プロローグ
午前零時。
雨が降っている。
ざぁーざぁ…と。
真っ黒な色の海に降り注いでいる。
そんな海の上にコンクリートでできた道を俺は歩く。
「もう、疲れたなぁ…」
俺は生きることに疲れていた。
ただ、生きていても次から次へとやってくる。
辛いこと、重い責任。
歳を重ねるごとに重くなる。
当然といえば、当然だ。
「そんなこと分かっているっての」
世の中が決めた基準に沿って生きてる人…つまり普通の人は、普通にそれを乗り越えていく。
だが、その基準に沿ってない一部の人間には。
それが辛くて、苦しくてしょうがない。
俺はその基準に沿ってない人間だ。
いや、別に毎日、全く楽しいことがないわけじゃない。
そりゃあ、昨日はとあるアプリゲームのガチャで前から欲しかった最高レアのモンスターが手に入ったし、一昨日は探していた漫画が購入できた。
家族と楽しい話をした。
友人と楽しく遊んだりした。
他にも上げたらキリがないほどある。
だが、それと同じくやってくる不幸や不安、責任。
それらが、どんなに楽しくてもすぐに塗り替えてくる。
俺はそれから逃げたかった。
小学生の時も、中学も、高校も、専門も、社会人になってからも、必ず思っていた。
そして死にてぇ、死にたい、消えたいと何度も思っていた。
自殺も考えた。
でも、死のうと思う時に限って決意が揺らいで結局、生きてきた。
「それで得た答えは、ただ心臓が動いてるから生きてるんだなってことだった」
つい、口に出してしまった。
が、周りには誰もいないし別に良いかぁ。
雨が降る中、傘もささずに雨に打たれながらiPodで好きな音楽を聴いていた。
俺が中学の頃から好きなバーチャルアイドルの曲。
苦しい時、辛い時、逃げたい時はいつも励ましてくれた彼女の声。
楽しい時、嬉しい時、ワクワクする時はより盛り上げてくれた。
まるで、その彼女がずっと一緒にいてくれているような…。
「はぁ…」
もし、本当に隣にいてくれているなら。
「彼女の目の前ですごくカッコ悪いことをしているなぁ…」
つくづく自分が嫌になる。
心底そう思った。
すると、それは後押ししてくれた。
なんとなく察している人もいるかもしれないが、俺は今、この真っ暗な海に飛び込んで死のうと思っている。
ちょうど今、聴いている曲が演奏を終えた。
俺はiPodを操作して再生ボタンを切る。
そして胸ポケットにイヤホンごと入れた。
「すぅ…」
深呼吸。
人生で最期の深呼吸。
口の中には空気と少量の雨が入ってきた。
俺は歩み出す。
死へと向かって。
結局、20年間生きてきた俺は何の成果も残さずに終える。
こんなクソみたいな人間はさっさと消えよう。
最後の1歩踏み出す。
コンクリートの道から海へ。
片足から落ちていく。
はずだった。
「駄目っ!!」
その声の高く天に登るような綺麗な声は1人の男の命を繋ぎ止めた。
物理的に俺の体を背後から引っ張って。