3話 「死神の接吻」
二刀流の女戦士との激闘に勝利したミランダは、手招きして僕を玉座の側に呼び寄せると得意げに鼻腔を広げて言った。
「私を倒すのって相当難しいみたいね」
「そうだね。ミランダの設定には創造主の悪意を感じるよ」
プレイヤーから攻撃を受けたミランダのライフポイントが残り3分の1を切ったところで、彼女は死の魔法である『死神の接吻』を連発する緊急モードに移行する。
こうなるとプレイヤーは出来る限り早くミランダを倒さなければならないんだけど、どんなに攻撃力の高いプレイヤーでも彼女の残り3分の1の体力を一気に削り落とせるような攻撃が出来る人は見たことが無い。
この洞窟は単身でしか挑めない設定で、戦闘も決闘戦のため仲間の力に頼ることも出来ない。
前に彼女を倒すことが出来たプレイヤーは珍しく彼女の『死神の接吻』を3回連続で受けても死なずにミランダを見事に討ち果たした、という記録がある。
50%の確率で死に至る魔法って言ったって、それはあくまでも確率の話だから、そういうこともある。
逆に一発でプレイヤーの息の根を止めることが4~5回続いた時もあって、その時はさすがに彼女を死神そのものかと思ったよ。
「私が何でこんな辺境の洞窟に押し込められているのか、最近分かるような気がするわ」
「そりゃ、そんな反則的な能力を持つキミがラスボスだったら、クレームの嵐だろうしね」
僕とミランダは一日のうち大半をこんな感じの会話をして過ごすようになった。
互いにヒマを持て余していて、それくらいしかすることはないからね。
もちろん訪問者がある時は僕らはそれぞれ互いの仕事を果たした。
僕はプレイヤーに恐ろしい魔女への用心を促し、ミランダは洞窟のボスとして彼らを迎え撃つ。
毎日2~3人のプレイヤーが訪れては彼女の『死神の接吻』によって命を落としていった。
僕は相変わらずプレイヤーの功績を褒めたたえる例のセリフを言えないままだったけど、それでもいいかって気になっていた。
意外なことに、ミランダとの会話を続ける日々が自分にとって少しずつ楽しくなっていたからだ。
連日、彼女は得意げに『死神の接吻』を披露しては毎度のように華麗かつ残酷にプレイヤー達を葬り去っていく。
いつしか僕は胸の内で彼女の勝利に拍手喝采を送るようになっていた。
悪の魔女を見張る王国の兵士としてはあるまじき心境だけど、心の中で思っているだけなら別にいいよね。