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だって僕はNPCだから  作者: 枕崎 純之助
第三章 『神の啓示』
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3話 「まさかの決着! そして僕は・・・・・・」

「な、何だ?」


 僕は思わず大きな声を上げた。

 激しい戦闘の最中さなか、ジェネットの胸から突き出た刃は徐々にその刀身をあらわにして、ジェネットの体から大きく突き出てくる。

 まるで彼女の体から生まれ出でるかのように。


「あれは……」


 僕はその剣の正体に気付き、身の毛のよだつ思いで立ち尽くした。

 それはジェネットのアイテムストックに収納されていたはずの呪いの剣だった。

 呪いが解呪されたはずのそれは、刀身に禍々(まがまが)しい黒いきりをまとわりつかせている。


「ううっ……」


 ジェネットは思わずひざをついて苦しげに顔をしかめながら、それでも気丈に刃を手でつかむとそれを自分の胸から引き抜いた。

 へびのように波打った装飾を持つ呪いの剣がジェネットの手からこぼれて床に落ち、乾いた音を立てる。

 ミランダはその剣を見るとニヤリを笑った。


「へぇ。あんた前に私を倒したんだ? 生意気ね。でもその剣を後生大事に持っていたことが命取りよ」


 ジェネットは悔しげに唇をんだ。


「こ、この剣は確かに浄化したはずです」


 その通りだ。

 ジェネットに浄化されて剣の呪いは解かれたはずだ。

 だけどミランダはそれも見透みすかしたように笑みを浮かべた。


「でしょうね。普段はそれで問題ないんだろうけど、この私がここまで近くにいるとなると話は別よ。なぜならそれは私が作り出した剣で、私の魔力に反応するから」


 僕はミランダの言葉と、苦しげに顔をゆがめているジェネットの表情に愕然がくぜんとしてうめいた。


「そんな……ジェネットがミランダを倒した褒賞アイテムだったのに」


 それがまさかあだとなってジェネットを苦しめることになるなんて。

 剣を引き抜いた今もジェネットの『祝福の聖衣(クレイオー)』の胸の辺りには、どす黒い色をした血の跡が残されている。

 いや、あれは血じゃない。

 おそらく呪いの剣から噴出した高濃度の闇の粒子だ。

 そしてそれは純白の衣を侵食するように徐々に広がりを見せ、ジェネットの体をむしばんでいく。


 ジェネットは必死にこれに耐え、震える足を叱咤しったするように手で叩きながら懲悪杖(アストレア)を頼りに立ち上がる。

 しかしその顔は苦悶に歪み、額からは滝のような汗が流れ落ちている。


「ジェネット!」


 僕は思わず叫び声を上げていた。

 彼女の顔は苦痛にゆがんでいる。

 本当に苦しそうだ。

 そして事態はさらに悪化の一途を辿たどる。


 地面に落ちていた呪いの剣が自ら動き、ジェネットの持つ懲悪杖(アストレア)を押しのけるようにして彼女の手に滑り込んできた。

 彼女の武器である懲悪杖(アストレア)が装備から外され、その代わりに呪いの剣が装備された。


 きょ、強制的に装備?

 そんなことってあるのか?


 驚きに息を飲む僕が見守る中、ジェネットのステータスウインドウが危険を知らせる赤色に変色した。

 あれだけ高かったジェネットのステータスが軒並のきなみ下がっている。

 こ、これって呪いの剣の影響なのか?


「ミ、ミランダ……あなたは」


 ジェネットは苦痛とは異なる困惑の表情を浮かべてミランダを見据えた。 

 だけどすぐにガックリと両膝りょうひざをついてしまう。


 やばい!

 これを見たミランダは一気に勝負に出た。


「私は闇をつかさどる魔女ミランダ。この死の魔法は我が誇り。跳ね返せるものなら……跳ね返してみなさいっ!」


 そう言うとミランダはついに死の魔法『死神の接吻』(デモンズキッス)を撃ち放った。


「神の作りたもうた鏡に跳ね返せないものはありません! 『応報の鏡』(リフレクション)


 苦痛に耐え忍び、ジェネットも神聖魔法の反射鏡を目の前に展開してこれを迎え撃つ。

 黒いきりがドクロを形作りジェネットを飲み込もうと迫るが、輝く鏡がこれをはばんだ。

 死の魔法は術者であるミランダのもとに戻る……はずだった。


 だけど……。

 ピシッという音とともに反射鏡に一点のほころびが生じる。

 それはジェネットにとって致命的だった。


 ミランダの死の魔法『死神の接吻』(デモンズキッス)は反射鏡のほころびからすり抜けて、ジェネットを直撃してしまったんだ。

 漆黒のきりにかたどられたドクロが、ジェネットの命をかすめ取る。


「あっ……」


 あっという間、というのは本当だ。

 僕はそれしか声を発することが出来ずにジェネットの姿を呆然ぼうぜんと見つめた。

 黒いきりのドクロはジェネットを飲み込むと霧散むさんする。


 後に残されたジェネットは立ち尽くす僕の見ている前で、ゆっくりとひざから崩れ落ちた。

 そしてうつ伏せのまま地面に倒れ込むと、ほんの少しだけ顔を僕に向けた。


 僕とジェネットの視線が静かに交錯する。


「ジェネットォォォォォ!」


 僕は無意識のうちにそう叫びながら彼女に駆け寄った。

 そして地面に横たわる彼女のすぐ側にしゃがみ込んだ。

 ジェネットは僕の顔を見上げると、苦しげにうめき声を漏らす。


「うぅ……ふ、不覚です。私も……まだまだ未熟ですね」


 僕は何も言葉を返すことが出来ずにただただ首を横に振った。


「へ、兵士様。この体に……ミランダの……細胞が……ゴホッ!」


 ジェネットはそこまで言って激しく咳き込んだ。

 その口もとには血がにじんでいる。


「もういい! もうしゃべらなくていいんだ! ジェネット」


 僕は今にも泣き出してしまいそうなのを必死にこらえて彼女の手を握った。

 ジェネットは僕の手を静かに握り返してくれた。

 その力が徐々に弱くなっていく。


「あなたに……たくします」


 かすれて力のない声でそう言うと、彼女はほんの少しだけ静かに微笑を浮かべたんだ。

 そしてゆっくりと目を閉じると、動かなくなった。


 そ、そんな……。

 ジェネットが負けた。

 ミランダの前に敗れ去った。


 激しい戦いによって相当のダメージを負ったミランダは疲労を色濃く顔ににじませながらも、得意げに勝ち名乗りを上げる。


「フンッ! 私の勝ちね! ザマー見なさい。神の元へ泣いて帰れっつうの!」


 ミランダはそう言うと勝ち誇った顔で僕を見た。

 僕の胸の内に激しい怒りが湧き起こる。


「ミランダ……君って奴は」

「何よ。文句あるのかしら?」


 そう言うとミランダは僕をにらみつけた。

 相変わらずその刺すような視線が恐ろしかったけど、僕の頭の中にふいに浮かび上がった光景が恐怖を一瞬にしてかき消した。


 今しがた倒れたジェネットの最後の表情と僕に向ける視線が脳裏によみがえり、それがなぜかミランダの顔と重なった。

 頭の中に急激に混乱のうずが巻き起こる。

 それはまるで押し寄せる波のようで、僕の感情をかき回し、思考を奪い去る。


「う、ううぅっ!」


 僕は思わず頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

 な、何だ? 

 頭の中に何かが戻ってくる。

 胸の中で何かが溶けていく。

 僕は……僕は一体……?


 様々な映像が次々と脳裏に浮かび、数々の思いを伴って積み重なっていく。

 頭の中でいくつもの閃光がまたたくと、ある種の爆発のように体全体に何かが染み渡っていく。

 それは……それは忘れていたはずの僕自身の記憶だった。

 それがあるべき形を取り戻した。


「……ミ、ミランダ」


 僕はミランダの名前を呼んだ。

 先ほどまでとは違う思いを込めて。


 目の前にいるミランダは僕にとって数分前の彼女とは大きく異なっていた。

 ミランダと僕はただのボスキャラとNPCという関係から、ほんの少しだけ距離を縮められたはずだった。


 僕と他愛も無い話に興じていたミランダ。

 一人で洞窟の外に出るのが本当は怖いのに素直にそう言えなかったミランダ。

 敗れ去った後の最後の瞬間、死の間際まぎわに微笑んだミランダ。


 僕は……全てを思い出した。

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