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アリスと空ろな音楽祭

アリスはにはとってもとっても好きな人がいます。

相手がどう思っているかは知りませんが、今日その好きな人とデートです。

お母さんの化粧台を借りて顔を真っ白に塗りつけて、

ちょっと暗めで儚そうな色を出すため目の周りに緑色のアイシャドー。

緑色のチーク、緑色の口紅、緑はアリスのシンボルカラー。

クローゼットからウサギをたんまり使った毛皮のワンピース。

帽子掛けからウサギの耳を使用した可愛らしいウサミミ帽子。

大人っぽさを演出するためにアクセサリーは一点のみ、ドードー鳥を模した指輪。

これで完璧。

呼び鈴が鳴ると同時に、小さなアリスは新しい靴を履いて外へと飛び出しました。

そして期待していた相手の第一声が、

「似合わないな」

扉を閉め施錠。

ウサミミ帽子は宙を舞い、

ワンピースは床に叩きつけられ、踏まれ、切り刻まれ、

指輪は大切に丁寧に慎重に宝石箱へ収納。

顔が擦り切れるぐらいゴシゴシと洗顔をし、

ほんの少し、ほんの少しオシャレでリボンをぐるぐる巻きつけて、

これで鉄壁。

ベタ靴を履いて外へと飛び出した!

「服ぐらい着ろよ」

ぎゃあ。



今日は街の公民館で音楽祭鑑賞です。

「顔から血が出てるぞ」

「ん? お化粧が中々落ちないから、引っ掻いたんです。ガリガリって」

「ならいいか」

人間の血は特に珍しいものではないので、

二人は目的地に向け歩き出しました。

アリスのお相手、

彼の名前はアルバート・フィッシュと言いまして。

アリスより三つか四つ年上であり、身長も頭一つ分大きく、

どう見ても兄と妹と言ったところでしょう。

アリスは彼の腕を引っ張り、無理やり腕組みをしました。

アルバートは無表情。

アリスは彼の二の腕に顔を寄せ、彼の夜服に顔をこすり付けます。

彼女の血だらけの顔はすっかりきれいになりました。

アリスはご機嫌ニッコニコ♪

アルバートは無表情。



さて会場についたお二人さん。

演目はクラシックですがアリスはロックのようにはしゃいでいます。

アルバートは唇に人差し指を当て、

「シッ」

アリスは人差し指越しにアルバートの唇にキスをしました。

アルバートは無表情。

そのまま人差し指をアリスの口の中に押し込み黙らせます。



演奏は始まり、

アルバートはその音色に身体をゆだねます。

まったくもって音楽に無関心なアリスは、

関心のあるアルバートの顔を見続けていました。

でも五分も見続けていれば飽きます、

アルバートはそんな顔形をしているのです。

「アルちゃん、アルちゃん」

暇なので、とっても暇なのでアリスはアルバートに話しかけました。

「シッ」

アルバートは人差し指をアリスの方に向けました。

これ以上騒いだらまた突っ込んでやるぞ、いいかげん黙ってろ。

アリスは向けられた人差し指を口に含みました。

いい覚悟だ。

しかし、人差し指はアリスの喉奥に届きません、

アリスがしっかりと歯でかみ締めているからです。

「アルひゃん、アルひゃん」

「なんだ」

アルバートは無表情。

口内の攻防戦に彼は負け、指をアリスから引き抜きます。

「アルちゃんは音楽好きなんですか?」

「好きだよ」

アルバートは無用な問答を受け流しながら、自分の指を見ました。

彼の人差し指は、よだれ、歯型、そして滲み出た血が付いています。

それを自然な動きで口に含んでしまったアルバート。

アリスは「キャッ♪」っと、うれし恥かしい悲鳴を上げます。

アルバートは無表情。

自分の血を冷静に吸い取ります。



指揮者がとても面白い動きをしている。

狂ったように、ハチャメチャで、奇想天外で。

「どんな所が好きなんです」

「そうだな・・・」

バイオリンの音。

「音が、人間が壊れていく音に似ているから・・・」

「じゃぁ、あれはどんな風に聞えるんですか?」

アリスはコントラバスを指差した。

「よく見ろ、楽器が人の体に見えるだろ? 弓のつるがノコギリで緩急を付けて肉を切断していくんだ。そこでだ、私が聞えている音というのは切り刻まれていく人間の叫び声じゃない、恐怖に歪んだ音色ではないんだよ。口ちゃんと塞いで暴れるようであれば首なんか切り落としたって構わない、生きていなくたって構わない。解体時に発生する音が大事だ、骨と肉がノコギリ歯の間に食い込んでいく音だよ。言うなれば作業音だ・・・わかるか?」

アルバートは無表情。

指から出た血を自分の唇に塗りたくる。

「あれは?」

「クラリネットは液体が流れる音だ、身体に穴を空けて血が流れ落ちる音を静かに静聴する。透き通った血の音だ」

「じゃあ、あれは?」

「釘を打ち付けた板でケツを叩く音だ」

「じゃあね・・・じゃあね・・・あれは?」

「あれはどう聞いてもタイプライターの音だ」

アルバートは無表情。

アリスは目をキラキラと輝かして彼を見詰めています。

「私は・・・私は・・・好きなんだ・・・誰にも理解されないが好きなんだ音楽が・・・音が・・・どんな音でも聞えるんだよ・・・」アルバートは立ち上がり指揮者のように振る舞い始めました「壊れていく音だ、きしむ音だ、千切れる音だ、流れ出す音だ、折れていく音だ、砕けていく音だ、破壊の音楽だ! 道具を使い人間を解体していく、時には素手だって構わない。ああ・・・クラシックが聞える、無機質な作業音が私の耳に聞えてくる。人を壊すイメージを私に与えてくれる! 音楽は破壊だ!」



パチパチパチパチ・・・



たった一人為のたった一人の拍手。

彼の演奏はひとまず終わりを告げました。





【出入り禁止】





次の日。

アリスはいつものようにおじさんの家に出かけていきました。

袋一杯のお土産をゲイシーおじさんに手渡します。

「なんだいコリャ?」

「アルちゃんがお土産でくれたんです。二足歩行羊の足肉だって」

「二足歩行? 何だソリャ」

「アリスは思うに、前足の代わりに手があるんじゃないかなって思うんです」

「まぁ、なんにせよ羊の肉だ。僕がうまく調理してやる・・・アリスも食べていくだろ?」

「ううん、いらないです」

ピエロは大きなお腹を震わせてビックリしました。

嫌いな食べ物以外、アリスが食事を断るなんて・・・

「そんなに不味いのかこの肉は」

「知らない、アリスは今ダイエットしてるんです」

「ンフフ」

ピエロは鼻で笑いました。

これだからこの人は嫌われるんです。

「昨日ねアルちゃんに裸見られたんです」アリスは元愛犬の剥製を掴みました「でね、服を着ろ何て言われたんです」犬の毛をブチブチを引き抜き「だからね服なんか着なくたってキレイだよなんて言われたいんです」犬の置物は骨と皮だけになりました「だから、美容、健康、ダイエット」

近頃のガキはませやがる。

ゲイシーおじさんは鼻で笑いながら料理を始めました。

そんな事は一日も持たないだろうと知っているからです。



ク〜



アリスのお腹の音がなります。

これも人の体の音だよね。

壊れていく音。

アリスのお腹が壊れていく音。

アルちゃんはこの音好きかな・・・。

う〜ん。

でもきっと。

アルバートは無表情。


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