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アリスとぎっしり詰まった卵

アリスには大切なお友達がいます。

リナ・メディアという名前の可愛らしい女の子で、外見だけなら町一番の美少女と言われてもおかしくないのですが、ただ、とても口が悪かったのです。

それでいて度胸も無く心が弱かったものですから、

相手が傷つくたび、日毎日毎に顔に暗い影を落とし、

友達のアリスに泣きつくのです。

リナはアリスの胸に顔をうずめながら罵詈雑言を小さな口から放ちます。

「てめぇ、このぉ」アリスはリナの頭を撫でました「ちくしょう、死んぢまえッ!」アリスはリナの背中をとんとんと叩きます「ふっざけんじゃねぇよ!」アリスはリナの涙をキレイに丁寧に舐めとります「クソッ・・・バーロー・・・」

ゆえにリナにはアリスしか友達はいません。



アリスは言いました。

「口をきくからいけないんです」

「んだとコラッ!」

とてもいい考えだと思ったリナは口をふさぐことにしました。

道具はリナの髪の毛、とても長い黒髪をしていたので便利でした。

束ねて編んでヒモにして、アリスはリナの口を縫い付けます

お裁縫が得意なアリスはコの字とじに縫い付けました。

見た目で糸が露出しない縫い方です。

リナちゃんのきれいな顔を汚さないように、丁寧に丁寧に・・・。

「どうです?」

「グルァ!」

とても喜んだリナはアリスと抱き合いました。



キラキラと輝いた笑顔で町へと飛び出します。

しかし、今までの彼女の行動のせいからでしょうか。

人々はリナの事を奇異の目で見詰めます。

少女はとても心が弱かったので。

今度は髪の毛で目をふさぎました。

でも、

口を閉じても、目を閉じても。

世界はなくなることはないのです。

鼻を閉じても、耳を閉じても。

君の世界はなくならない。

指の間を縫いつけました。

足の間も閉じました。

体中の穴と言う穴、隙間と言う隙間を閉じました。

それでも世界はなくならない。

終わらない世界が君のそばにいつもいます。



「でもね、アリスは解りませんです。リナちゃんはどうやって自分を縫ったんだろう」

アリスはホットミルクの薄い皮膜を愛犬の餌箱へ入れました。

愛犬フェラリアは威風堂々たる剥製の姿となっています。

「で、その後リナちゃんはどうなったんだい?」

ゲイシーおじさんはコーヒーを片手に尋ねます。

「リナちゃんの体、隙間無く何処もかしこもへたに縫ってあって・・・卵です、真ん丸の卵なんです。えっとね・・・こんな形をしてて」アリスは体育座りをして見せました「ぴっちり真ん丸つるつるのこーろころ」アリスはそのままの格好でコロコロと転がって見せました「本当に隙間が無いんだ。リナちゃんお肌白いから本当に卵みたいなんです。面白いからペンでリナちゃんの似顔絵を書いてあげたんです。真ん丸卵に大きなお顔・・・でもどっちが頭でどっちがお尻だかアリスには解りませんです」

「ハハハハ、それじゃあハンプティ・ダンプティだね」

「アリスはそんなものは知りませんです」

「・・・」近頃のガキは「でだ、リナちゃんは今どうしているんだい?」

「知らないです」

ホットミルクを飲み終えた彼女は、

フェルの剥製を蹴飛ばして外へ出て行きました。



ゲイシーおじさんの家の近くにある小さな森。

そこに大きな卵が隠されていました。

アリスは毎日森に出掛けては、

卵を大事に温めています。

どんな生き物が生まれてくるかいつも楽しみにしていました。

鳥だったらいいなぁ、大きな七色の翼が生えてアリスと一緒に大空で散歩するんだ。

でも、ヘビとかトカゲだったらどうしよう・・・

ワニだったら怖いよね。

アッそうだ、虫も卵から生まれるんだっけ。

う〜ん。

気になるなぁ。

気になるなぁ。

気になるなぁ。

そうだ、中身を確かめてみればいいんです。

よし。

せーのッ!



その日の夕食はオムレツでした。

アリスは三回お代わりしました。

時々目を瞑っては七色の翼を持つ大きな鳥背に乗って、

大空を自由に飛び回る世界を想像します。

大空はどんどん広がって、

世界はどんどん大きくなって。

でも、ふとある疑問が頭によぎります。

リナちゃんはどうやって自分を縫えたんだろう?

お裁縫下手なのにね。





アリスは知りませんです。


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