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だって僕はNPCだから  作者: 枕崎 純之助
第一章 『闇の魔女』
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7話 「魔道拳士との戦い」

 僕らがスタンバイを完了させると、ほどなくして一人のプレイヤーが登場した。

 現れたプレイヤーは気弱そうな感じの女性だった。

 クラスは魔道拳士みたいだ。

 剣ややりなどの長物の武器に頼らず基本的に拳や蹴りなどの肉弾戦を得意とする一方、魔法を使うことの出来るタイプのようだった。


「この先には恐ろしい魔女がいるから気をつけろ」


 僕はお決まりのセリフを投げかけたけど、その魔道拳士はそんな僕の声はまるで聞こえていないかのように硬い表情で、一歩また一歩とミランダの方へ近寄っていく。

 この人すでに顔色が青ざめてるんですけど。

 大丈夫かな?

 彼女は見ているこちらが心配になるほど強張こわばった表情をその顔に張り付かせている。

 こんなんでよくこの最深部までたどり着けたなぁ。


 魔道拳士のステータスウインドウを見ると、レベルはそれほど高くなく、ここまで来るのに使い果たしてしまったのか、回復アイテムとかもほとんど持っていなかった。

 どうやらかなり苦労してこの洞窟の最深部までたどり着いたみたいだ。

 魔道拳士は手甲を装着した両拳を握り締めて闇の玉座の前に立った。


 ミランダはすでに臨戦態勢に入っている。

 その顔は禍々(まがまが)しい笑みに彩られていた。


「わざわざ殺されに来るなんて、愚かだこと。闇の魔女の恐ろしさを思い知りなさい」


 余裕を漂わせてそう言い放つとミランダは闇の玉座から立ち上がり、呪いの剣『タリオ』を振りかざした。

 その途端に刀身に施された白と黒の二匹のへびがウネウネと動き出し、つかを持つミランダの右手に絡みつくようにしてとぐろを巻き始める。

 装飾用のおもむきを持っていた剣が、鈍い金色の刃をギラリとあらわにして、戦闘用へと様変わりした。


 禍々(まがまが)しいその刀を目にして息を飲む魔道拳士は、それでも気合の声を上げて決死の形相でミランダに立ち向かっていった。

 魔道拳士の装着している手甲は宝玉ほうぎょくが埋め込まれていて、拳全体が魔力の光を帯びて青白く輝いている。

 それは青白い冷気の属性のようで、どうやら魔道拳士は自分の拳に冷気の魔法をかけて敵を殴りつけるのが得意なようだった。


 魔道拳士の連続する打撃をミランダは呪いの剣・タリオで打ち返していく。

 だけどミランダにとって慣れない剣での戦闘のためか、魔道拳士の冷気の拳を幾度となく浴びてしまう。

 ミランダのライフゲージから徐々にライフが削り取られていた。


 あれ?

 おかしいな。

 僕はある変化に気が付いた。


 魔道拳士の打撃は鋭かったけど、ミランダは思ったほどダメージを受けていない。

 僕はミランダのステータスに注目してみて、その原因を理解した。

 ミランダは魔力値や魔力量はすごく高いけど、物理攻撃に対する防御力はそれほど強くないはずだった。

 それが今のミランダのステータスを見ると、防御力が794までに跳ね上がっている。

 僕はすぐさまマニュアルを呼び出してミランダの公式データを確認する。


 やっぱり。

 彼女の物理防御値は205だ。

 僕は現在のミランダのステータスと元々のそれとを見比べてみた。

 攻撃力以外の全てのステータス値が特徴的に変化している。

 細かい法則までは分からなかったけど、もしかしたらあの呪いの剣・タリオは高い能力を下げるだけじゃなくて、逆に低い能力を上げる効果もあるんじゃないだろうか。


 僕がそんなことを考えていると、突如として魔道拳士が苦しげな声を上げてひるんだ。

 勇猛果敢ゆうもうかかんに攻撃を仕掛けていたはずの魔道拳士は、攻撃の手を止めてミランダから少し距離を取った。


「何だ?」


 僕はすぐにコマンド入力を行い、思考に夢中で見逃してしまった戦闘シーンをリプレイした。

 空中に表示されたモニターの中では、連続で繰り出される魔道拳士の拳のうち一発がミランダの脇腹にクリーンヒットしている様子が映し出されていた。

 防御力の高い今の状態のミランダもこれには一定のダメージを受けている。

 だけどその途端に魔道拳士の動きが止まった。


「ここだ」


 僕はそのシーンを一時停止して画面を凝視する。

 すると魔道拳士がミランダを殴りつけた際、ミランダが受けたダメージと同じ分だけのライフが魔道拳士のライフゲージから削り取られていることが分かる。

 まるで見えない拳によって背後から殴りつけられたかのようだった。

 僕は思わず首を捻る。


「どういうことだ?」


 リプレイを見終えた僕がミランダに視線を送ると、彼女もチラリと僕を見てニヤリとする。

 なるほど。

 実演ってのはこのことか。


 呪いの剣・タリオには相手から受けたダメージをそっくりそのまま相手にも与える力があるのか。

 そのことを知らない魔道拳士は困惑の表情を浮かべて攻撃の手を止める。 

 前にも言ったけど、ここでのミランダとの戦闘は1対1の決闘戦で、回復魔法や回復アイテムを使ってライフを回復することは出来ない。

 魔道拳士が慎重になるのも理解できるよ。

 そんな彼女をあざ笑うようにミランダは声を上げる。


「あら? もうビビッちゃったのかしら? そっちが来ないならこっちから行くわよ!」


 ミランダは好戦的な笑みを浮かべてタリオの刃を振りかざす。

 魔道拳士はこれを自分の手甲で防御するかたわら、今度はその手から魔法による無数の氷柱を作り出してミランダに魔法攻撃を行った。

 拳での攻撃から魔法攻撃に切り替えてきたぞ。

 これはどうなるんだ?


 襲い掛かってくる氷柱をミランダはタリオで叩き落していくけど、全てを回避することは出来ずにいくつかは体に浴びてしまう。

 ミランダの体の一部がわずかに氷結し、再び彼女のライフが減少する。

 するとやはり魔道拳士の体も一部が氷結し、ライフも同じだけ減少した。

 魔道拳士は苦痛の声を上げて再びミランダと距離を取る。


 やっぱりそういうことか。

 呪いの剣・タリオは物理攻撃でも魔法攻撃でも同じように意趣返いしゅがえし的な特性を発揮するみたいだ。

 持ち主が受けたダメージと同じだけの手傷を相手に負わせるんだ。

 目には目を、歯には歯を、ってやつか。

 僕はようやくミランダの持つ呪いの剣の名称が、古代エジプトのハンムラビ法典にある復讐ふくしゅうの法律『タリオの法』から来ていることに気が付いた。


 そして戦局はもはや大勢が決したと言っていいだろう。

 そこからはもう魔道拳士には少し気の毒なくらいだったよ。

 ミランダに一気呵成いっきかせいに攻められて彼女も仕方なく反撃するんだけど、ミランダに与えた分のダメージが自分に返ってきてしまうんだから嫌になるだろうね。


 ただミランダの物理防御力がいやに高まってるものだから、与えられるダメージは少なくて戦局はなかなか進まない。

 互いのライフが少しずつ減少するだけの状況にれたみたいで、とうとうミランダは苛立いらだって声を上げた。 


「ああもう! 面倒だわ!」


 そう言うとミランダはコマンドを呼び出してタリオを装備から解除する。

 一度装備するとそう簡単には外せない呪いの剣だけど、呪いの主のミランダは例外みたいだ。


 その後の決着はあっけないもので、魔道拳士はミランダの下位魔法『黒炎弾』(ヘルバレット)の集中砲火を浴びて、憐れにも黒コゲとなって絶命した。

 魔道拳士も冷気の魔力を込めた拳で、迫り来る数十発の黒い火球を必死に打ち落としていったんだけど、最終的に避けきれずにジ・エンドとなった。

 気の毒に。


「はい。お疲れ」


 ミランダはそう言うと手をパンパンッと打ち鳴らしてほこりを払い、そのままドカッと玉座に腰を下ろした。

 闇の玉座はミランダにとっての充電器であり、徐々に彼女の体力と魔力が回復していく。

 ミランダは少し表情を緩めてくつろぎながら言う。


「あ~面倒くさかった。で、どう? タリオの意味を理解した?」


 そう言う彼女に僕は苦笑いを浮かべてうなづいた。


「うん。目には目を。歯には歯を。相手にとっては嫌なアイテムだね」


 僕がそう言うとミランダはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。


「持つ人間にとっても嫌なアイテムよ。苦労してこの私を倒したプレイヤーはこのタリオを押し付けられる。ふふふ。ザマー見なさい」


 そう言うとミランダはアイテムストックから取り出した呪いの剣・タリオを玉座の後ろにしまい込んだ。

 本日も魔女ミランダは絶好調だった。

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