2話 「長身女戦士!」
「うりゃああああああっ!」
闇の洞窟の中に轟然と響き渡るのは、長身の女戦士が上げる気合の声だった。
ミランダはこの日すでに1名のプレイヤーを葬り去り、二人目の訪問者としてこの女戦士を迎えていた。
相手の女戦士は長剣と短剣を使った二刀流で最近、名を馳せているプレイヤーだ。
キリッとした目が特徴的な美人なんだけど、戦士らしく厳しい顔つきをしている。
女戦士はミランダに詰め寄ると鋭い太刀筋で彼女を追い詰めていく。
ちょ……この人、長身に似合わず動きが超速いぞ。
しかも戦い慣れしているみたいで、繰り出す剣さばきと身のこなしは実に器用だった。
ステータスはどの値も高いし、実戦でゴリゴリのし上がって来た人なんだな。
「あの人、かなり強いぞ」
女戦士の戦いぶりを見て僕は思わずそうつぶやいた。
彼女はミランダを押し込んで優位に戦いを進めていた。
女戦士の猛攻を前にミランダはダメージを受けて徐々にライフを減らしていく。
ちなみにこの洞窟でミランダと対戦するプレイヤーには1対1の決闘戦という戦闘方式が義務付けられている。
この戦闘の最中は一切の回復魔法や回復アイテムの使用が禁じられ無効化されるんだ。
だから戦闘はそれほど長引かずに決着がつく。
「ウザいデカ女ね!」
そう吐き捨てるとミランダは後方に下がって距離を取る。
魔女ってだけあって基本的には中長距離での魔法を飛び道具とした戦いが得意な彼女は、気合いの声とともに黒い炎の玉をその手から放った。
ミランダの得意魔法『黒炎弾』だ。
高速で飛来する数発の燃え盛る火球が女戦士を襲う。
だけど女戦士は青く輝く盾を掲げてこの炎を受け止めた。
火球は一瞬にして蒸発し、まっ白な蒸気が宙に舞う。
普通の金属製の盾ならば耐え切れずに溶解してしまうだろうが、そこはさすがに名のあるプレイヤーだった。
恐らく事前にミランダのことを調べ上げていて、炎に耐性のある水か氷属性の盾を装備してきたんだろうね。
そういう高価なアイテムを持っていること自体、熟練プレイヤーの証なんだ。
ミランダはそれでもおかまいなしに『黒炎弾』を乱発する。
女戦士はそれを盾で防ぎ続けるけど、何発かは的を外れて彼女の周囲の地面を焼いた。
蒸気と白煙とが混じって周囲の視界が悪くなった。
ミランダはさらに高位の魔法を詠唱するため、距離をとるべく後方に下がろうとしたけど、蒸気と煙の間をぬって女戦士が一気に間合いを詰めた。
瞬時に眼前に迫った女戦士に対してミランダは手にしていた武器『黒鎖杖』を振るい、女戦士の突き出した長剣をはじく。
だけど女戦士はもう一本の短剣でミランダの肩口に斬りつけた。
ミランダの防具『深闇の黒衣』は切り裂かれ、彼女の白い肌が露わになった。
あれはけっこうなダメージだぞ。
ミランダのライフゲージは大きく減少して残り3分の1を切る。
「やってくれたわね。この代償は高くつくわよ!」
憎々しげにそう言って女戦士を睨みつけるとミランダは短い詠唱を口にする。
「死に逝く者への手向けよ。喰らいなさい。『死神の接吻』」
ミランダに魔法攻撃をさせまいと女戦士は剣を振り上げてすかさず彼女に飛びかかる。
だけどその剣が届く前にミランダの手から黒い霧が発生し、それがドクロの形に変貌しながら女戦士を飲み込んだ。
ミランダの最終奥義が炸裂し、周囲は禍々しい空気を帯びて息苦しさを覚えるほどだった。
そしてドクロが霧散すると漆黒の濃霧の中から再び姿を現した女戦士は白目を剥いていた。
屈強を誇る女戦士のライフゲージは一瞬にして底を尽き、その長身が膝から崩れ落ちて地面に倒れ込んだ。
激しい戦いはあっさりと決着を見た。
女戦士はピクリともせず即死した。
やっぱりこうなったか。
僕は半ば予想していた結末に内心でそうつぶやいた。
女戦士を一瞬にして葬り去ったのは、ミランダの伝家の宝刀・『死神の接吻』だった。
「フンッ! ザマーみろっての!」
そう言うとミランダは得意げに両手を腰にやり、横たわる女戦士の亡骸を見下ろすのだった。