性…東谷瑠紅は言い放った。
「とりあえず、紅茶淹れるから…あと30秒くらいか」
ポットの様子を見ながらデスクの端の方に上下を逆にひっくり返して置いてあるティーカップに手を伸ばす。
そしてデスクの引き出しから未開封の紅茶のパックを袋から出しカップに入れた。
東谷の肩に乗っていた小さな人のような(以下、小人と呼ぶ)ものはデスクの上にふわっと着地してぽてんと座ると眠り始めた。
私は周りを見る。
あちらこちらに散乱している紙。
おそらく、探偵業で必要な書類なのだろうが…果たしてこんな扱いで大丈夫なのか。
「えーと、あ、あや…?あやかわ…そうそう、彩川…未来ちゃんだっけ?」
どうやら私の名前を忘れかけていたそう?
いや、普通そんなものだと。
あの人も言っていた。
「うん、そうよ」
私は彼女の方を見てそう答える。
東谷はポットからカップに湯を注ぐ。
そして、私の前にそれを出す。
私はカップを口元に近づけ、火傷しないようにズルズルと口に入れる。
「とりあえず、さっき病院で話した、最近の事件や事故についてだが…正直言って起きすぎているんだ、だからカテゴリを絞ろう…どういった奴を探しているんだ?」
そう言われて、私は先程…病院での会話を思い出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今から、約一時間前。
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「まぁ、アンタからしたら…何故、今、病院にいるのか分からない…よな?」
病院の病室のベッドの上。
私は気づいたら、ここに居た。
確かに分からない。
私は頷く。
「だよな。まぁ、言っても信用してくれないと思うが…正直に言うぞ」
私は再び頷く。
「ウチがバイクを飛ばしてたら突然、アンタが目の前に降ってきたんだ」
「降ってきた?」
「ああ、不思議な感じだったよ…ビルの真下なら飛び降りかなって思っただろうけど、アンタは大通りの道路の真ん中に降ってきたんだ」
東谷は腕を組んで考えているようだった。
いや、思い出そうとしている…と言った方が正しいか。
降ってきた…?私が?
一体どういうことなんだろう。
と私は彼女から視線を離し病室の窓から見える空を見る。
「で、降ってきたアンタはそのまま道路に転がって倒れてたところをウチが跳ねた!すまん!」
「。。。。。。え?」
私は思わず再び東谷の方を見る。
東谷は深く頭を下げていた。
「ウチが責任はしっかり果たす!だから言ってくれ!金やら欲しいもんがあるなら言ってくれ!出来る限りの範囲でやるから命は取らんでくれ!」
東谷は頭を下げたまま言い放つ。
責任を果たすって…。
正直な話、私はどうでもいい。
まず、私は跳ねられた記憶もないから真実かどうかも分からない。
いや、問題はそこではなく。
私が降ってきたということ…明らかに日常的には変わった現象。
何故、私は降ってきたんだろうか…。
ーズキッー
唐突に頭痛がした。
跳ねられた際に頭でも打ったのか。
私は頭を抱えて俯く。
「お、おい!大丈夫か!」
東谷が叫んだ。
しかし、それを聞き取る一方で脳裏には別のことを映し出していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
炎に包まれた大きな部屋。
パソコンや巨大な機材、大きなガラス製の壁、デスクには写真立て。
あの人と読んだ本、聴いた音楽、見た映像。
全てが燃えている。
そして目の前に血塗れの男。
それを私はぎゅっと抱き寄せていた。
泣いていた。
私は初めて泣いた。
こみ上げる何か…それは感情…。
もう、この人は助からない…。
医学の知識はあまりないけれど、感覚がそう言っていた。
男の顔は優しい笑みを浮かべて目を閉じていた。
私の前でカッコ悪いところ見せたくなかったのか、私を安心させるためなのか…。
「ねぇ…どっち?ねぇ…!答えて…よ!…また今までみたいに…教えて…よ!」
それを言っても男は答えてくれなかった。
そんなの分かっていたのに。
受け入れたくなかった。
もっと一緒に居たかった。
だけど叶わない。
私は自分の首にあるネックレスを握る。
綺麗に透きとおっているようで、深い蒼で丸い石。
この男が私にくれた、大切な石。
今、ようやく触ってつけることが出来た。
できれば、この姿を見て欲しかった。
私はこの男を愛している。
どうしようもないほど、私は好きなんだ。
だから…せめて…一緒にこの炎に燃やされて良いよね。
あなたはすごく寂しがり屋だから…私はずっとずぅっと…一緒にいるよ。
そう心に決めた時。
バンッ!
力強く部屋の扉が開かれた、いや、叩き倒した?とにかく、そこには何かいる。
しかし、何故かそれには黒いモヤモヤしたものがあって正体が分からない。
その黒いモヤモヤはこちらに近づいてきた。
そして飛びかかってきた。
爪か針か、よく分からないがそれが身を傷つける物であるということは分かった。
それをこちらに振りかざしたーー。
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「…!おい…!おい…!大丈夫か!?」
頭痛がなくなった。
「だ、大丈夫…」
同時にあの幻か夢が強く残っている。
いや、違う。
”残っていなければ”ならなかった。
あれは夢でも幻でもない私の記憶だ。
私の記憶を誰かが何かした…?
私はネックレスの事を思い出す。
首元を触れると、あった。
私は手のひらに蒼い玉をのせる。
やはり、幻ではない。
それを、これが証明している。
なら、私は。
「…私は探さなきゃいけない」
「え?」
ネックレスの蒼い玉を握りしめる。
私とあの人との最期は途中だ。
なら、私とあの人には続きをする権利がある。
「東谷さん…あなた、責任を果たすっていたよね?なら、ここ最近の事件や事故を教えて」
「え、うぇ?」
東谷は激しく困惑していた。
だが、彩川の目は真っ直ぐ力強い目をしていた。
「……分かった、ウチの知ってること話すよ。まぁ、ちょうど、そういう職柄だしな」
東谷は頭をガシガシと掻いてから立ち上がる。
「んじゃ、ウチ家に来い!」
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彩川 未来の怪我は”何故か”完全に塞がっていたので、すぐに退院できた。
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「どういう奴…ねぇ」
どういう奴に入るんだろう?
ロボット?熊?それとも…未知の生命体?
私は復活した記憶を辿るが、やはり、あの黒いモヤモヤの正体は分からない。
何かないか…。
炎に包まれていた部屋に何か気になるようなもの。
うん?炎…?
炎が出ていた、一部屋が燃えるほどの炎なら何か大きなニュースになっていたりしないだろうか。
「そういえば、あの場所は燃えていたわ。ここ最近で火事とかなかった?」
「火事はそこそこあってるけどなぁ…何か変わった火事なら…」
そう言って東谷は立ち上がり私の座っているソファの後ろにある鉄製の棚をガラガラと開ける。
そして、大きな紙を取り出しては私の前のテーブルに広げた。
それは地図だった。
「この街の地図だよ。この赤い丸で囲ってあるのが火事が起きた場所だ」
地図にはあちらこちらに赤い丸や青い丸がある。
赤い丸は住宅街や都市の方で多い。
「これは、いつからの情報?」
「ちょうど半年だな、半年前から火事が頻繁に起こっている」
見た感じ百件近くあっているようだ。
それも、特に統一性があるようには見えない。
……というか、日付、時間帯なども書いてある。
いや、そうじゃなくて…てっきり新聞紙などを見せてくれるのかと思っていたが、ここまで纏めた情報…なんか不自然だ。
「あなたは何故、こんなに火事を調べているの?」
東谷は少し考えているようだった。
「……実は、ウチは…とある事件を追っていてな、火事に関係するのかと思ってそれ以降ずっと調べているんよ」
「その事件っていうのは聞いていいのかしら?」
「ああ、アンタは半年前にとあるショッピングモールであった立て篭り事件を知ってるかい?」
「いえ、知らない」
初めて聞いた。
いや、もしかしたら失っている記憶の内では知っているかもしれないが。
「なら、それも話そう。その時、あるテロリスト集団がショッピングモールの客の一部…たしか30人くらいだったか。それらを人質にとってたんだ」
東谷は私が座っているソファと反対側にあるソファにドサッと腰をかける。
「んでもって、国に20億を請求したんだ。それで2時間以内に準備できなければ1人ずつ消していくってな」
私は頷きながら聞いていた。
「まぁ、ここまでは別に普通の事件だ」
「ふ、普通?」
「ああ、普通だ。あとはなるように解決するの待つだけだった…が、奇妙なことが起きた」
「奇妙な…」
東谷はデスクの上にある自分の紅茶を取りに行った。
「テロリストが燃えだしたんだよ、全身火傷して死ぬほどな」
「銃火器の扱いを間違えたとかではなく?」
「いや、違う。奴らが持って銃火器はすべて無傷だった。そして人質だった人たちは皆、口を揃えてこう言うんだ」
紅茶を1杯飲み干してから彼女は言い放つ。
「心が喰われているってな」
昨日は書けなかったから慌てて書きました:;(∩´﹏`∩);: